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第十一話 猪突猛進、藤田大戦車軍団 前編

ご覧いただきありがとうございます。引き続きお楽しみください!

ボリシェ・コミン主義連合共和国

首都・クワモス


共和国国家総帥ジュガーリンは、総帥執務室にて日に日に狭められる防衛線の縮小を見てようやく日本皇国国防軍やイタリ・ローマ王国軍、自由革命軍そして大敷洲帝国軍と手を取り合ったルシア臨時政府軍が自分達の力を凌駕している事に気付いたのである。

四面楚歌といえる状況ではあったものの、極東の大敷洲帝国軍とルシア臨時政府軍は首都から遠く離れたうえ首都を囲うように建設されている要塞で防御に持ち込んだ上で最悪、現在維持している国土で休戦という形を取ろうとしていたのだ。

しかしヤーベリが自身の欲を満たすために建設されたといっても過言ではない第六ラグエリ強制収容所が解放されたうえそこに建設された自身の別荘兼”お楽しみ”のための部屋に籠っていた彼が捕縛されてしまったことにより、益々戦況は悪化の一途を辿っていたのであった。


「くそ……こんな事ならクワモスに留めておくべきだった。あの男の性癖を把握していたこの私が」


ジュガーリンはさらに悔やみ続けた。そもそも彼はヤーベリのおかげで現在の国家総帥の席に就いていたため、その見返りとしてヤーベリの傍若無人ぶりを黙認していたのだった。

しかし、戦時下の現在はそれが遠回りに戦況悪化の原因となり悔やみ続ける事しか出来なかった。


「ジュガーリン総帥閣下、頼まれていた防衛計画ですが、予想だと二年六ヶ月は持ちこたえそうです。国民の不満を逸らすための地下シェルターは良好な状態で稼働可能です。また、食料備蓄量も七年分のため略奪といった治安悪化を防ぐことが可能です。兵士達の士気も良好であり、『降伏するくらいなら共和国と総帥閣下と共に』と言う者が多数であります」


「ご苦労だった。首都防衛に当たる兵士諸君及びクワモス市民激励の兼ねた視察の後に今日から地下総帥官邸に移動するよ」


「畏まりました。それではお車を準備しますので、もうしばらくお待ちください」


首都近辺の防衛体制が整ったことを報告しに来た陸軍統括委員長の報告がもはや安らぎのひと時となったといっても過言ではない彼は静かに報告を聞き終えると、適当な誤魔化しを兼ねて自身の保身を図るべく自身を含めたごく一部の者だけが知る地下総帥官邸に身を潜めることにしたのであった。




日イ両軍合同宿営地・ルサビノ

これより時系列は遡る。ルサビノは先日、藤田が指揮する第一機甲師団が解放した地区だ。両軍の兵士達が住民と穏やかに打ち解けていた。

ある者は家事で忙しい家族に代わってヒト族と獣人族の子供たちの遊び相手になっている。またある者は主な戦闘要員であった成人の男性や女性に応急的な戦闘術を教えている。

他にもここに来るまでに鹵獲した共和国軍のヘルメットや車輛を用いて丁寧に銃火器の操作から体術を指導していた。

さてそんな中、藤田は自身の懐刀ともいえる黒田を作戦会議に加えて他の士官らと共に兵器の模型を用いて作戦の段取りをしていたのだが、他の士官らはいつもとは違う彼の姿勢に期待していた。


「ええか。今日はワシが前線に出張って第六ラグエリ強制収容所に突入したる。それで収容されているであろう非ヒト種族の解放を敢行する。なお、邪魔するドアホはどんどこいわしたれっ!!」


『『了解っ!!』』


「今回は藤田少将が前線に立って自ら指揮されるということですから我々は後方で少将をお支え致します」


「おう。頼んだで。敦賀大佐以下、五名の佐官はメッセ少将ら王国軍司令部と共に前線に指示を送ってくれや」


「畏まりました。少将及び前線に従事する隊員諸君の健闘を祈りますっ!」


藤田は武闘派軍人としてのスイッチが入ってしまったのか。黒田をはじめとする前線に従事する他の士官たちに檄を飛ばし、後方で自身のサポートを行う佐官たちに的確な指示を行う。

それに対して黒田ら車長達は良い返事を口にし、『敦賀正(つるが まさし)』陸軍大佐ら司令役の佐官達も前線に赴く藤田らの健闘を祈るのであった。


「フジタ少将、出撃の準備が整いました。貴官の健闘をお祈り申し上げます。個人的な要望で申し訳ないのですが、私のせがれや王国軍戦車兵達をよろしくお願いいたします。最後になりますが、貴国の戦闘術から王国機甲戦発展の糧を得るために貴国の優秀な佐官の方達を預からせていただきます」


「わざわざありがとうございますメッセ少将。ぜひ貴官のご子息は小官が預からせていただきます。それでは行こうか、ジャン少尉」


「ご丁寧にありがとうございます。フジタ少将、不束者ではありますがよろしくお願いします」


その次に別室で作戦会議をしていた『ロニー・メッセ』王国陸軍少将が自身の息子であるジャンを連れて藤田の前にやって来ると、彼の身を藤田に任せる旨を伝える。

対する藤田はロニーの要望を快く受け入れ、ジャンや他の王国軍戦車兵達を引き連れて自身の前線の愛車である90式戦車のもとへ向かうのであった。




黒田は出撃開始まで時間があったため、町の小川沿いにある小さな民家の玄関前へと向かった。この民家の家主はアーニャである。丁度昼飯時ということもありボルシチのようなものを作っているのだろうか、香ばしさが鼻に入って来る。

そんなこともあってか食欲をかきたてられた黒田の腹が鳴る。


「おっと、邪魔してしまったか。町の飯屋でもい……」


「クロダさん、やっぱり来てくれると思ったよ!一緒に昼飯でも食べていってよっ!」


「うぉっと?!」


「待ってたよ。任務の前だから私の家に来てくれたの?」


回れ右をして町の方にある定食屋に向かおうとしたのだが、男勝りであるが年頃の女性らしい声がすると同時に腕を引っ張られて家の中に入ってしまう。

彼が声の方向を向くと、亜麻色のショートボブヘアーのアーニャの顔が目に入る。可愛げがある笑顔に彩を加えるかのように両目の下にあるそばかすが目立っている。

さらに力強く黒田を引っ張ったせいか膨らみのある胸が大きく揺れており、思わずウブな彼は反射的に目を逸らす。彼女はそれに気付いたのか、少しいたずらな笑みを浮かべる。


「まあ、そうなるかな。一応出撃前の挨拶といったところだよ」


「そうなんだ……この前話してた解放作戦かい?」


「ああ、そうだよ。多分三日か遅くて一週間は戻らないと思うから君の顔を見ておきたいなんて思っていたんだ」


「ふふっ。最初に教会で会ってからはバカ真面目な感じな人だと思っていたけど。こうして私に会いに来てくれているから人とのつながりは大事にする気さくな人よね。あなたは」


「ははっ。そう言ってもらえると嬉しいよ。実はこの世界に来てから知り合った女性はアーニャさんだけだからその……女性の友達も出来ても良いかなって思ったんだ」


種族は違えど、二人の男女は馴れ初めともとれる会話に入り浸る。黒田自身、女性経験はおろか恋愛経験というものが皆無である。

高校、大学生時代に女性の人数が男性に比べて多い学校に通っていた割には一日の授業が終わると直ぐに学校を飛び出してアルバイトが無い限りオートバイのアクセルや自動車のハンドルを握って数少ない男友達と一緒に街道上を自慢のマシンで走りまくるというある意味勿体ない青春時代を送っていた。

その為、国防陸軍への入隊を経て日本が異世界に転移してからは女性との交流を大事にしようとしたのだった。

そんな矢先に出会い方こそ最悪ではあったが、アーニャと打ち解けることが出来たのだった。


「もう。そんな辛気臭いことなんて言わないでよ。まるで二度と会えないかもなんて言い方でしかないわね。あなた達二ホンコウコク軍の噂は聞いたことがあるんだけど。デカい大砲を持つ戦車を駆って王国の方角にある峠で何十輌もの共和国軍戦車を殲滅したんだってね。だから私達の世界じゃありえないような兵器を持っているならガンガン暴れまくって捕まっている人達を助けてあげてね」


「多分それは俺のところ以外の別の部隊が上手いことやってくれたんだと思うよ。そう言われたら何だか良い結果が出せる気がして来たな。他の部隊に遅れを取らぬよう頑張ってみるよ。俺達は一つの国を守る軍人だけど、人としての道理を外す奴は許せない。だからこそこの世界にとってよそ者ともいえる俺達だけど捕まっている人達を必ず助け出してみせる」


「クロダさんが軍人として人として良い志を持っている人で良かった……私からなんだけど、必ず生きて帰って来てね。またあなたと会ってお話がしたいから」


「………ああ。俺ってさ、バカ真面目だから口約束も必ず守ることにしているんだ。だから必ずまた君に会うと約束するよ」


「ええ約束よ。今度は私からクロダさんのところに行っていいかしら?」


「ああ。その時は是非」


黒田はアーニャと昼食を交えた後に再会の約束を交わすと、自身が搭乗する10式戦車が置かれている場所へ向かうべく席を立った後に彼女に対して軽く敬礼して家を後にしたのであった。


「ふふっ。あの人ったら自分の戦果を他人事のように嘯いちゃって。フジタ少将から全部聞いているわよ。あなたなら必ず生きて帰るわ」


彼女はそんな彼の背中を見つめながら再び健闘を祈るのであった。彼が見えなくなると彼女は、部屋の押し入れの中に入っていた短機関銃やククリ、武器用のメンテナンス用品を取り出して先程まで食事を共にしていた机の上に静かに置いた。




第六ラグエリ強制収容所前衛要塞

第六ラグエリ強制収容所は、表向きには軍の情報機関のラグエリ情報支部ということになっている。だが実際には一部の者が己の欲を発散するための売春宿もしくは何の利益も生まない非効率的な人体実験施設と化しているといっても過言では無かった。

生物兵器開発の一環として様々な種族から取り出した病原菌を培養する施設が地下深くに建てられ、傲慢かつ国民の血税を食い漁る穀潰し共という言葉が似合う者のために建てられた部屋も存在する。

さて、そんな税金泥棒によって建てられた場所とも知らずに防衛する兵士達は要塞から見える列車砲と前線に向かうであろう戦車隊や砲兵隊、歩兵部隊を眺めていた。


「これからルサビノに攻撃を行うんだろう。あそこに見える部隊が裏切り者共を木端微塵にすると思うとやって来てくれという気持ちしかわかないよ」


「違いねえ。なんてったってヒトモドキ性愛教の信者の阿保共が身を寄せ合ってヒトモドキと仲良ししてるんだぜ。まじで吐き気がするからさっさと灰にしてくれねえかな?」


「というか。列車砲でドカンとやれば一瞬で灰になるからそう焦んなって。あーあ、俺もいつかヤーベリ副総帥みてえに女の子たちを好きな時に連れて帰る身分にな……」


呑気な会話をしていると突然敵襲を知らせる警報音が鳴り響く。要塞のトーチカの中でカノン砲を磨いていた三人の兵士たちはやっと久々の獲物が来てくれたかという表情で砲弾を装填し、照準器に手を掛けた瞬間…

迷彩柄の塗装の敵戦車が三人の目に入ったが、ほぼ至近距離で砲撃を浴びせられた。三人は周囲の砲弾が誘爆すると同時に身体中を焼き尽くされ絶命した。

これと同じ現象が他のトーチカや塹壕でも起こっていた。この三人と同じように身体中を焼き尽くされてトーチカや塹壕を飛び出した者は、周囲の安全確認を行うことなく飛び出したせいか、次々と迫りくる敵戦車の巨体によって押しつぶされていく。

これより日本皇国国防軍・国防陸軍第一機甲師団による強襲戦が始まりを告げるのだった。


ありがとうございました!次回は後編に当たる第十二話を投稿する予定です。皆様の評価やご感想、良ければブックマークへの追加などお待ちしております!

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です。 > ジュガーリン ここらで戦争やめようと考えるのは悪くないがその考えは少し甘いですね。日本が行うこの戦争は現秩序の変革の一歩のような物ですから旧来の考えとは異なりますし…
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