第二十一話 新たな舵取り
ご覧いただきありがとうございます。引き続きお楽しみください!今回は日本皇国における災害も少し混ぜてみました
日本皇国
首都 東京
民政自由党本部
民自党本部では閣僚を中心に議員会議が開かれていたものの異世界の平和を願う者に政党は関係ないのか、転移する十六年前に民自党が政権を奪還する前に政権を担っていた日本民社党の元代表かつ元内閣総理大臣の『海崎敏則』と前総理の西條知之も招かれていた。
民自党と日本民社党は日本皇国の二大政党で、前者が自由主義を掲げる小さな政府寄りかつ多くの諸外国との対外協調を重視した中道的な政策を持つ政党だ。一方、後者が大きな政府寄りの政策を掲げながら日本を第一に対外関係はアジア、中東諸国といった同盟国重視のスタンスを取る自由主義よりも保守主義色が濃い政党である。
それでも震災や国際紛争、経済危機の際には対立無く政党の垣根を越えて迅速に連携する事から日本皇国憲法が制定されて以来、両政党は多くの国民から慕われている。
「こうして五年前に議員を引退した私がまた西條さんと一緒に話し合うなんて二十年ぶりですな。西條さんが下野時代の民自党で幹事長をしていた時に起きた『京浜大震災』で連携した時の事を思い出すよ。三年前の『西日本大震災』では二十年前と違って津波が起きたにも関わらず和歌山や徳島、高知はそれが嘘のように復興が完了しているから私のような老いぼれよりも西條さんが頼りに成ると思けど……私で良かったら」
「いえいえ、私こそ海崎元総理や諸先輩方から学ばせていただきました。総理の椅子から降りる前に被災地が復興出来た事から政治に心残りはありません。ぜひ、海崎元総理のご意見も聞きたく存じます」
海崎は政治とカネの問題で党内が混乱して国民から不安視される民自党からの政権交代を実現したうえ、バブル化しかけていた経済に歯止めをかけた事で現在まで続く安定した経済の基礎を作り上げたものの総理に就任して一年経った頃に起きた京浜大震災では、早急に国防軍の救助隊を派遣して被災者の安全を確保するといった功績を残している。
また、京浜大震災当時に民自党幹事長を務めていた西條は野党として行うべき震災対応に右往左往している他の党幹部をそっちのけにして実力派の党員を取りまとめて民社党政権に協力する姿勢を固めた事もあったことから十年間も総理大臣の座に就けたものの在任期間に起きた和歌山や高知、徳島などの沿岸都市を大津波が襲った西日本大震災に直面すると、海崎と同じく国防軍の救助隊を早急に派遣して被災者の安全を確保した事は勿論、野党からも災害対策のプロを入閣させるなどして一時的に大連立政権を組んで犠牲を抑えたほか、改修が追いついていなかった一部の原子力発電所の改修及び強化を積極的に行った。
「分かりました。私的に現在の特別統治地域の復興及び開発支援が現地住民の方の下で組織された郷土自衛軍の工兵部隊とその補助に当たる我が軍の手によって進んでいるものの、我が国からの独立に向けて地域元来の生活様式に合わせつつ自然と便利さが共生できる田園都市化や農業の充実化や旧共和国政府の国営工場がありましたから、その設備をある程度更新していくべきであると思います。私からは以上です」
「ありがとうございます。私も海崎元総理と同じ考えであることから大いに賛成いたします。問題はこの地域に住まう民族の方は多民族な傾向にあるものの同じルシア語を使用していますから、将来的には民族事情を考慮し無ければいけません。そのため個人的には第二次世界大戦後の中国が我が国と協力して穏健な形でチベットとウイグルをまとめたように自分の故郷やその国に住んで良かったと思えるような国を作っていただくためにも……連邦制の導入を支えるべきであると思います」
二人の元首相は今日本が抱える特別統治地域の行方と今後の発展構想について語り終えると、民自党議員たちがメモ帳に二人の会話をまとめているか隣や前後で話し合っている事から会議は滞りなく進んだ。
「両先生の貴重なご意見をお聞かせいただきありがとうございました。今後は特統地担当大臣である私が総理や野党の皆様と話し合う形で特別統治地域の発展に尽力したいと思います。今後とも皆様からのいご意見がございましたら、遠慮なく私に申し上げてください」
「なお、これからは特別統治地域のみならず新たに同盟国となる諸外国との関係構築模索について話し合う機会が増加すると思いますので共に話し合っていきましょう」
『福井康晴』特統地担当大臣と『和泉純吾郎』幹事長の一言で一時間近く続いた会議は閉幕し、特別統治地域の今後を取りまとめたのだった。
こちらの世界の日本にも災害が容赦なく襲い掛かって来たものの、その教訓を活かして特統地の復興やリスクを避けれる分だけ避ける産業発展を支援するための構想が始まったのだった。
日本皇国特別統治地域
マリキフ
マリキフは豊かな自然と土壌に恵まれているため、干ばつや飢饉といった自然災害が降りかかった事が少なかったものの共和国による再侵略を受けた際には主要穀倉地帯と位置づけられてしまい、平等に農地を分け合っていた先住民から農地を取り上げて国営化した挙句、バランスを保って蓄えて来た食糧を配給制にしたことで人為的に飢餓寸前にまで追い詰められたものの日本と共和国との戦争が終結すると元の所有達の手に戻り自由な農業が再開されようとしていた。
「諸君には市街地の耐震補強と道路整備を行ってもらいたい、何か分からないことがあれば遠慮なく私に言ってくれ」
「大佐、もうすぐで本土から送られて来る現地住民向けに配給する旧型自動車が到着する予定なのでここから一キロほど離れた平原に仮設教習所を設立したいのですが……」
「そこはまだ新規施設建設が未定だからよろしく頼むよ」
マリキフに派遣された第六工兵大隊を率いる『佐竹正利』大佐は今回の戦争でゲリラ化していた住民を郷土自衛軍の隊員として迎え入れた後も他の国防軍隊員達と混ぜて、陣頭指揮を取ったり政府から派遣されて来た官僚達と話し合いながら市街地の近代化と復興を進めていた。
彼もまた戦災の他に、京浜大震災や西日本大震災での復興支援に当たった経歴もある事からその経験を活かして精力的に働いていた。
「しかし、農地が綺麗な状態で使えることが奇跡ですね。それに加えて市街戦に成らなかった事から景観を保ったまま建築物の改修や最近の調査でバイオマス発電を利用した現代的な電力供給が実現可能であることから田園都市化は実現しやすいかもしれませんね」
「そうだね。共和国に搾取されて来たこの地域は明るさを取り戻してきているから民族的な自身も付けて立ち上がって欲しいものだ」
佐竹とその補佐官が仮設兵舎で会話している傍ら、道路が舗装していたり伝統ある景観を保持したまま最先端の現代技術の結晶である重機や電子工具を活かして建築物の改装工事や王国と結ぶ鉄道路線を構成する駅舎設置も兼ねた鉄道敷設工事も行われていた。
「佐竹大佐、これまで旧態依然に近い農業が行われていたこの地域で共和国により外地開拓に従事させられていた住民が戻って来たことから人口低下は避けられる可能性も上昇しましたので、この戦争により起きた焦土作戦や強制移住などで行き場を失った非戦闘員の誘致を行って、北陸のような人口増加が進む近代的な農業地帯を目指すのもいいかもしれないですね」
「ああ、戦争の怖いところは武力衝突による戦闘は勿論、戦災によって元の住環境を失ったことにより経済的低迷に加えて新しい反社会的勢力台頭のきっかけにもなったりするからな」
佐竹が言うように元いた世界でも戦災による国体の崩壊や住民に対する強制移住が招いた地域の不安定化の反省点を活かしつつ、非戦闘員の受け入れを視野に入れて復興も兼ねた再開発に力を入れ始めた結果、郷土自衛軍の隊員や農業用機械に対して知識がある住人に国防軍の隊員達がトラクターの操縦方法を教えているほか、住民達に対して炊き出しを行いつつ日本による地域開発の意見を聞きながら農地の拡大と並行した工事を進めているため、ゆっくりと農業近代化の歯車も動き始めたのだった。
日本皇国
首都 東京
首相官邸
首相官邸の総理執務室には防衛大臣の谷岡と官房長官の安藤が訪れており、彼らと大敷洲帝国の情勢について話し合っている中渕は今までよりも重たい情報に腕を組んで考え込んでいた。
無理もない大敷洲帝国軍の狭間弥三郎大将を通じて得た詳細な情報は、同帝国内に存在する帝道派という強硬派勢力の動きが活発気味であり武装蜂起寸前という状況下にあるというものだった。
「中渕総理、このまま政治思想を衣替えした左派勢力を吸収した帝道派を放ったままの状態だと親政を目的としたクーデターが起こりかねないですよ。我が国ではクーデターを未然に防いで来たものの、帝道派に近い皇道派が活発化した歴史もありますから、何とかして手は打てないものでしょうか?」
「私的に思うやり方としては、王国に派遣している戦力の一部を正式に派遣して帝国政府との連携を図るべきでしょう……しかし、もう一つの策としては我が軍に一任して手っ取り早く制圧するのを理解していただいた上でという手段も考えられます。しかし、帝道派の政治思想的にも交渉の余地はありそうなものの、いつアクションを起こすかは全く予測出来ませんね」
「谷岡防衛大臣と安藤君の言う通り、いざという時に備えておく事が大事かもしれませんね。それに加えてほどほどの距離感を保っておかないと現敷洲政府を守るのに必要な理由付けも出来ないし、帝国時代の我が国を護り国民との距離を縮めようとされた大正天皇に瓜二つのお姿を持たれた義仁皇帝陛下のお顔に泥を塗りかねないですね」
「我が国において国内情勢の不安定化が原因でクーデターが発生した事が無いものの、大敷洲帝国は我が国が転移してくる六年前に東北地方的立場に該当する蝦南地方では国全体が恐慌の煽りを受けたにも関わらず一部の行政機関や貴族、財閥が皇族と議会の眼をかいくぐって癒着したうえ、緊縮財政を悪用して有効策を講じなかった事から臨時で皇帝陛下自ら親政を行って優柔不断な行政機関に代わって今の大嵩首相や他の皇族と共に風紀が乱れていた蝦南地方を安定化させた結果、多くの住民が救われたもののこれを機に皇帝陛下を始めとされる皇族を絶大に支持する帝道派が出現し、彼らの目標である親政国家実現を招くことに繋がったそうです」
中渕は谷岡と安藤からもたらされた帝道派の情報を聞き終えると、一度眼鏡を外した後に机に置かれたおしぼりで顔を拭いてから眼鏡を掛け直して一息ついた後にやや苦し気な顔で口を開いた。
こちらの世界の日本は第一次世界大戦を通じて史実と違って満洲を支配していたドイツ帝国から満州を獲得すると、諸外国による干渉避けに満州国を設置して世界情勢を観察しつつ朝鮮半島を加えたブロック経済を行っていた事から恐慌の影響は微々たるものだった為、軍部の台頭は避けられたものの強大ながら深刻な社会情勢を抱えた大敷洲帝国で帝道派が誕生した経緯に同情せざるを得なかった。
「もしかすると私は日本が議会制民主主義を採り入れて以降、歴代一残酷な首相に成るかもしれません。帝道派から敷洲という生まれ育ち愛した国を変えて護り続けようという愛国心や義仁皇帝陛下に対する忠誠そして、弱者の側に立とうとする意志を感じるものの逆賊になってまで多くの血を流す事に成る以上、何としても叩くべきだと思います。谷岡防衛大臣、大敷洲帝国政府との密約になりますが帝国国内における有事の際は大敷洲帝国国民の生命を保護する為に陸海空国防軍が全力をもって反乱軍の鎮圧に当たるという旨を帝国政府にお伝え出来ますか?善良な敷洲人の方を荒唐無稽な流言飛語や同情を煽る決起正当化工作から守る為にもあらゆる戦力投入は惜しみません」
「分かりました。総理がやろうとしている事は決して間違っていません。泥なら防衛大臣の俺も一緒に被ります」
「私も総理の意見に賛同いたします。国民の皆様も元の世界で長い歴史を通じたからこそ、どちらに大義が有るかはよく理解しているはずです」
「二人ともありがとう早速行動に移してください。開いてはいけない箱が空く前に抑えることがこの世界に来た我々の使命かもしれませんね……」
しかし、中渕は如何なる理由が有れどこれからこの世界において非常に重要な存在となり得る大敷洲帝国で起こりかねない事態に対して腹を括り、世界が違えど同じ言葉を話す者による不逞の行いにも断じて妥協しないという姿勢を固めた。
無論、彼だけでなく付き従う谷岡や安藤たちも同じ意志を固めて再び戦火が燃え上がろうとする現実に向き合うのだった。
ご覧いただきありがとうございました。次回の第二十二話から大敷洲帝国編に入って行きたいと思っています。皆様の評価やご感想、ブックマークへの追加などお待ちしております




