夢
短いなので、2、3回で完結予定です。
フィクションです。
実在する人物は登場しません。
目を通していただき、ありがとうございます。
私の身近な出来事を参考に、しんみりする深いストーリーが書けたら、という出来心です。
夢を見ていた。
どこか懐かしい、それでいて心を締め付けるような過去の記憶____。
はっきりと思い出すことの出来る、不思議な夢だった。
「優花、起きなさい?もう朝よ」
「起きてるよ」
扉を開け、入ってきた母は私がすでにベッドに腰掛けていたことに驚いた様子で、しばらくこちらを見ていた。どこか疲れた表情で。
窓から見える空は絵の具で一思いに塗ったような青で、私の心と裏腹に澄み渡っていた。
「で、何か用?」
「実はね、クラスのみんながお見舞いに来てくれるんだって、今日の午後。よかったわね」
「それだけ?」
「そうよ」
首を傾げる母に私は呆れていた。過保護、お節介、めんどくさい。けれど、嫌いな訳では無い。反抗期でもないと勝手に思っている。
この病院に入院して1ヶ月になるが、本当に毎日が苦痛だ。春から高校生!と騒いでいたあの日が懐かしい。
窓の外は一面のピンクで、私はさらに心が締め付けられた気がした。去年の今頃は友達とあの木の下で、将来を語ったっけ…。
「ねぇ、昨日のこと…」
母はきっとこれを伝えに来たのだろう。最初から。
「ちゃんと考えてますよ」
私はそっけなく答えた。
「えっと…じゃあ…」
何が言いたいのかわからない。たじろぐ母に嫌気がさした。
「私は、臓器提供はしないの。傷一つない、綺麗な体で死にたい。それが私の意思なんだから」
思わず大きな声が出てしまった。部屋全体に余韻が波のように伝わった。
「わかってる。あなたが決めることだから。じゃあ、ここに丸をつけるのでいいのね」
母は念を押すように私に聞いた。私の意思は変わらない。母の善人ぶったような態度が、私は苦手だった。
『困っている人がいたら、助けるのが礼儀』
どこかで聞いたような言葉。私は幼い頃から毎日のように母から聞かされていた。でも私は、怪我をして泣いている子供を助けられないほど、勇気のない、弱い人間だった。いや、弱い人間と言ったって、基準はわからない。
あいにく私はそんなお人好しじゃないんでね、なんて、やなことばっか言って、母を困らせたっけ。
「聞いてる?」
「うん」
何も聞いちゃいなかった。
「午後までにちゃんと身なり整えておくのよ」
「はぁい」
そのあとの記憶が無い。夢から覚めた今も。
夢の中の私も。その前までははっきりと思い出せるのに。
私はベッドの上で1人、天井を見ていた。
妙にリアルな夢を見た。過去の記憶をそのまま辿るような。
________あの頃に戻れたらな。
余命宣告とは、同じ病気でなくなった方々の、中央値やら、平均値やらをとるものと、どこかで聞いたことがある。ただの噂かもしれない。ならば2倍するとして、私が生きられるのは長くて1ヶ月という訳だ。
しかしすでに半月が過ぎていた。
余命宣告が本当なら、時間が無い。苦しい。怖い。
どうして私が…なんて、在り来りの葛藤はもちろんあった。ノイローゼ気味の私を励ましてくれるのはいつも母だった。けれど鬱陶しいと思ってしまう私がいた。
私はあの日、小児がんという病によって命の灯火が消えかかっているのを知った日、泣いた、泣いた、泣いた。目が腫れても涙は止まらなかった。自分にはどうしようもないのに、苦しかった。他人を恨んだ。
この世で1番怖いものって何?幽霊?虫?なんて友達といつしか語った。だけど現実は、紛れもなく‘死’だった。死ぬのが怖い。死ぬのが怖くなかったら、幽霊も虫も怖くない。どうして私は人間なんだろう。
散々思っていた。
だけど今は、驚くほど冷静沈着で、やりたいことすら見つからない。笑って終われたらなんて、プランもない。
オシャレだって、ここに来る前はしていた。興味もそれなりにあって、友達とコスメを買って、プリクラを撮って、中学生を満喫していた。高校生になってもそんな日が続くと思っていた。
だけど今はそんなこと、興味が無い。やせ細った、ニット帽姿の不健康な私は、可愛くない。容姿も、中身も。いつの間にこんなに天邪鬼になってしまったのか、自分でもわからない。
ドナー登録とやらも、きっと誰かが。なんて考えで、あっさり断ってしまった。今はただ他人に迷惑をかける自分に、うんざりしていた。
病室を出て、点滴を引きずりながら廊下を歩く私に、背丈の同じくらいの女の子が声をかけてきた。
「これ、もらったんだけど、いる?」
骨ばった手に、私の好きなキャラクターのバッジが乗っていた。
「どうして…?」
私は状況が理解出来ず、思考が止まった。
「君、隣の病室の子だよね…?多分同い年くらいだと思うんだけど…」
照れくさそうに口元を隠す女の子を見て、私は終始キョトンとしていた。
「は、はい。今年16になります」
私の誕生日は6月だから、willだが。
「ありゃ、年下かぁ〜、あたし今年で17。お姉ちゃんって呼んでもいいんだぞ」
ひとつしか変わらないのに。私が頬を膨らませる素振りを見せると、‘自称お姉ちゃん’ は笑った。
「ごめんって。いやぁね、入ってきた時に、あなたカバンにキーホルダーつけてたじゃん、それ見て、好きなのかなぁって。ちょうど貰ったからさ」
「そうなん…ですか」
「タメ口でいいってー!あ、あたし春。そのまんま、季節の春。性格は夏だなってよく言われるけどな」
春は大きく口を開けてがははと笑って、バッジを私の手にねじ込んだ。
「ありがとう。私は優花。優しい花って書いて。」
「おぉー!いい名前じゃん!イメージそのまんまだよ!ちなみにあたし、優花と同じ病気だと思うんだけど」
そう言うと春は薄くなった髪に被せたニット帽をトントンと指でつついた。
どうしてそんなに明るいのか、自分と何が違うのか、私の中でぐるぐると考えが巡った。
「そ、そうなの…?」
私が返答に困っていると、春は急に冷静な顔になった。
「あたしさ、もう先が短いんだよね。言いづらいんだけど、優花もだよね?…そこで思うんだ。誰か救ってこの世を去れたら、かっこいいなって。馬鹿みたいでしょ」
言葉を失った。母と同じだ。ズレていたのは私だ。
だけど、春の言葉は重く響いた。
「誰か救えたら…か」
突如、目の前が真っ暗になった。
「優花!!!」
視界がぼやけていった。
ここまで読んで下さり、ありがとうございました。展開や文章が下手ですが、お付き合い願えたらと思います。




