第十七話 激走、第一機甲師団三羽烏!!!
三ヶ月ぶりの投稿になりますお待たせいたしました。
今回で戦争が終結しますが、虫が苦手な方は閲覧注意かもです……(>人<;)
日本皇国国防軍・国防陸軍特殊作戦群や海兵隊、作戦に従事した国光が率いる義誠連合会(任侠系民間軍事会社)によるバルトニア諸島攻略が成功し、陸地でも対共和国包囲網というパズルの一ピースが埋まろうとしていた。
共和国の都市の一つであるデオッサを越えた先にある都市の一つである『パブロペトロフスク』もバルトニア諸島陥落の影響が大きかったのか、政府に対して狂信的な忠誠心とこれまでよりも若干強力な戦力を持つ共和国軍の中核勢力が郊外で防御を固め始めていた。
空軍の偵察報告によると共和国側は山間部に大量のトーチカを設置した上で対空火器や大口径の大砲で防御を固め、戦車対策のつもりなのか平原には竜の歯と呼ばれる防御用障害物も多数設置されておりここで停止した戦車や他の装甲車輌を火砲や小型の空中艦などで殲滅するこの世界ならではの決戦方法として頑強なものといえるだろう。
だが、綿密な戦闘計画と終戦してから七十年以上前のロシア戦争の戦闘経過の再分析やイタリ・ローマ王国や大敷洲帝国が経験してきた戦争の分析と現代戦略やこれまでも同じように共和国軍殲滅に使用してきた現代兵器の恩恵を受けた日本皇国国防軍の前では無力だった。
「ええか!今回は共和国軍の遂に中核戦力を叩くで!このパブロペトロフスクには、一人足りとも市街地へ退却させるんやないで。陸空による連携作戦やから空軍さんが空の目である空中艦とその取り巻きの航空機戦力を叩きに行ってるからそれに後続する形でワシら第一機甲師団が突入する算段や。あと他の防御用障害物も空軍が叩いてくれるから安心せえ」
『了解!!』
同都市に設置された前線基地のプレハブ兵舎で第一機甲師団団長の藤田が師団に属する百人近い下士官から士官の隊員達に対して、この戦争の仕上げでもありクワモスへの突破口といえるパブロペトロフスク打通作戦を一通り説明し終えると各々の隊員達は、自分達が所属または率いている隊の配置場所へ戻っていった。
同じく最前列で作戦内容をメモ帳にまとめていた黒田大尉もその場を去って自分が率いている小隊の隊員達を集めて作戦前の車長会議を考えていたが、席を立とうとした時に藤田から声が掛かった。
「クロ、ナギ、アキ。三人は残りや」
黒田は自分以外にも呼び止められたもう二人の車長達と一緒に「何を話すんだ?」という表情で藤田を見つめる。
ナギと呼ばれたスポーツ刈りで三人の中でもがっしりとしたガタイの隊員が『小棚木源』陸軍中尉で、アキと呼ばれた黒色のマッシュヘアで黒田と同じく平均的な体系の隊員が『蝶野亜樹斗』少尉である。
この二人も車長を務めている他、自身の小隊を率いる小隊長である。
それだけでなくこの二人と黒田は藤田三羽烏と呼ばれる有力な若手隊員でこの戦争において後続部隊の突破口的な役割を果たし、この広い共和国の大地を戦車で走破してきた事もあり周囲から一目置かれるようになった。
基本戦力の差が七、八十年ほど離れているとはいえ日本側の重軽傷者だけで千人は越えている。開戦から三ヶ月近く経とうとしているが日本とイタリ・ローマ王国に死者が一人も出ていない。
因みに、この背景にはナチス政権時代のドイツ国防軍とイタリア王国軍や東欧諸国軍、フィンランド軍によって殲滅されたソ連で起きたロシア戦争(一九三九年~一九四一年)でソ連によるフィンランド侵攻を好機と見たドイツはイタリアや東欧諸国とフィンランドの支持する事とここでもドイツ側がフィンランドと交わした『ソ連領の一部をフィンランドに割譲する』という密約もあり、ドイツとその他の友好国がポーランドやバルカン半島を経由して電撃的に侵攻したことでフィンランドとの戦争どころではなくなったソ連は不意を突かれる形となったことになった。
それに加えて防御態勢を固めつつ補給線も短縮化することにより史実と違って冬などの寒い時期は防衛戦に徹することで攻勢に出てきたソ連軍を殲滅し、気温が上昇した頃にソ連に攻勢を仕掛けることでモスクワも攻略が成功した上逃亡中のスターリンやベリヤ、フルシチョフといった国家評議会の最高幹部暗殺によって首級を挙げたことで軍は勿論、政府などの統治機構はドイツ連合軍に全面降伏したことで戦争が終結した。
「藤田少将、我々三人を呼び止めた理由は何でしょうか?」
「実はな。お前ら三人に頼みたいことがあってな……要塞化された山間部から南に十二キロ離れた峠道を通って行ったら敵を挟撃出来るから、大尉のクロを筆頭に突破口を開けてくれへんか?」
「分かりました。我々の力を存分に発揮し、必ず敵の残存戦力も殲滅します!」
「任せてください!大尉となら私も含めた小隊の隊員達も安心して付いていけるので賛成いたします!」
「右に同じく現代兵器を装備しているとはいえ先の収容所急襲作戦の時のように異世界特有の生体兵器も投入してくる可能性があるため、是非やらせていただきます!」
航空戦力をもって山間部を要塞化した敵とその要塞付近の防御を固める敵主力の一部を殲滅できたとしても無理矢理市街戦に持ち込む肚かもしれない。
そこで、藤田はこの三人が率いる経験豊富な中隊や小隊を選抜する事で敵を混乱に陥れやすいと考えたため三人の隊に突破役を依頼したのだった。
整備された峠道ということもありタゴル峠よりも道幅がかなり広く、坂道の勾配もマシなため比較的に走破しやすい道だが蝶野が予測しているように収容所急襲作戦の際に確認できた生体兵器を峠道に潜伏させている可能性もあることから安全を確保するための先遣隊役でもあった。
数日後、パブロペトロフスク郊外の山間部
山間部にはバルトニア諸島でも確認されたように夥しい数の重火器や火砲、要塞内で防御を固める兵士で溢れていた。
この世界では第一次世界大戦期のような要塞が今なお現役であり、一日でも多少の犠牲を払った上で国を防衛する戦略も採用されやすい事からこの山間部の強固な地盤を活かしてバルトニア諸島よりも多くの人員と中核戦力が日本側を迎え撃つことからトカゲのしっぽきりと言わんばかりに日本と交戦してきた部隊とは異なり、日本による追撃から潰走している軍を見捨てている間に強化した兵站のおかげもあってか新型中戦車(外見は史実におけるT-34-85)や新型重戦車(外見はKV-122)が配備されていたり、機動力が高い中型から小型の空中艦が最寄りの飛行場で待機していたりと誰も寄せ付けないような構えであったが、この戦闘で共和国の狂信者達を一気に瓦解させると同時に洗脳されこの戦争における弱者と化した無辜の一般市民の目を覚ます結果となるとはこの時の軍上層部とジュガーリンといった政府高官は夢にも思わなかった。
「よし、予定通り攻撃開始だ。全弾発射用意……撃てっ!!」
「こちら二番機、対地攻撃を開始する」
第一機甲師団による進行を円滑に行わせるために国防空軍の攻撃機隊が飛来し、山間部の防御帯に食らいつき始めた。
猛禽類が防御を固めた如何なる獲物を容赦なく屠るかのように、78式攻撃機(外観は史実におけるYA-9そのものだが、改良によって攻撃力はA-10と同じ)の機首に搭載されている30mm機関砲が甲高い掃射音と共に山の谷間にある陣地を容赦なく掃討していく。
「二番機へ、敵が対空砲火を開始しているぞ。そのまま掃討続行せよ、第一機甲師団が通りやすように道路整備だ」
「了解」
対空機関砲が撃ち落とそうとするものの飛行速度の速さに付いていけるわけもなく発砲音を上げる他の陣地に空対地ミサイルをめり込ませていく。
無論、山間部を掘削したうえで退避経路を作ったものの地盤の緩いところだと爆撃や弾薬への誘爆といった衝撃によってトンネルが落盤したことで重要な退路が塞がる。
「うわああああっ!!崩落だぁ!!」
「た、た、退路はどうなっているんだっ!!」
日本による電撃的な進行もあってか日本国防軍の戦力とその作戦目的の調査が追いついていなかった。それ故に政府は防衛戦を徹底し続けているのだった。
やがて攻撃機隊による対地攻撃が終わると、戦車が走行しやすいように竜の歯も爆撃によってことごとく破壊されていった。
その次に遠く離れた共和国航空軍基地から飛び立ってきた空中艦が日本側の陸軍戦力の殲滅を図るために発進してきたものの要塞に到達する間もなく逆に共和国の航空戦力をそぎ落とすために再度現れた国防空軍の飛行中隊が後続で飛来し、空中艦に襲い掛った。
「くそっ!これだけ弾幕を張っているのに当たらないなんて」
「艦長!退却しましょう!このままでは敵の魔の矢が我々に……っ!」
「ならば貴様だけ逃げればいいだろうっ!攻撃を止めるなぁっ!!」
中々撃ち落とせない日本の戦闘機から放たれる空対空ミサイルのことを恐れている副官が艦長に対して退却を申し出るものの、頭に血が上り切ったうえ今にも艦体ごと戦闘機に突っ込めと言いだしそうな彼は周りの制止を聞かずに攻撃を続行するものの無数の空対空ミサイルを撃ち込まれて空中で爆散した。要塞に近づいていたこともあり艦体が炎上しながら多くの兵士達が退避や配置場所へ移動している地上へと落下し、友軍を巻き込んで地上で大きな爆発を引き起こした。
こうして日本の目論見通り共和国軍は退却を開始したが、手が緩むはずもなく第三として黒田を筆頭とした第一機甲師団から選抜された精鋭たちが山間部で安全な峠道を走破して敵を逆包囲すべく混乱に紛れて突入していった。
「黒煙がやっと晴れたな……このまま峠を走り抜けるぞ。それに少しでも異臭を感じたら気軽に報告してくれ」
『『了解!!』』
黒田が搭乗する10式戦車を先頭に別の10式戦車も続いている。この世界の国際法では、早くから戦後の地雷回収時間削減や友軍及び民間人への誤爆を避けるために使用が禁止されているまたは使用している国が殆どないものの殺傷能力が低い嫌がらせ的な毒ガス兵器が未だに使用されている事から黒田達は勿論、戦線を狭めている他の隊員達にもガスマスクが支給されていた。
因みに日本が元いた世界では、イスラム過激派やその他過激な政治思想を持った組織によるテロが存在しない代わりに『友愛結社・盟和道理教団』というお花畑な人権思想を持つわりには自分達を批判した弁護士や犯罪防止活動家を襲撃するといったテロ行為を辞さないカルト集団が存在していたものの、都市部でマスタードガスなどの毒ガスを散布する直前に警察と機動隊に制圧され、首謀者の教祖や幹部クラスの構成員には死刑判決が下された。
その他にも日独冷戦の最中、ドイツによる世界統一を掲げるナチス党が核兵器使用に消極的であった理由が核が遺す放射能によるゲルマン民族自滅の憂慮と生活圏縮小というデメリットを見極めていた事から日本を含めた世界で核兵器が大量に量産されることが無かったが、科学技術発展の名の下に毒ガス兵器の使用基準が緩和されてしまった事からガスマスクが必要不可欠な世界だったのだ。
「大尉、それにしても不気味ですね。開戦時のように戦車や砲兵を布陣させて無理矢理食い止めて来るかと思いきや地雷も敷設していないなんて嫌な感じですね」
「もう諦めてくれたとかだったら良いのですが。何か腑に落ちないといいますか」
「ああ、二人の言う通りだ。本当に都合よく行き過ぎる」
小棚木や蝶野が不穏な空気を読み始めたと同時に、黒田も予定より早い作戦進行にどこか不安を感じずにいた。その答えを明かすかのように空中輸送艦が峠道から外れた森林帯に墜落するのが彼らの目に入った。この空中艦は火薬類を積んでいなかったのか、爆発することなく木々をなぎ倒しながら停止した。
「操縦ミスですかね?警戒しながら進みましょう。どちらにせよ小手調べをしない事には進めません」
「そうだな。”得体の知れない何か”を載せている可能性もあるからな……各車、警戒を厳にせよ!生体兵器搭載の可能性もあるためこれより発砲を許可する!」
「了解いたしました。黒田大尉は私が護衛いたします」
小棚木の提案を受けた黒田が収容所急襲作戦時の事を思い出しながら各車に指示を出すと、蝶野の10式戦車と蝶野隊に所属する96式機動戦闘車改(史実における16式機動戦闘車そのものに自動装填装置搭載した改良型)が黒田車の前に出る。
防御を固めながら坂道を下った先にある平坦な道に差し掛かろうとした瞬間、彼ら選抜戦車隊員達は目を疑った。
Ⅳ号戦車などの中戦車サイズまで大きくなった巨大蜘蛛が腹に糸巻きにした搭乗員の惨殺体を載せ、上半身のみとなった兵士をおしゃぶりのようにしゃぶり終えると咀嚼音を立てながらこちら黒田達の方を見つめた。
さらに同じサイズの蜘蛛が三十体近く現れたかと思いきや重戦車サイズまで巨大化した蜘蛛が現れた。
「異世界型生体兵器捕捉!これより戦闘態勢に移行せよ!!」
「うげぇ!取りあえず撃て!!」
「俺達三人がまとまりゃあ怖くねえんだよ!!」
第一機甲師団三羽烏の三人が攻撃態勢を固めると同時に巨大蜘蛛達も両脚を挙げながら「キャァァァッ」という鳴き声と共に目を赤く染めて威嚇し、酸性の液体や小さめの糸を弾丸代わりに攻撃しながら距離を詰めて来る。
小棚木に至っては、車長席から身を乗り出して74式小銃を発砲しながら蜘蛛達の目潰しをしている。その傍らで黒田車と蝶野車が小型の蜘蛛に対して発砲しつつ轢殺して巨大蜘蛛まで距離を詰めている。
「た、大尉ぃ。悲鳴がヤバいっす……」
「富田、もう少しの我慢だ!悪いけどそのままボス蜘蛛に突っ込め!!」
「はっ了解しましたぁ!!」
富田が声を引きつらせながらも巨大蜘蛛を守る蜘蛛の屍を踏みにじっていく。巨大蜘蛛とその他の蜘蛛は守りの態勢に入った。
「よしっ!全車撃てっ!!」
絶好のチャンスといわんばかりに全戦車が蜘蛛達に砲弾を撃ち込んだ。一番大きな蜘蛛に至っては腹から血と思しき体液を噴き出すと同時に息絶えた。他の蜘蛛は原型をとどめていないのか、そこら中に体を構成していた肉片などが飛び散っていた。
「敵生体兵器の沈黙を確認した。これより包囲作戦再開だ!!」
「了解!このまま壊走する主力を叩きましょう!」
こうして巨大蜘蛛を撃破した選抜戦車隊は、その後敵に街と自国民を巻き込ませる前に別動隊の藤田少将と合流すべく再び前進した。
二十分近く走り続けると、藤田の別動隊を迎撃する気でいる敵主力が布陣する平原に出て来た。敵はこれまで以上に本気を出しているのか重戦車やカノン砲も確認できるが、現代戦車一個大隊分の戦力の前では敵ではなかった。
「クロ、もう近くまで来たんか。そのまま突っ込んだれや!!」
「了解いたしました。先程痛い目に遭ったんでそのままお返ししてやります。全車吶喊!!」
皮肉にも巨大蜘蛛というハプニングが第一機甲師団本隊と黒田達選抜隊の挟み撃ちを招くこととなり、勢い良く飛び出してきた選抜隊によって共和国軍の後方に大規模な混乱が生じ、最前線の瓦解にも繋がったのだった。
「敵戦車大隊を発見っ!!何としても食い止めろ!!」
「重戦車、駆逐戦車!前へっ!!」
「カノン砲で撃てるだけ撃つんだっ!!」
新型兵器を操る共和国軍側の機甲部隊や砲兵部隊の矛先が黒田達に向けられるものの、蝶野隊などに所属する機動戦闘車による狙撃と併せて他の10式戦車や90式戦車で行進間射撃をしながら距離を詰めて来る彼らには全く効果が無く、共和国の最先端技術で作り上げた重厚な装甲と大口径の主砲を持つ重戦車がいとも簡単に撃破されて紅蓮の炎を上げながら撃破されていった。
「側面を下手に晒さなきゃお釈迦に成らねえからそのままどんどんぶち込んでやれっ!」
「了解です!修理代は高くつきそうですがキルスコアは稼いでやります!」
もちろん基礎から応用的な訓練を経た兵士達が操っている事もあり既に百発以上の砲弾が黒田隊の戦車に命中していたが、かすり傷を作り続けているだけで一方的に弾き返されていくばかりだ。
「なんで…そんな……こっちは122mmの戦車と152mmの駆逐戦車とカノン砲だぞっ!!」
「情けない事を言うなっ!良いから砲撃を続行しろ!!」
共和国軍の兵士達が自分達の敵はとんでもない奴らだと感じる頃には、一輌一門ずつまたじわじわと鉄屑へと成り下がっていく。
それでも少数で発砲を辞めない黒田達を捻じ伏せようと共和国軍側も攻撃を続けているが、やがて別方面から迎撃に向かっている別部隊にも夥しい数の砲弾の雨が降り注いでいくのだった。
黒田達に近道の突破を任せた藤田は、以前の収容所急襲作戦のように自ら第一機甲師団の本隊を率いて友軍による空爆後の山間部を通過して平野部に入ろうとしていた。
やれるもんならやってみろと言わんばかりに自身が搭乗する90式戦車も戦車隊の前方を走行していた。そんな中、黒田達が異世界特有の生体兵器に遭遇して戦闘になったものの難なく撃破したことで挟撃が可能となった。
「藤田少将。黒田大尉たちは敵の後方に到達し、いつでも挟撃可能となっております。偵察隊からの報告で上がっているように敵はこの先の平野部を決戦場にする見込みなのか、戦車や大口径の火砲を先頭にして完全防御の構えです。しかし、後方に指揮系統が集中していることから選抜隊が後ろから蹴り上げてくれそうです」
「そうか報告ありがとう。正面切って突っ込んだろやないかい……!」
『了解!!』
敦賀大佐からの戦況報告を受けた藤田が全車輌に突入の指示を出すと同時に後方を走行していた第一機甲師団隷下第五砲兵連隊に所属している89式自走155mm榴弾砲や62式自走155mm榴弾砲が射角や方位角を即座に調節して砲撃体制を整えている他、前線における藤田の眼となっている『山郷清人』少佐率いる第二偵察隊が至近距離の森林帯の内に潜伏して平野部に布陣する敵の戦力の詳細と助言を途絶えることなく送り続けている。
「こちら五砲-1-1。いつでも発射可能です」
「敵軍は重戦車を先頭に中戦車や駆逐戦車、大口径砲などで防御を固めています。砲兵部隊による援護射撃と同時に突入すべきかと、それに敵砲兵隊がこちらに脇腹を向けていますから少将が突入された後に我々も援護します」
「ありがとう山郷。よし、砲撃開始!!引き続き全車ワシの90式を先頭に突入開始っ!!」
各自走砲による砲撃と同時に平野部への突入を開始したこともあり、彼らが敵主力部隊を目視した際には榴弾の着弾によって混乱しているのか敵戦車が右往左往していたり敵砲兵にも損害を与えたことにより反撃を遅らせた。
「我が隊も殲滅開始、撃て!!」
「敵装甲車及び伏兵発見……ぐはっ!」
敵も後方支援を開始すべく砲撃準備を始めたものの、森林帯から飛び出してきた第二偵察部隊の96式機動戦闘車改や75式偵察戦闘車による急襲を受けた事により混乱に陥った。
丸腰同然の砲兵たちは、抵抗する間もなく偵察隊による行進間射撃や機銃掃射によって血塗れの肉片に変えられていくか擲弾筒や手榴弾、機関銃などで抵抗する歩兵も同じく掃射されるか重く分厚い装甲を持つ車体によって踏みにじられたり、跳ね飛ばされていく。
無論、同時進行で藤田達の戦車からも容赦なく砲撃が浴びせられた敵戦車の一部も反撃を行うものの砲弾が全て弾き返され、最新鋭の重戦車が誇る122mm主砲が放つ砲弾でさえも装甲が鈍い音を上げて弾き返されていくばかりであり重装甲であるはずの最新戦車が虚しく撃破されていった。
「前方の部隊は仕留めたけど、まだまだ来てるやんけ!そのまま後方のクロに追いつく勢いでぶっちぎったれや!」
「少将!!お見事でございます!!」
自ら前線に立って指揮して戦う藤田に応えるように他の90式戦車や10式戦車も散開し、物量で対抗してくる共和国軍戦車隊や対戦車砲を撃滅している。
また、彼に関しては自ら敵戦力が厚いところに突っこんでいくことから新人隊員達から熟練隊員まで賞賛を集めながら自分を晒し出すことで勝てるはずもないボーナスポイントを狙って集まった敵軍を自ら殲滅していく。
「半日ぶりやのうクロ、そのまま逃げる敵司令部をぶっ潰すで。残しといたらこれ以上望まん犠牲を生むだけやからそのままナギとアキも付いてこいや」
「了解いたしました。思ったより後方のガードも堅くて敵の指揮官を逃がしましたからそのまま仕留めてやりますか」
そのまま黒田達とも合流した藤田は、市街地方面に逃走を開始した敵指揮官を仕留めるべく残りの三輌と彼を護衛するために付いてきた四輌の96式機動戦闘車改を率いて街道を走り出してしばらくすると、完全に市街地を巻き込む気でいるのか大隊規模の敵主力の残党が見えて来た。
「あん外道どもが懲りやん奴ばっかやのう。そのまま吶喊じゃあ!」
藤田の90式戦車が勢い良く走り出すと敵が大慌てで火砲や中戦車を旋回させるものの彼らから容赦なく成形炸薬弾が撃ち込まれ、業火に包まれて撃破されていく。
残る歩兵を跳ね飛ばしながら敵司令官が搭乗する指揮用ハーフトラックに追いつくと、右側から体当たりを浴びせて横転させた。
藤田はそのまま戦車から降りると拳銃を片手に横転したハーフトラックまで行き、敵の総司令官を引き摺り降ろす。
「ひ、ひぃっ!!降伏するから降伏するから!!」
「おう素直な奴やな自分。じゃあ生きとる奴らの武装を解除せんかい」
狂信者であるはずの敵司令官は第一機甲師団の圧倒的火力を前に壊れた人形のごとく頭を振って藤田の指示通り投降した。今回も共和国軍は最新の戦車や火砲で反撃したものの、虚しく撃滅されて行った。
こうして第一機甲師団が敵主力を殲滅し終えた直後、ボリシェ・コミン主義連合共和国は正式に日本皇国やイタリ・ローマ王国、大敷州帝国、ルシア臨時政府軍に対して降伏した。
なお、降伏宣言を出したのはジュガーリンの忠臣と見られていたフルスチャフ委員長だった。それだけでなく彼の報告によると敗北続きで精神崩壊したジュガーリンが狂信者の将校を呼び出して全員を愛銃で射殺した後に「異世界人に裁かれるくらいならっ!!」とフルスチャフ達の制止も聞かずに拳銃自殺したのだった。
こうして三ヶ月でこの戦争は終結した。日本側は現代兵器の恩恵を受けたこともあってか死者を出さずに済んだが、重軽傷者は一万人近くに達する見込みだ。
共和国側は無責任かつ強欲な独裁者が死ぬまでに百万人以上の戦死者を出したのだった。
この混沌とした世界での脅威を撃滅したものの、日本皇国は前途多難を乗り越えることはできるのだろうか……
ご覧いただきありがとうございました。次回以降は外交や友好国との交流、戦後処理がメインになって来ます。
戦争終結までに時間をかけましたが、これからも宜しくお願い致します。
設定公開第一弾・第二次世界大戦開戦までの枢軸国(後に本文に載せます)
本作の日本が元居た世界で第二次世界大戦が始まる経緯としては史実と違って最後まで中央同盟国に残ったイタリアが植民地を喪失しただけで済んだもののファシスト政権が誕生するとドイツとの同盟を再結成しました。さらに、スペインでは内戦一歩手前で国民の懐柔に成功したフランコ将軍率いるファランヘ党が政権を掌握すると、スペインもドイツとイタリアと同盟を組みます。
しかし、ドイツは英仏を刺激しないために各国を密約を組んだことでソ連ではなくチェコスロバキアとイタリアと技術協力体制を築いたことでラインラント進駐とオーストリア併合だけにとどめておき、共産主義排除としてバルカン諸国やポーランド、フィンランドとも独自の経済及び科学技術協定を完成させたことで史実と同じタイミングで高性能な兵器の開発にも成功しました。
そのため、ズデーテンラント割譲要求やチェコスロバキア解体が行われていません。
対ソ戦の口実として1939年にフィンランドに侵攻したソ連軍を英仏、ギリシャを除く欧州諸国で一斉攻撃したことで滅共戦争が勃発し、侵攻したソ連の都市で住民を懐柔し冬の間は攻勢を停止して都市やインフラを復興しつつ防衛戦に徹して広大ながらも強力な補給線も確立したことで1941年夏にモスクワを陥落させたほか、スターリンやフルシチョフ、ベリヤの暗殺に成功したことで友好国とモスクワ以西のソ連領を分割または共同統治することでドイツはポーランド交わしていた密約でダンツィヒをドイツに返還する代わりにバルト三国とポーランドとの連合国家である『ポーランド・バルト共和国連邦』の成立とソ連領の一部をポーランド領内に編入させたことで不満を解消しました。
フィンランドに至っては大フィンランドを実現させ、ハンガリーはトリアノン条約を滅共戦争直前に破棄したうえで軍事特需で国家を再生させた。他の滅共戦争参加国も軍事特需で経済や軍事力を強化することに成功した。
こうしてドイツもエルザス・ロートリンゲン地方を除いてドイツ帝国領の失地を復活させる事に成功した。(※メーメルだけはドイツ領に帰属したものの、ダンツィヒを除いたポーランド領内の一部旧ドイツ領は領有を放棄)
しかし、1943年になると米英仏がドイツに対してロシア連邦への領土返還とロシアからの撤退を要求すると逆にドイツがフランスに対してエルザス・ロートリンゲン地方の返還を要求したことで1943年9月に第二次世界大戦が勃発し、史実と違って万全なドイツ軍に連合国は蹂躙されたのでした。
以上がこの世界で起きた第二次世界大戦でした。なお、荒唐無稽であればまた修正いたします( ̄^ ̄)ゞ




