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第十九話 戻って来た穏やかさ 後編

ご覧いただきありがとうございます!今回も日本独自の法律体制が出てきたりしています。

引き続きお楽しみください!

イタリ・ローマ王国

王都 ビザン・ティノプル

宮廷内の応接室にはイタリ・ローマ王国国王のイザルベライト二世やルシア臨時政府軍のバグラテオンやジュコーフ、大敷洲帝国皇女代行の島田美保近衛機甲団団長そして日本皇国からは中渕内閣外務大臣の『吉生太一(よしおたいち)』が出席し、椅子に腰掛けて戦後処理会談を始めようとしていた。


「皆様、本日はお集まりいただき誠に感謝申し上げます。終戦から三日近く経とうとしていますが、旧共和国もといルシア各地は王国軍をはじめとする各国軍の皆様のおかげで非戦闘員の方を駆り出そうとしていた徹底抗戦派の牙を折ることが出来ました。そこで避けて通れないのが戦後処理とジュガーリン体制の下で過剰に肥大化した共和国領の今後について各国の皆様と意見交換を行いたいと思います」


「私が率いるルシア臨時政府軍及び自由革命軍のジュコーフ殿と話し合った結果、今回の戦乱は共和国政府が全ての元凶であるため他の諸外国の皆様の判断を聞き入れたいと思っております」


「私もバグラテオン殿下と同じく各国の皆様が持たれている戦後の展望を中心に聞き入れたいと思っております」


イザルベライト二世の言葉で会談が始まると旧共和国側の二人は他の三ヶ国に対する譲歩とよほど酷いもので無い限り口を挟まないという姿勢で決まっていたのかほぼ三ヵ国の判断に委ねる事にし、この場において一番に発言すべきという目線が吉生外務大臣に注がれる事になった。何せ今回の戦争において日本側に付いた王国や帝国、反共和国勢力の戦死者を出すことなく戦線を広げ共和国を降伏させた功労者だからである。


「ヨシオ外務大臣、二ホン皇国のお考えをお聞かせいただけますでしょうか?」


「国王陛下、我が国が国会や世論を通じて出た答えとしては今大戦の英雄であるバグラテオン殿下及びジュコーフ殿が新生ルシアの指導者として立つべきだというものであります。この会談を開始するまでの間で今回の戦争に関する資料を目に通していたのですが、バグラテオン殿下を皇帝に据えた新ルシア帝国の復権を望む国民が大半でありジュコーフ殿を新指導者として望む声もあります。しかし、ルシア復興として欠かせない条件としては真の民族自決とジュガーリン体制下において行われた侵略戦争で獲得した地域を独立させたうえでの自治権回復が望ましいと思います。無論、その件については貴国の国民投票を通じた上で確立したいと考えております。また、現在我が国が統治下においている旧共和国南部地区に至っては我が国が主導する形であることを了承していただきたく存じます。しかし、完全占領までに至らず一部の外国領土を不法占領している領土は直ちにその国に返還するのが新生ルシアに持っていただきたい筋であるというのが我が国の答えであります。最後にお伝えする形になりましたが、我が国は新生ルシアを従属国化する気はありませんのでご安心ください」


この時、吉生がイザルベライト二世に対して述べた戦後ルシアに対しての処遇を語り終えた頃になると旧共和国側の代表である二人は日本側が提示した戦後処理条件の良さに驚きを隠せなかった。

多額の賠償金支払いを免除出来たとしても他の三ヵ国による分割統治もしくはゴルバ・グラードといった近代的な港湾地区は半世紀近くの租借地化が免れないものであると考えられていたからだった。

流石に日本が住民からの信頼を得て設立した特別統治地域の統治継続了承や占領地の独立及び返還については承諾する気だったもののこれからルシアを再構築していく上で必要不可欠なものを失わないで済むうえ日本の従属国にならないことについて正直喜ばざるをえなかった。


「吉生殿が今仰った戦後処理案は我が大敷州帝国が理想の一つとして掲げている外地統治政策と一致している事から大いに賛成します!よって我が帝国の皇女殿下並びに皇帝陛下そして、臣民を代表する私から異議はありません」


「私も島田皇女殿下代行の意見に同調いたします。二ホン皇国が掲げる対外思想は今後この世界でも大いに浸透させていくべき考えであると思います」


「皆様のお慈悲を感謝いたします。我がルシアとしてはこの処理条件に異議はありません。また、二ホンが現在イタリ・ローマ王国と国境を接する旧南部地区に至っては二ホンの統治下であり続ける事にも異議はございません」


「バグラテオン殿下と同じく願っても無い条件である為、この条件での処理を希望いたします」


「こちらこそ聡明な判断を下していただきありがとうございました。イタリ・ローマ王国及び大敷洲帝国のご賛同に感謝御礼申し上げます」


こうして同盟国であるイタリ・ローマ王国や大らかな姿勢の大敷洲帝国そして、新生ルシアの土台となりうる反共和国勢力の賛同を得たことで穏便な戦後処理が決定したのだった。

今回の戦後処理条件は日本国内では武士道と先人の理想を尊重した上で計画したとして吉生太一外務大臣をはじめ中渕内閣の支持を不動たるものとした。

また、戦争中から秘密裏に交流があった『スオミランド共和国』やバルトニア諸島を越えた先にある『ポルスカ国』、日本が転移してくる前から連合共和国との紛争が絶えなかった極東部の『ジンギスカン首長国連邦』といった三ヶ国は日本皇国を『異世界から来た中小国の守護者』として大いに賞賛し、イタリ・ローマ王国や大敷洲帝国、新生ルシアの基礎に成ろうとしている二軍に対して戦争勝利の祝電を送ったのだった。

無論、日本もこの三ヶ国を帝国主義を掲げる大国の脅威から保護する為の準備を進めながら穏やかな接触を予定している。




日本皇国

首都 東京 首相官邸

首相官邸では総理大臣の中渕と内閣官房長官の『安藤晋介(あんどうしんすけ)』と外務大臣の吉生がこれからの異世界について話し合っていた。戦争が終結した事により次の異世界議題となる三ヶ国に対する国内開発援助や大敷洲帝国との同盟締結、日本皇国の特別統治地区内の情勢や国内情勢を始めとした個人的な意見交換だった。


「安藤君と吉生さんが言うように、この異世界で我々が元居た世界と同じ過ちを繰り返さないようにしないといけませんね」


「せっかく官房長官として総理のおそばに置かせて頂きましたから率直に申し上げると、勢力が弱まったとはいえど未だに高齢の構成員が予備役として従軍経験がある『盟朋大赦教団』の教徒たちの監視を継続していても世論からの批判が有ったとしても微々たるものでしょう。次にこれまでもそうであったように宗教国への干渉は極端かつ異常性が高いカルト教でない限り避けるべきであると考えております。出来る限りこの世界の国々の公安部もしくはそれに該当する機関との連携も強めてくべきであると考えております」


官房長官の安藤は日本が転移する十年前、テロ組織だった盟和道理教団の穏健派が組織した盟朋大赦教団代表との話し合いで教団が掲げる思想の甘さと脆弱さを実例を上げたうえで徹底的に指摘した事で大いな評価を得たもののこれを不服とて逆上した教団の構成員に自宅を放火された経験からお花畑な思想を掲げておきながらテロ行為に走るこの教団の監視と日本が元居た世界でイスラム過激派が生まれなかった要因の一つである宗教国への干渉を避けた上で、ある程度のしきたりをその地域における必要悪として容認すべきだ。という距離間保持も意見として挙げたのだった。


「中渕さん、シンちゃんが言うように俺も外国からの干渉防衛として国内外の馬鹿どもを抑えるべきだと思います。あと俺の話にはなりますが、大敷洲帝国の事は『さすが敷洲の兄弟!分かってるじゃねえか』って言いたいくらい我々の意見に同調してくれる事から我が国との対立の心配はありません。それと、会談の時に皇女代行として来ていた近衛機甲団の団長を張ってる兄ちゃんの気合いの入り方を見て、まんま八十年前の帝国軍人だと思いましたよ」


「二人の意見を聞かせてくれてありがとう。だが、ナチスのヒトラーやファシストを提唱したムッソリーニ、かつて不満のはけ口を大日本帝国にぶつけたルーズベルトのような人物がまだ知らないだけでいるかも知れないから。慎重な舵取りが必要になって来ますね」


次に吉生が安藤の意見を肯定する形で友好国の法治機関と連携したうえでお互いの国の不安要素を一網打尽にする案を述べた後に美保という敷洲人に対して持った率直な感想などを話し終えると、中渕は二人の意見に賛同しつつ自分達が元居た世界で見て来た指導者達のような人物を警戒するのだった。




日本皇国特別統治地域・ルサビノ

日本皇国がルサビノを含めた旧共和国南部地区は現地民の自治権を拡大した緩やかな統治機構を築き上げた事で抵抗や反感を買うことなく統治下におくことに成功した。

現在、戦争の功績から陸軍中将に昇格した藤田が休暇を貰い王国の国防軍関係者居住地区に帰省しているものの同じく休暇が出された第一機甲師団三羽烏の黒田や小棚木、蝶野が宿営地のベッドに寝転がって戦闘の経過報告を眺めていた。


「それにしても……いつの時代も外道には容赦ないね」


「そうですねクロさん。ヤーベリっていうベリヤのコピー版いましたよね?そいつの取り巻きもお察しな奴だったのか、我々に対して友好的な反共和国ゲリラが従軍報道者を案内した先で外道達を晒し首にしていたり、大人数で悪質な権力者を引き摺り回したのか血だるまの死体が何体もあったり『私は女性を虐げ快楽の道具にしていました』という言葉が書かれたプラカードを首に堤げて、死体を街頭に吊るしていたりといった光景が散見されたそうです」


「昭和後半の日本とか世界的にあった不良狩りと強姦魔狩りみたいですね。あと、まんま『スターリン最後の十二日間』っていう映画みたいですね」


「ナギ君、結構読み込んでるんだね……でもやっぱり因果応報って怖いよね。そうそう昭和の時にあった不良狩りと強姦魔狩りは俺の地元はそんな奴がいないくらい平和だったから無かったんだけど、カツアゲとかおやじ狩りしてたやつに関しては地元の自警団とか地周りのヤクザさんに捕まると絶対に目が失明するか体の一部が一生使えないくらいボコボコにされたりとか、当たり所が悪くて不良少年を殺しても謹慎と役員交代だけでお咎め無しだったり、逆に逃げたら自警団から鉛玉が飛んで来り強姦魔狩りに関しては強姦魔を殺しっちゃっても問題なかったから警察による射殺が当たり前だったし、自警団に捕まった場合は車で引きずり回されるとか被害者さんと自警団が一緒になって強姦魔を原型が無くなるまでボコボコにするとかあったみたいだよ」


降伏前後の共和国内で起きたふんぞり返っている権力者たちに対する報復として不満や怒り、哀しみに満ちた人々といった暴政の被害者に共感した人々が手を取り合った結果、腐敗していた政府幹部や軍の幹部は捕まるやすぐに激しい暴行を加えられた後に容赦なく吊るしあげられたのだった。

また、この世界の日本やドイツ、イタリア各国の刑法は犯罪被害者が泣き寝入りする事がなく軽犯罪に至るまで徹底した取り締まりが行われ、弱者を傷つける強姦や強盗致傷にまで死刑が適応されたりするほどだった。

因みに史実通り少年法が存在するものの更生すべき人間と守られるべき人間だけが適応され、犯罪の凶悪さや外道に年齢は関係ない。というのが日本をはじめとした世界の共通点であり国際法にも善良な人間のための人権法と明記されている程善悪の区別が徹底されていたのだった。


「それ父からも聞いたことありますよ。まあ、外道の話は終わりにして楽しい話でもしましょうぜ」


「楽しい話といえば、黒田大尉って有翼人のお姉さんとデキてるんですか?」


「蝶野君、それって勘違いしているよ。俺はアーニャさんとは話しも合うけどそこまで関係は進んでねえよ。彼女と仲が良いのは否定しないけど」


「クロさんはそう言いながら自分がモテてるの自覚出来て無いんじゃないすか?だって補給班や整備班の姉さん達から結構いい評判ですよ」


「いやいや、それって蝶野君かナギ君の事じゃねえの?第一に撃たれるかも知れない状況の中でせっかく予備役から志願して補給と戦車の整備に来てくれるんだから暇があれば手伝うのは当たり前の事じゃなかったの……ん?」


蝶野が黒田に関する女性話を始めると、小棚木も蝶野に同調して彼をいじり出す。恋愛経験皆無の黒田は自覚出来ていないモテる行動を無自覚にしてしまっている事から相変わらず鈍感だった。

さて、先輩後輩で楽しく盛り上がっていると兵舎の中を亜麻色髪の女性……アーニャが手招きしながら覗き込んでいることに黒田が気付いた。


「アーニャさんでしたっけ?クロさんの事を見て手招きしてますよ」


「そうみたいだね。アーニャさん!今行くよ」


黒田は二人との話を後にして彼女のもとへ行くのだった。





アーニャと黒田は二人きりで街から離れて話すことにした。彼女は男女二人でいるところ見られるのが少し気まずかったのか近くの川まで来た。

誰も見ていないことを確認し終えたアーニャの方から口が開いた。


「クロダさんこんなところに呼び出してごめんなさい。実は二ホン軍の人が私のもとに任意での頼み事をしに来たの」


「軍の関係者が頼み事……というと自衛軍計画の事かい?」


「ええ、そうよ。私達有翼人種はこの世界の軍事学だと前線の偵察要員や回り込んで後方を突く戦術をやることが多いの。自衛軍に参画した場合は偵察部隊の指揮官をやるのだけど……もし、偵察隊の指揮官に成ったらクロダさんが上官になって欲しいの」


政府による穏やかな統治政策の一環としてこの統治地区の人達の自治権拡大を目的に『郷土自衛軍』を創立する事で民主主義国家復活の基礎作りも兼ねられていた。

日本は日独冷戦初期の装備を郷土自衛軍に提供することで本格的な軍隊化を目指しているものの、戦争の脅威が無くなったため志願制での創立が計画されていたのだった。そこで日本は反共和国派の元ゲリラといった戦闘経験者を幹部に登用する事で組織体制を強化する事も目指していたのだった。


「確かに戦闘報告を見ていると、アーニャさん以外の有翼人ゲリラが少数精鋭で敵後方に回り込んでそこそこの被害を与えたという実績もあるから特殊部隊運用もしくは偵察任務が最適かも知れないよね。今後、戦闘がないだろうからゆっくりする時が大半だけど。その時が来たら俺みたいな奴で良かったら一緒に戦おう」


「ありがとう!クロダさんならそう言ってくれると思ったわ!あともう一つお願いがあって、一応二ホンの武器を使わせてもらうみたいだから色々教えて欲しいかな……って思っているの」


「それに関してもある程度の旧式装備が到着したら一緒に個人演習が出来るだろうし、準備が整ったら声をかけさせてもらうよ」


アーニャと黒田はうまい具合に反りが合うのか、郷土自衛軍創立前から独自の混合部隊を考えたりするほど仲が深まっていた。さて、次に彼らが活躍するのはいつになることだろうか。


ご覧いただきありがとうございました!次回は第二十話を投稿する予定です!


皆様の評価やご感想、ブックマークへの追加などお待ちしております!



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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です。 >戦後処理 ルシアの戦後処理は上手いこといきそうですね。それにどうも他の帝国主義を標榜する国家を相手に対立するようですから早急にルシアには立ち上がってもらうとも受け取れ…
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