第十四話 第六ラグエリ強制収容所解放作戦 後編
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収容所に突入した混成部隊は先ず所内の検索を開始した。相馬とタッグを組んでいるカルロは接近戦に備えて持っていた小銃を背負うと、拳銃とナイフに持ち替えて長い廊下を進んでいた。
途中で現在二人がいる二階の収容牢専用の鍵が置かれているであろう事務所に差し掛かった。
「僕が突入しますから後ろから援護をお願いします」
「分かったわ。流れ弾が当たらないようにね」
二人が突入前に軽く打ち合わせると、カルロが勢いよく飛び出すと同時に目の前と右斜め前に居た敵にそれぞれ銃弾を撃ち込み、後ろから自分に向かって掴みかかろうとして来る者に至っては周囲を確認することなく飛び出したせいもあり彼の援護役であった相馬によって銃撃され、その弾丸を身体に受けて固い床に倒れ込んだ。
今無力化した三人以外は人影がなく殆ど地下に潜って抵抗する気だろう。他の部屋から発砲音が少なかった。
カルロは幹部が使用しているであろう机の中を漁り終えて牢の鍵を持って相馬のもとへ向かおうとした途端、窓ガラスが割れて二メートルほどある人型の何かが突っ込んで来るなり不気味な呻き声を上げている。
人型の化け物は相馬と目が合うなり鶏と牛の鳴き声を混ぜたような鳴き声を上げながら駆け出して彼女に掴みかかろうとするのだが、対する彼女は74式小銃を構えてそのまま銃剣突撃を行い銃剣を身体にめり込ませると同時に連射で化け物に銃撃を行う。
銃弾を受けながらも化け物は健気にも右腕を振り上げてその鋭い鉤爪で相馬の顔を引っ掻こうとするのだが、彼女の助けに入ったカルロが化け物に飛び掛かって腰に下げているナイフで首の頸動脈を掻っ切るとようやく化け物は首から真っ赤な鮮血を吹き出しながら後ろに勢い良く倒れ込む。
「はあはあ。そんな……こんな生物存在しないはずだぞ」
「ありがとうカルロ。生殖器官のようなものは退化しているのか全く見当たらないわね。それに普通の人間と獣人種を混ぜたような生物であることと至近距離でも5.56mm弾が効きにくいことから最悪敵が開発した生物兵器という線もあり得るわね」
「なんて残酷な……敵はそこまでやるのかっ!!だけど、こうなった以上今日ここで実態を探るしかないですよシオリさん」
「そうね。ちょうど今合流してきた救護隊に他の人達の事を任せて私達はこの建物内の何処かにある地下収容場を探るしかないわね」
相馬とカルロは地上の建物内に収容されている者達の身柄を別のヘリコプターで合流してきた救護部隊に任せることにして地上制圧後に向かう予定だった地下収容エリアの前まで来ると、味方の隊員が苦戦してようやく先程と同じ化け物を射殺した感じでありその内の何人かはナイフでの接近戦に持ち込んだのか軽傷の者も少なからず存在しており持っていた救護セットで身体の切り傷といった傷を癒していた。
その苦労を映すかのように先程と同じ化け物の射殺体やそれを使役していた敵兵士が上手くコントロールすることが出来なかったのか、化け物が持っている鋭い鉤爪で身体を掻っ切られた後に武器もしくは盾代わりに使用されたことを示唆するように身体が穴だらけになっているか上下半身が真っ二つで床に捨てられていたり地下へと続く階段の壁や床には血が飛び散っており鉄臭い悪臭が漂っていた。
「相馬中尉、バローネ曹長。よく無事だったな。その様子だと二人で上手く連携してこの化け物を倒したようだな」
「そう言う島坂少佐もご無事で。それに他の隊員の方も怪我が少ないようで何よりです」
二人は血みどろで凄惨な状況を口に片手を添えながら眺めていると、後ろから野太い声が聞こえて来たので振り向くと混成部隊を取の隊長を務める『島坂龍司』少佐がそんな状況を見慣れた表情で眺めながら二人に声を掛ける。
「その言い回しだとシマサカ隊長もこの化け物に遭遇されたようですが……僕もシオリさんも生物兵器の可能性が高いと思っています。シマサカ隊長はどう思っていますか?」
「この世界の人間である君もそう思うか。仮にそうだとしたらまだ全ての試作段階にあるのか俊敏な動きを取る個体もあれば大きな鉤爪を構えて防御を固めることなくただ攻撃姿勢を構えて鈍い動きで接近してくる個体も居たな。それに気付いているかもしれんが俺達が今使用している74式5.56mm小銃だとマガジン一個分くらい撃ちきるか頭部にも二、三発撃ち込まないと撃破することが難しいことが分かった」
島坂はカルロの言葉に共感しながら真横にある頭部に銃弾がめり込んだ化け物の死骸を指さして自身が遭遇した個体について語り始めた。
周囲に倒れている個体の肉体強度にバラつきがあるのか普通の人間のように心臓に撃ち込まれて一撃で撃破された個体もあれば彼が言うように三十発近く撃ち込まれてその風穴から筋肉組織が露出していた。
「では、今から真相解明という訳ですね。この先におぞましい何かが隠されているということでしょう。正直なところここに居る皆はそんなもの見たくないと思いますが」
「そうだろうな。我々日本人はとにかくイタリ人の人達には刺激が強すぎるかもしれん」
「………覚悟は出来ています」
怪我の治療を終えた隊員達が集まって来たのか国防軍側の隊員ばかりで現在この場に居る王国軍近衛竜騎兵隊の隊員はカルロのみで他の竜騎兵隊員は救護部隊と共に地上エリアに収容されている人々の解放に乗り出している。
相馬と島坂の日本語での会話内容がカルロには理解出来たのか両手を握りしめて力みながら二人に対してそう言う。対する二人も彼の覚悟に納得したのか数名の隊員を含めて地下へ進んでいった。
地下収容施設はこの世界の生命というものを軽々と踏みにじっているのか所々に死臭が漂っている。既に軍属学者はどこかへ身を隠したのだろうか重要な資料だけが抜き取られて本棚から標本を纏めた書類が散乱しているほか人体実験を放置したのか蠅や蛆がたかっている腐乱死体の数も少なくはない。
これらは全て犯してもない罪をでっち上げられて捕まり生物兵器の実験材料として理不尽な生涯を終えた者ばかりなのだ。
それでもボリシェ・コミン主義連合共和国はこの事実を隠匿し続けて革命とは名ばかりの人間至上主義かつ世界一党政府として進出する覇の道具として生物兵器を開発して人間の血を減らすことに資金をつぎ込んでいる。
「この階一面が死臭で覆われていますね。いつの世界も惨たらしい行為を行う非道な輩が存在しているなんて」
「全くだ。国家というものを楽に強大化させたいがためにこんな兵器の開発を行うなんて……この施設に属していた軍属学者が我々の世界でいう所のアウシュヴィッツ強制収容所もといそれに比肩する実験施設も兼ねた強制収容所を持つ国に亡命ということは何としても避けたいものだ」
相馬達三人と数名を含めた隊員たちは銃を構えながら凄惨な光景を見渡しながら地下の階を進んでいると、最後の部屋に行きついた。
その部屋の表札には『特別生物兵器試用研究室』と表記されており倒して来た化け物の本丸が見えて来たという訳だ。
三人の内カルロが拳銃を構えて部屋の扉を開けるとそこには先程と同じ形の生物兵器が先程とは打って変わって床を這いずり回りながら悶え苦しんで凶暴性の欠片すらなく素材元である非ヒト種と人間が拒絶反応示しているのと何ら変わりなくその中の一体が彼と目が合うと同時に、「自分を殺してくれ」と言わんばかりに苦し気な鳴き声を上げるのだがその直後、最初に遭遇した凶暴な個体と同じ声を張り上げて相馬の方へと走り出して鉤爪で引っ掻こうとする。
「今度はこれで試すしかないわね……はぁっ!!」
しかし、行動パターンが全く一緒なのか今度の彼女は銃器を一切使わずに顔面に回し蹴りを浴びせてから腹部に正拳突きでダウンさせる。銃撃するよりも肉弾戦の方が効果が大きく回し蹴りで意識が朦朧すると同時に腹部に打撃を加えると血や内臓の一部を吐き出した。
他に居た個体もそれに合わせて攻撃態勢を取ろうとするがカルロや島坂らが生物兵器の頭部に銃撃したことで第六ラグエリ強制収容所内の脅威は完全に消え去った。
「………(自分の身と大事な人を守るうえでは仕方なかったことなんだ。どうか許して)」
カルロは銃口から煙が上がる拳銃を構えながら元は罪なき者達だった生物兵器に対して口に出さずに胸中で懺悔している。
また、彼自身しばらく経って気付いたことだが目と頬が涙によって濡れている。堪えたくても堪えられなかったのだ。覚悟は出来ていたのが齢十五の少年には刺激が強すぎた。
その背後から撃破した生物兵器を回収する国防軍の隊員達が丁寧に死骸を専用の回収袋にしまい込むと足早に部屋を後にする。
凄惨な情報量が多くその分の今のカルロのショックも非常に大きいのだ。彼の記憶は後ろから誰かに優しく抱きしめられたところで途切れた。
次にカルロの記憶が戻ったのは任務終了後にある休日初日の事だった。昨日のこともあり寝起きが悪い彼ではあったが徐々に意識がはっきりとして来る。
そんな中で真っ先に伝わって来たのが誰かに抱きしめられていたという事と両頬に妙に柔らかい感触と甘いミルクのような匂いがする。
目をはっきりと開くと自宅の同じ寝床で自分より先に目を開いていた相馬が優しく頭を撫でながらじっと見つめている。またそんな彼女の格好も白のノースリーブシャツ一枚とショートパンツといった際どい感じだ。
「どう?もう気分は悪くない。私の可愛い相棒!」
「………おはようございます」
「まだ気分が悪そうね。もう少し寝る?それとも……」
「いいえ大丈夫です。意識がはっきりしない間に僕はあの現実から逃げたいがために相棒のシオリさんに対して破廉恥で厚顔無恥な言動を取っていたのかも知れません。もしこれがまだ夢なら蔑むか引っ叩いてくださ……きゃんっ?!」
カルロは自分が知らない間に大事な相棒であるはずの彼女に対して取り返しのつかない言動を行った上健全な男子にあるまじき行為を働いてしまったのかもしれないという焦燥感に駆られて自虐的な態度を取るが、対する相馬はベッドの上に座ってそんな態度を取り続ける彼を軽く抱きしめるとそのまま色白な右頬に自身の桜色の唇を優しく重ねる。
それと同時に少年らしい可愛げのある声を張り上げて驚く。
「どう?夢じゃなくて現実よ。昨日のあなたは本当に辛そうだったからずっと傍に居させてもらったの」
「は、は、はい……ご心配をお掛け致しました。本当にありがとうございます!」
この時ばかりは相馬の気持ちを素直に受け止めることにしたカルロは赤面しながら彼女に対して感謝するのであった。
そんな少し特殊な感情を持つ女性士官とその気持ちを一方的に受け止め続ける少年下士官の甘めの日常は今日も始まりを告げた。
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