第十八話 戻って来た穏やかさ 前編
ご覧いただきありがとうございます!前回不足していた。ジュガーリンが自殺するまでに至った経緯と日本の国会でのやり取りを追加しました。
ボリシェ・コミン主義連合共和国
首都・クワモス
降伏する六時間前の地下総帥官邸ではジュガーリンが陸海空軍三人の将軍達を総帥室に呼び出していた。ここに残った将官達はジュガーリンと社会党の態勢に心酔した者達ばかりであるものの彼からの指示を静かに待っていた。
そして、開戦時と比べて憔悴しきった表情のジュガーリンから正気を感じない調子で口が開いた。
「同志諸君。このような現状でも君たちは私に付いてきてくれるかな?」
「勿論です!親愛なるジュガーリン総帥閣下の為なら最後の一兵となるまで!!」
「ふふふ……そうか嬉しいよ。では、地獄にも付いてきてくれるかね?」
「へ……っ?!」
ジュガーリンの一言に愚直な態度で忠誠を口にした将軍の一人が涙を流した彼に肩を叩かれた直後に言われた言葉に耳を疑う間もなくジュガーリンが手にした拳銃の乾いた発砲音と共に頭を撃ち抜かれ、残った二人もジュガーリンに声を掛けるも間もなく銃弾に頭を撃ち抜かれて床に大きく倒れた。
「そうだっ!!いつだってそうだ!!私の愛する妻子を奪った帝政派の奴らとその帝政派に協力していた下等思想者やヒトモドキ共もいざとなれば今の私のように狂人となるんだ!!あははははははっ!!でももう何も怖くない……私はこの戦争で死んでいった兵士達という地獄まで付いてきてくれる仲間がいるじゃないかっ!!」
「そ、総帥閣下!!これは一体!!」
「ははははっ!フルスチャフ君かぁ!残念だけど幸せな君は連れて行けないなぁ……私はもうこの国で好きなようにして来たからあとは君の好きなようにしたまえ!!異世界人共に裁かれて私のやってきたことが暴かれるくらいならこうして先に逝くよ!!」
「閣下!待ってくだ……」
部屋に入って来た『ミハイル・フルスチャフ』社会党委員長が理性を失い狂人と化したジュガーリンを説得しようとするものの発狂して支離滅裂な譫言を喚き散らかしている彼に言葉が通じるわけもなく、ジュガーリンは自身の頭に銃口を当てると発砲音と共に脳脊髄液と血液を飛び散らして床に倒れ込んだのだった。
強欲さと恐怖で支配する独裁者が居なくなった今、フルスチャフの脳内にはある意味強力だった彼という統制力が失った事と百万人以上の戦死者が出ている事が薄々と気付かれている事もあり、現実をよく知り洗脳されていない軍の下士官達が軟化している上層部に対して反旗を翻しかねない状況から降伏という二文字が浮かび、日本などに対して降伏を決断したのだ。
共和国第二代書記長ヨセフ・ジュガーリンは生涯の半分を自身のカリスマ性のもとで国を発展させて来たものの自分にとって都合の良い政治体制を築き上げることで国民を洗脳し、人民の公平を謳ったコミン主義の解釈変更を成すことで誤った方角に滑り出した共和国社会党の組織構造を会議での連携を重視した横並びの連合体から自身を頂点に置いた独裁制を敷き、侵略戦争の愚かさを都合よく正当化したことで国内の不満を諸外国に向けることで目先の利益や欲望を手に入れて来た。
だが、ジュガーリンが運転する愚行という名の暴走列車が招いた結果は彼に騙され人間としてあるべき理性や道徳を失った共和国陸海空軍から生じた百万人の戦死者だった。
そして、日本皇国国防軍が首都クワモス眼前まで迫ったところでジュガーリンは遅すぎた自身の暴走に気付き発狂した後に自ら命を絶った。
日本皇国
首都・東京 国会議事堂
日本が重軽傷者を出したものの戦死者を出すことなく戦争に勝利した事から早朝に開かれた国会は与野党の意見交換を行いながら滞ることなく進行していた。
中渕恵二総理大臣は、戦争進行の中で徹底的に穏やかかつ人道的な軍政を指示していた事と異世界という環境への適応化を狙った研修を兼ねた警察官の派遣や元居た世界での反省を活かした近代化を支援していた事が大いに評価されていた。
そんな中、戦後処理として必ず浮上する人権問題にまつわる議題が野党の日本民主社会党代表の『野宮儀彦』衆議院議員から出された。
「中渕総理にお伺いいたします。我が国とボリシェ・コミン主義連合共和国との交戦によって明るみに出た我々人間と異なった獣人族の皆様や共和国が支配していた諸外国及び先住民族の皆様に対する非人道的行為に対しての処遇についてはどの様な処遇を検討されていますか?我々民社党を含めた改進党、自由党、憲政翼賛会の四党が出した結果としましては我が国を主導に徹底した共和国政府高官や軍部の厳罰処分及び自由革命軍やルシア臨時政府軍、イタリ・ローマ王国そして大敷洲帝国の皆様にご理解を頂いた上でルシア地域の改造を行うべきであると思います」
「野宮代表ありがとうございます。我々民自党も非人道的行為を根本から修正する方針で野党の皆様と一致しております。しかし、私としましては日本主導ではなく我が国に対して協力的なイタリ・ローマ王国、勇気と素晴らしき理想を持って共和国政府に立ち向かったルシア臨時政府軍や自由革命軍そして、我が国と瓜二つといえる大敷洲帝国との合議制にすべきだと思います。また、野党の皆様と我々が開戦直前から可決してきた『特別人種関連法』に則って人間族と獣人族に優劣が付かないバランス調整や現代的な法制や条約をこちらの世界でも生み出していくべきだと考えております」
「中渕総理、ありがとうございました。我が国の立場も盤石になりつつある事や総理が持たれているこの世界に対する展望から合議制での戦後処理を希望されている事に納得いたしました。私からは以上です」
「こちらこそ我々の案にご理解いただきありがとうございます。他に異議等ございましたら与野党の皆様からのご意見をお聞かせください」
『異議なし』
こうして日本皇国によるボリシェ・コミン主義連合共和国に対する戦後処理は野党側の意見や異世界の国々の事情を尊重する形で可決の方向に向かった。
日本国内の世論は共和国が獣人族や先住民族に対して行って来た迫害への当然の処置であることや今回の戦争で十分に報復した上諸外国からの信頼を確保したとして中渕内閣の支持が上昇する事となった。
日本皇国国防陸軍特別統治地域・ルサビノ
ルサビノの街は共和国に支配されていた時代が嘘のように活気を取り戻しつつあった。住民と打ち解け親密な関係になったとはいえ、戦車や装甲車といった兵器を装備した第一機甲師団の主力や王国軍を駐屯させることに申し訳なく思った日イ両政府は話し合いの後にルサビノに駐屯する戦力を減らし、特別統治地域研修で日本から派遣されて来た軽武装の警察官が治安維持を担うことになったものの制服姿の警察官と住民達がプレハブの仮設交番で談笑しているほど警察が要らないくらい治安が良かった。
そんな穏やかな空気が流れる中で綺麗になった教会内の椅子にどっかりと腰掛けて無邪気に遊ぶアンナとカリーナ姉妹を眺める藤田は自身の妻『藤田華穂』と携帯電話で通話していた。
『私は大賛成よ!あの子が二人になって帰って来てくれたみたい!』
「そやろ?華穂さんやったらそう言ってくれると思ってたで。身寄りも無いこの子らを引き取れるんはワシらしか居てないと思うんよ」
彼は日本が転移する十六年前、小児がんで溺愛していた一人娘を亡くしており華穂と共に最期までそばに寄り添えたもののこれ以降は任務や部下、戦友とのやり取りで空いた虚しさを埋めるしかなかった。
だが、幸か不幸か今回の戦争で境遇が異なるが大切な家族を亡くしたという点が一致している事や彼女らの両親の仇を討った事やカリーナが藤田に懐いていることもあってか今はアンナにも懐かれている。
間もなく妻との通話を終えると教会の中に上官でありイタリ・ローマ王国派遣軍の総司令官の今村季一郎大将が入って来た。
「藤田君、彼女ら二人を養子にする件だが大使館が快諾してくれたよ。ただ今のところは日本と王国がそれぞれの国民の往復に対して慎重な姿勢を取っていることからこの子たちを連れて日本へ帰る事に制限が掛かっているが、王国の国防軍関係者居住区でなら家族として住んで貰って構わないよ」
「今村閣下、ありがとうございます!これでウチの嫁も大喜びです!準備が出来次第、貰っている休暇を使わせていただきます!」
「ああ、何かあるまで存分に使ってくれて構わないよ。仇が取れたとはいえ一番甘えたい年頃にご両親を亡くしたんだ。心の傷に寄り添ってやってくれ」
「無論、そのつもりであります。閣下のご厚情を改めて感謝いたします」
今村は藤田がカリーナとアンナの二人を養子にする事が認められた事を告げた後に敬礼し合うと静かにこの場を去った。
しばらく日本語でのやり取りが行われていたため遊びながら藤田の行動を見ていた二人は、雰囲気で彼に何か嬉しいことがあったと感じていた。
「フジタの叔父さん何かいい事でも有ったの?」
「そうそう。時々私たちの方を見てたけど……」
「二人に聞きたいんやけど、ワシが二人のお父さんに成るって言うたら嬉しいか?」
「うん!すごく嬉しいよ。だってお父さんと同じくらい優しいしもん!お姉ちゃんもそう思うよね」
「カリーナの言う通り優しいしすごく強いから叔父さんがお父さんになっても良いよ!」
「……そうか。じゃあ、今日からワシが二人のお父さんやで。ワシも軍人やから帰れる時間は限られて来るけど二人の傍に居れるようにするで」
「叔父さんいや……お父さんありがとう!」
「お父さんよろしくね!でも、叔父さんは二ホンという国から来たから日本で住むの?」
「こっちこそありがとう。今は国の偉い人同士が話し合っているから日本じゃなくて王国にあるお家で一緒に住むで」
「「はーいっ!!」」
こうして藤田はカリーナとアンナの為に何か出来る事は無いかと考えた末に二人を養子として迎え入れる事にしたのだった。
彼女ら二人としては命の恩人でもあり両親の仇を討った彼が新しい父親になってくれる事を喜び、新しい家族として迎え入れる事にしたのだった。
その三日後ルサビノの住民に別れを告げて街を後にして藤田が住む王国領内の国防軍関係者が居住する地区に移り住んだのだった。
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