新琴似2017
『ごめん ダイエットしといて』
札幌の自室で目覚めた朝、僕はそんなメモを目にした。いったい何なのか。
胃もたれ気味で、食べすぎたんだろうなとは分かる。それは分かる、のだが。また入れ替わって食べすぎる気満々に見えるのは気のせいだろうか……?
「あ、兄さん。ゆうべはお楽しみでしたね」
「何があった!? あいつ何やってくれてんの!?」
物騒な挨拶を妹が繰り出してくる。
「間違えました。ゆうべは楽しかったですね。兄さんがあんなに甘いものがお好きだとは今までちっとも知りませんでしたよ? スイーツ(笑)」
OK、ダイエットが必要な事情を把握した。六花亭の限定パイでももらったのだろう。僕はこの時初めて彼女を許そうと思った。誰が悪いわけでもない、賞味期限3時間が悪かったのだ。頂いたら絶対にその場で食べなければならず、道民の食べ過ぎの理由になりがちである。昔は帯広で購入してから3時間制限というタイムアタック状態だった。最近は札幌で売っていてそこまでシビアでもないが。
「また行きましょうね、札幌スイーツめぐりデート」
めぐってしまったのか。最近兄ウザい感をひしひし醸し出していた人の妹と随分仲良くしてくれているようでありがとう。妹は僕を揶揄っているだけだが、中身が違うから本当にデートなんだよなそれ。そのままお任せするわ。
「ごめん。行ったお店の名前なんだっけ」
「プチショコラでしょう、バスティーユでしょう……」
か、監獄!? 妹は暗号にしか聞こえない横文字を楽しそうに指折り数えていく。ちょっと日本語で言ってもらっていいだろうか。雪印パーラーとか北菓楼とかあるだろう(観光客並の認識)。結構、好き放題散財してくれたらしい。もういっそ札幌駅にあるケーキ食べ放題に行けばいいのに。
ま、昭和の女子高生を統一札幌に放り込んだらスイーツめぐりしたくなるのはいいとしよう。21世紀の札幌ではあの時代のパリに行ったって味わえない最先端に触れられるんだから、なんなら30年未来の味に触れて人生の進路を定めても構わない。出費の不均衡は気にかかるが、こちらも昭和のJK生活を正直言って楽しんでいる。寛大に許そう。楽しんでくれているなら何よりである。どこかの馬の骨に体を乗っ取られていると感じているよりは精神衛生上よかろう。でも、メモに残して報告しろよとは思う。