第二十二話 交差する意志
ご覧いただきありがとうございます!今回は少し大敷洲帝国の情勢を追加しました。
大敷洲帝国
帝都 西京都
宇治橋駐屯地
宇治橋区にある陸軍駐屯地内の本部兵舎では、帝道派軍人達が椅子に腰掛けて煙草を燻らせながら机の上に敷洲列島の地図を開いて蝦南地方や東武地方、首都圏の西中地方の一部地域に筆で赤色のバツ印を付けていた。
赤いバツ印を付けている他に机の端っこに自動車や竜騎兵、戦車、大砲、歩兵の駒などが置かれていた。恐らく椅子に腰掛けている彼等が率いているか帝道派の同志達が率いている部隊の事を指しているのか、帝国国内の重要施設が位置する場所に配されていく。
「非常に先進的な人道観や道徳観、文明力を持っている日本なら我々の意志を理解するか妥協してくれるかもしれないな」
「ええ。共和国との交戦をまとめた資料を見るに、日本と我々は同じ考えを持っている事が伺えます。敵とはいえど騙されて働かされていた国民に対して素晴らしい対応をしている点など我々の行動と一致しています。それに比べて我が帝国国内の一部貴族はどうですか?郷土愛は全くなく、奉州の開発ばかり口走って外地にばかり投資して地元民の血税を自分達の良い格好の為に使っているじゃないですか」
「松永大佐の仰る通り、まるで我が敷洲からの離反を狙っているように自分達の門閥の息が掛かった企業が外地に力を入れ、不平等な共同体が形成される事で拝金主義が加速するでしょう。それに一般企業が門閥系企業による強引な吸収も起こる未来は遠くないと思います。その為に我々が聡明なる皇族の皆様や皇帝陛下による親政を実現させることで、冷酷かつ無意味な社会形成に歯止めを掛ける事が出来るかと」
帝道派を率いる陸軍大将の『荒川眞三郎』の日本に対する期待から始まり、陸軍大佐の『松永貞一』と陸軍少佐の『越智信広』も一部の貴族による独占的な経済政策と利己主義に対する不満を口にする。
また、若手の越智に至っては大尉時代に偏った経営に明け暮れる門閥系貴族をよそに郷土の安定に奔走する傍ら蝦南地方の格差が開発途上にある外地に追い抜かれかねない状況を目の当たりにして来た身であることから、他の二人よりも感情的になっている。
「越智よ貴様の意見は一般国民の家庭に生まれたからこそ国民生活の低下を憂い、守って来たからこそ言えることだから間違っていないぞ。現に、皇帝陛下は放蕩行政に明け暮れるダニ共に代わって大嵩首相と共に暖かいうえ慈悲深い親政を執り行われ、乱れかけていた風紀を正された。だからこそ辣腕を発揮された皇帝陛下によるご聖断のもとで再び親政を実現すべきだ」
「だが、ダニ共は皇帝陛下による慈悲深い対応によって軽い処分で済んだにも関わらず。国政への進出や大義なき侵略戦争の発生による経済特需を期待している節がある。この清く美しい我が帝国を血も涙もない吸血鬼国家へと変えようとするダニには地獄を見てもらおう。我々が真の敷洲を取り戻すと同時に生まれ変わらせる必要がある」
「私も強硬手段による腐敗門閥制圧は素晴らしき案だと思います。しかし、日本及び大嵩首相の内閣といった国務機関の理解を得るかが問題でありますが……事情を知れば我々の大義に気付き、理解してくれるものだと思います」
荒川と松永は越智の意見を肯定しつつ、自分達が行うクーデターの趣旨である皇帝の義仁による親政を確立させることで政治腐敗を殲滅し、その根源である利己主義の門閥系貴族とそれに追随または近い思考を持つ者の武力排除といった計画を再確認した。
越智もクーデターに対して賛成しているものの、日本の動向に対して疑問を抱き始めながらも同じ言葉を話し似通った歴史を歩んだ彼の国なら理解するものだと信じて疑わなかった。
だが、日本皇国が美徳として来た弱者救済という考えが共通している彼ら帝道派による悲しくも切ない安堵と期待が悲劇の引き金となることに成るとは誰も予測出来なかった。
大敷洲帝国
帝国領奉州・海四楼
海四楼は大敷洲帝国の帝都、西京都に直結する外地の港湾都市の一つで帝国による先住民族との連携や共存を重視した政策が執り行われて来たことから、近代化に成功しつつも大敷洲特有のものも活かされている昭和三十年代の日本と戦前の日本のような景観が入り混じった地域だ。
石油事情がマシなことも相まって技術の解放がある程度進んでいるのか、一般市民のものと思われる小型のセダン車や二輪車が道路を普通に走っている事が伺える。
国民の生活水準が高度に発達しているにも関わらず鉄道や道路が混雑していない要因の一つでもある翼竜を使った空中運送も盛んなのか、農業地帯から来たと思われる者が翼竜の背中に買い込んだ荷物を載せていた。
そんな賑やかな喧騒をよそに郊外に設立された仮設駐屯地には正式に日本皇国国防陸軍の第一機甲師団や第七五歩兵連隊、海兵隊の第三海兵師団が駐屯している他、東に一キロメートル先にある飛行場には国防空軍航空隊の戦闘機や攻撃機、陸軍のヘリコプターなどが駐機している。
「遠路はるばる我が帝国の外地である海四楼に来ていただきありがとうございます。共和国の脅威が去り、ようやく貴国と共に繁栄を目指す余裕が確保できそうなものの国内の情勢は少々変動しているため、歩調を合わせて行けるといいですね」
「愛里寿皇女殿下からの御会釈を賜り感謝申し上げます。私は日本皇国国防陸軍大佐の敦賀正であります。貴国の事情に至っては我が国でも共に手を取り合って解決しようという話が上がっておりますので、私としても良い方向に進むことを願っております」
自らの足で国防軍の仮設駐屯地を訪問して来た帝国第二のように単発で射撃する事が可能な他、ご存じだとは思いますが機関銃のように連射する事が可能です。良ければ実際に試されますか?」
「よろしいのですか?では、お借り致します」
「「ア」が安全装置で「タ」が単発で「レ」が連射になりますので反動にお気を付けくださいませ。ここのコッキングレバーを引けば射撃可能です」
愛里寿は佐官の一人から国防軍の装備の一つである03式小銃(史実における20式小銃)を紹介されると、慣れた手つきで小銃を手に持って射撃体勢を取ると傍に控えていた女性隊員から説明された操作方法を理解したのか三発は単発で射撃した次に連射で弾を撃ち切った。
銃弾は全て的の中心付近に命中しており、彼女の腕の高さを示しているかのようだった。
「お見事です!使い心地は悪くないでしょうか?」
「ありがとうございます。連射に関しても慣れてしまえば肩こりが解れるみたいで良かったです。これを前線の兵士の方に持たせているなんて貴国の技術は充実されていますね」
「お褒めの言葉を賜り感謝いたします。まだまだ愛里寿殿下にご紹介したい我が軍の装備品がございますので、ご案内致します」
愛里寿は射撃場を後にして、佐官や護衛の者たちと共に別の国防軍装備が待っている場所へと向かうのだった。
因みに彼女自ら国防軍の臨時駐屯地に訪れた理由としては、帝国軍の中枢に立つ者の一人としてこれからの軍の戦術のあるべき姿を見出すために自身の手で前線の兵士達の生存性を極力高める兵器がどの様なものであるかを知りたい事に加え、新しい戦略作りのヒントを得ようとする為であった。
大敷洲帝国
奉州総督府庁舎
総督府庁舎には国防陸軍の今村大将が訪れており、敷洲帝国軍元帥の山城奉治や外務大臣の麻田喜重郎と日本の内閣府で取り決めた大敷洲帝国に関連する有事の際は日本皇国の陸海空国防軍を出動させて敷洲帝国国民を不穏分子による反乱から保護する事に加え、全力を挙げて不穏分子が率いる暴徒の鎮圧に当たるといった緊急事態時における正統政府への協力案について話し合っていた。
「別の世界から来た貴国がお忙しい中、我が国で起こりかねない危機に助太刀して頂けるなんてとても心強いと思っております。私としては貴国の提案に不満はございません」
「外務大臣を務めている私としても貴国の正統政府支持は有難いものであると思っております。その点については我が国と貴国の意見が一致しているとして、早速取りまとめる事が出来そうなものであると考えております」
「ご理解いただき大変恐縮でございます。折角こうして我が国と同じ言葉を話している他、文化がほぼ一緒でありますのでこの世界にとってかけがえのない存在と考えています。故に不穏勢力から由緒ある帝国を守っていくべきだ。というのが我々日本人の答えであります」
元々住んでいた世界が異なるものの同じ言語を話すうえ同じ国家観を持つ者同士、思考が一致していたのか円滑に進んでいった。
山城と麻田の二人は対外的な屈辱を受けた事が無い敷洲が必要以上の拡大路線に進むことを憂いている保守派の重鎮でもあり、この世界に転移して来た日本皇国が本気を出せば一年も経たないうちに世界の半数近くを席巻するかもしれないにも関わらず高圧的な態度を取るどころか対外協調路線を目指してこの世界の一員として発展に貢献しようとする姿勢に感心を抱いていた。
危機的な状況にある敷洲と日本の両政府は信頼すべき相手を見極めていたのか、この密談は円滑に進んでいた。
「今村閣下は信頼できるお方ですからお話し致しますが、皇帝陛下及び大嵩首相にはこの事を事前にお知らせしてこの奉州内の安全な場所にて護衛しております。しかし、帝国軍の穏健派閥で占められている奉州といえど不測の事態が起こりえるかもしれません。誠に申し訳ないのですが、我が国の皇帝陛下を我が軍と共に貴国の皇国国防軍と護っていただけますでしょうか」
「承知致しました。我が国の中渕首相も不測の事態を最大限予測して備えておりますゆえ、我々としては願ってもない事であります。我が国や軍の威信にかけて皇帝陛下及び大嵩首相、良識ある方々をお守りいたします」
「今村閣下、我々敷洲人と致しましてはこの上ない感謝であります。早速、この密談の経過と密約の成立を陛下と首相にご報告いたします。また、貴国には共和国を捻じ伏せた実績があるとはいえその戦力に対して不安視する国民も出て来ることと思いますが、我々は勿論日本皇国は侵略性を持つ国家ではないという事を共にお伝えしていく所存です」
山城や今村、麻田の三人は敷洲の文民政府をいかなる理由が有れど護り通さねばならない意志が合致していたのかこの場において衝突なく密約の取り決めまで行われる事となり皇帝の義仁と首相の大嵩の保護に取りかかるのであった。
これから敷洲政府を護らんとする日本と帝国軍の正統派と汚名を着せられても帝国の未来を憂い、現体制を一新したうえで真の敷洲を創り上げようとする帝道派との短くも濃く、儚く敷洲史と日本史に残る激動の時が訪れようとしていた。
お疲れ様です。次回から数話ほど続く内乱編の始まりとなる第二十三話を投稿致します。
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