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第4章 君を好きになる

「おまえ乙嶺になにしたんだ……」

朝学校に行くと、中鶴に例の人が来ない廊下の片隅に連れてこられていた。

中鶴が不安そうな顔で俺に聞いてくる。

「なにって……なにが?」

変なことをした覚えなんてない。

「なにが? じゃねぇよ! あいつ俺の部屋に来て、散々八つ当たりして、事情も話さず言いたい事だけ言って事情も話さず帰ってったんだぞ! お前がなにかしたとしか考えようがないだろ!」

落ち着けよ。同じこと2回言ったぞ。

「な、なにもしてないけど……」

実際なにもしていない。ただの言い掛かりだ。

「何もしてなかったら練習の意味ないだろ! やる気あるのか!?」

どっちだよ! しかもそう言う意味じゃねぇよ!

「そうじゃないって! 変なことはしてないって意味だ!」

「ホントかよ……じゃあ、どんな練習してた教えてくれ」

「どんなって……目を合わせる練習」

「……はぁ? 会話の練習してたんじゃないのか?」

すっごい馬鹿にしたようなはぁの言い方だった。

「なんか、まずは目を合わせる練習だって言って、お互い目を合わせてたんだけど……」

「……それだけか?」

「ああ。それで目を合わせてたら、急に笠島さんが恥ずかしがって、慌てて帰ってったから……」

「ふむ……ふ~ん……あ~……なるほど……そういう……」

中鶴は顎に手を当てると、一人で何かを考え納得し始めた。

「な、なにかあったのか……?」

何を考えてるのかさっぱり分からない俺は、不安げに聞いた。

「……いやな。昨日の夜、乙嶺の奴が急に俺の家に来たんだよ」

「うん」

「無断で俺の部屋に入ってきて、強引に俺を押し倒してきたんだ」

「……うん?」

「そしたらじ~っと俺の目を見てきて……『違う! そんなの絶対ないよ! ありえないんだから!』とか言って、クッションで散々俺を叩いてさ」

「……はぁ」

「訳がわかんなくて、事情を聞こうとしたら、『あんたには関係ない! バカ!』って言い捨てて帰ったんだよ」

「……ふ~ん」

だから何なんだ。そんな幼馴染にありそうなやり取り聞かせて自慢でもしたいの?

「なんでだと思う?」

「さぁ? ……でも、聞いた感じ笠島さん、お前のこと……」

「ああ。あいつは俺の事が好きだよ」

さも当然のように中鶴は言い切った。

「気付いてんの!? ってことは……付き合ってるのか!?」

「付き合ってねぇよ! 勝手に決めんな!」

「えぇ!? 何で付き合わないの? 告白しないわけ?」

「……なんで俺があいつを好きだって前提で話してんだ」

「違うの!?」

「違げぇよ! 俺にだって他に好きな人がいるわ! ……あ」

「あんなに可愛い子なんだぞ!? 俺だったら絶対好きになるって!」

「そりゃお前の感性だろうが! 俺はあいつのこと良く知ってるからな! ってか俺の言っちまったって感じのセリフに少しぐらい食いつけや!」

「何言ってんだ! 他に好きな人がいるぐらい…………はぁ!? 他に好きな人いるのか!?」

「おせぇよ! お前かなりムカつくな! あとそんなでけぇ声だすなや! 誰かに聞こえるだろうが!」

「いや……だって……あんな可愛い子なんだぞ……? 俺にあんな可愛い幼馴染がいたら絶対好きになるのに」

「お前の場合どうか知らんが、俺はそうじゃなかったんだよ。……ともかく、この話はお終いだ」

話したくないと言った様子で話を終わらせようとする。……何かを隠しているのだろうか。

「あいつは一応今日も手伝ってくれるらしいから。放課後、教室で待っててくれだとさ」

「え、俺が迎えに行かなくていいの?」

「知るかよ。あいつがそう言ってたんだ。……っていうか、携帯アドレスぐらい交換しとけよ」

「そんな失礼な事聞けるか! なんか友達みたいじゃん!」

「……友達になればいいだろうが」

「そんな失礼な! 俺は練習相手とした彼女と接している身なんだぞ! アドレス交換なんて友達同士みたいなこと出来るか!」

「お前の基準どうなってんだよ! 友達になって練習相手してもらえばいいだろ!」

「仲良くなっていいのか!? 嫌がらないのか!?」

「嫌がるかどうかは本人次第だろ! 俺に聞くな!」

「いやぁでも……俺なんかと仲良くなってくれるとは到底思えないんだが……」

「お前さ……自分の事どう思ってるわけ?」

「え? ……エロゲ好きのコミュ力0で女の子と話すと口が開かなくなる変態クズ野郎……」

「……自分で言っててヘコまないのか?」

「ヘコんでるから引きこもってるんだろ……」

「なるほど……。だが、お前の事をそう思ってるやつは、俺以外だれもいないぞ」

「え? なんで?」

「お前の事を誰も知らないからだよ。憶測でどんな奴だって思う人もいるかも知れないが、少なくとも乙嶺はお前の事を、シャイで喋るのが苦手でエロゲが好きな人ぐらいの認識だろ」

「なんで分かるんだよ。聞いたのか?」

「いや? だって、お前がエロいことしたいだけの変態だったら、また練習してくれるなんて言わないだろ」

「あ……」

その一言は凄く納得出来た。そうか……俺はまだ嫌われてないのか。

「だから、そこまで卑屈になる必要なんてないんだよ。少しは自分に自身持て」

「……でも、人はそんな直ぐに変われないよ」

「きっかけがあれば簡単さ。良くも悪くも、人は簡単に心が変わる。良い方向にお前が心変わりしてくれる事を期待してるよ」

中鶴は笑ってそう言った。しかし、笑う表情の中に、少しだけ悲しそうな表情が混じっているように感じた。

「……? どういう意味――」

たずねようと思った瞬間、チャイムの音が響いた。

「やっべ! 始業のチャイムだ! 急いで戻るぞ!」

中鶴は、俺の問いかけから逃げるようにダッシュで教室へと走っていった。

「お、おい! 待てよ!」

俺も追いかけるように教室へと戻っていった。

中鶴の意味深な発言は、結局うやむやになったままだった。

気になりはしたが、追求するのも気が引けたので、そのまま聞かなかったことにした。



放課後、中鶴は俺にお別れの挨拶もなしに教室を去っていった。別に俺と友達になる気は無いらしい。

まぁ、俺もあいつ自身には興味がない。悪い奴じゃないが、あいつが俺と関わりたくないというなら、俺は関わらない。

それがあいつの為でもあるんだから。俺みたいな空気と喋ってるのを見たら、きっと周りからの目が変わってしまうだろう。

そんな奴の事はどうでも良い。それよりも、笠島さんだ。

昨日は逃げていったのに、今日は手伝ってくれると言っていた。

中鶴も言っていたように、嫌われたわけではないのだろうか。

……なら、少しは自身持ってみようかな。積極的になれば、俺も案外直ぐに話せるようになるかもしれない。



……教室から誰もいなくなってから数十分は経過した。一向に笠島さんが現れる気配は無い。

本当にくるのかなぁと少し疑いながら、暇なのでぼーっと外の下校する生徒達や部活に勤しむ人たちを眺めていた。

まぁ、気が変わって会うのが嫌になるなんてことがあっても何も不思議じゃない。俺はただ気長に待つだけだ。

「……津守くん?」

なんて事を考えていると、急に名前を呼ばれ、慌てて振り向く。

「ごめんね。掃除が長引いちゃって遅くなっちゃった」

全然気にしてませんよ。のんびりする時間が取れて丁度良かったです。

俺は椅子に座ったまま、笠島さんの顔を見ながらそう思った。

「……き、昨日はごめんね。急に帰っちゃって……。でも今日は大丈夫だから! ちゃんと喋る練習しないとね!」

少し踏み込み過ぎたと反省しています。今日は練習という名目を忘れることなく接して行こうと思います。

俺は突然現れた笠島さんに、動揺して固まったまま、身動きが取れないまま思った。

「昨日の事で、津守くんがちゃんと私の言葉を聞いてくれてるのは分かったから、今日は、津守くんが喋る練習だね」

そうしたいのですが、何分自分には話題が無いもので……自分の話をするのが些か苦手なのです……。

って……全然しゃべれねぇえええええ!! 頭の中に言葉は浮かぶのに、口が全然喋ろうとしてくれない!

そもそも俺こんな喋り方しないし! なんで頭の中で考えるとこんな喋り方なんだ俺は!

昨日あんなに仲良くなったと思ったのに、どうして喋れないんだ!?

「それで、まずは思ったんだけど、津守くんは、自分の思ってる事を他人に伝えるのが苦手なんだと思うんだ」

笠島さんは、挨拶や昨日の反省を終えると、俺の前の席に座りながらそう言った。

伝えるのが苦手か……それが俺の喋れない原因なのだろうか。

「それでね、喋るのが苦手なら、文章で思ってることを伝えればいいと思うんだ」

そう言って笠島さんが取り出したのは、ノートと一本の鉛筆だった。

「携帯でもいいけど、やっぱり直接書いたほうが伝えやすいと思って。これなら、コミュニケーションがとれるんじゃないかな?」

なるほど、書いて会話するのは考えもしなかった。自分の気持ちを伝える第一歩としてはいいかもしれない。

「納得した顔してるね! じゃあ、早速このノートで自己紹介してみて!」

楽しそうに、笑顔でノートと鉛筆を渡してきた。

その笑顔が可愛くて、期待に答えたくなる。

笠島さんからノートと鉛筆を受け取ると、ページを開き、鉛筆を走らせる。

自己紹介の文を簡単に書く。特に力もいれず、普通に掛けたと思う。

『俺は津守椋渡。高校1年生。よろしく』

凄く普通な文章だ。なんの面白みもない。

彼女の期待に答えるなら、もっと面白く書くべきか?

そう思い、下に新しいく文を書く。面白く行くなら、やっぱテンション高い方がいいよな。

『俺は津守椋渡! この世の悪と戦うために、日々訓練を続けている、スーパーヒーローだ!』

誰だよ! こんなキャラじゃないのは既にばれてるって!

なら、喋らないクールキャラで行くか……。

『僕は津守椋渡。ネットサーフィンとエロゲにしか興味ない……』

興味あるから今練習してんだろ! 落ち着け俺! 原点に戻るんだ……。

そもそも、俺は敬語で話すべきなのか? でも、同い年なら敬語使うのも変だよな。

笠島さんも普通に喋ってるし、……でも、失礼じゃないか? 俺は練習して貰う側で、上下関係的には下に立っている訳だから……。

「……書けたの?」

「!?」

笠島さんの声が聞こえると、俺はノートを力いっぱい閉じた。

必死になっていて笠島さんがいる事を忘れていた。

「……見られると恥ずかしいことでも書いたの?」

ジト目で俺を見てくる。

俺は咄嗟に首を横に振った。

「じゃあ見せて」

そう言って俺の持つノートに手を伸ばしてくる。俺は思わずそれを避けてしまう。

「……なんで避けるの!?」

「え……いや……」

「書けたんでしょ? なら早く見せなさい!」

笠島さんは立ち上がると、ノートを奪いに掛かる。俺はそれを避ける。

何故か急にノートを奪い合う攻防戦が始まった。

まだちゃんと書けてないんだ。

「そんなに見られたくないの!? 普通にあなたの事が書いてあるんでしょ!?」

それはそうなんですけど、いざ見せようと思うと、これで合ってるのかどうか分からなくてですね。

現実に選択肢があったら楽なんですけど、過去の会話からの推測も出来ないですし。

だから、ちゃんと自分が納得行くまで考えたいんですよ。

「このぉ……いい加減にしなさ~い!」

笠島さんは怒りを抑えきれなくなったのか、俺の背後に回り、ノートを持つ俺の腕をギュッと抱きしめるように捕まえた。

「!?」

その瞬間、俺の腕には、とてもとてもやわらかい感触が伝わってきた。

笠島さんの胸が……俺の腕に当たっている!?

その感触は初めて味わうもので、他の何にも例えることの出来ない物だった。

彼女に腕を掴まれた俺は緊張も相俟って身動きがとれず、彼女にノートを取られてしまった。

「やった! ゲット!」

俺からノートを奪うと、取り返されないようにか、俺から距離を取った。

しかし、俺はそれ所ではなかった。

「……あははは! なんで3つも同じこと書いてるの? どういうキャラで行こうか考えてたのかな? ……って、津守くん?」

笠島さんが俺の方を見ると俺は、地面に手を突いて項垂れていたのだ。

「津守くん!? ど、どうしたの!?」

「! ご、ごめんなさい……」

「……へ?」

「ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい!」

俺はひたすらに謝り続けた。謝って、謝るしかなかった。

「なに謝ってるの!? なんにも悪いことしてないよ!?」

「ごめんなさい……ごめん……なさい……」

涙が出てきていた。声も上擦って、まとも謝ることも出来なくなってきた。

「何で泣いてるのよ……。ねぇ、顔を上げて事情を話して……?」

優しい声で笠島さんは問いかけてくれる。その言葉に、俺は顔を上げる。

凄く心配そうな顔で、彼女は俺を見ていた。

……彼女が気づいていないのなら……事情を説明しなければいけない。これは、忌々しき事態だ。

「……胸が……」

「へ? 胸? 胸が苦しいの?」

「ちが……胸が……当たって……」

「? ……あ」

気が付いたのか、頬を赤くした。

「そ、それは関係ないじゃない! わ、私が津守くんの腕を捕まえたんだし……津守くんが悪いことなんてないよ!」

「で、でも……」

胸を触っていいのは、彼氏だけの特権だ。ただの練習相手である俺が触れて良い物ではない。

「……あのね。津守くんが行為的に私の胸を触ったとしたら、私は怒るし嫌いになるかもしれない。

けど、今のは私が津守くんにふれただけで、津守くんが私に触れようとしたわけじゃないの。

だから、なんにも謝る必要なんてないの。わかった?」

「……は、はい」

彼女の言葉はあまり頭に入ってこなかった。

「ちゃんと返事出来たね。よろしい。じゃ、仕切りなおして、席に座ろ」

でも、怒っている様子が無かったし、彼女の言うことに従うことにした。

俺たちは再び向かい合って座り、仕切り直すことに。

「自己紹介はしてもらったから……じゃあ、今度は趣味を教えて?」

「…………」

趣味か。趣味なんて、エロゲしかないけど、女の子にむかってエロゲが趣味ですなんて堂々といえない。

でもまぁ、他にも色んなゲームするし、ゲームってことで良いだろう。

自己紹介の時のように悩むことなくスラスラと書けた。

どんなゲームをやるのかを簡潔に纏めて、彼女にノートを渡した。

「あ、今回は素直」

少し驚いて、それでも嬉しそうに彼女はノート受け取った。

「……へ~。色んなゲームやるんだね」

ノートに書かれた文字を見て、彼女は

「私もゲーム好きだよ。今ゲームセンターで結構頻繁にやってるゲームがあるんだ」

彼女はノートを置くと、席から立ち上がる。

「音楽に合わせて踊るゲームがあるの。知ってるかな? あのステップ踏む奴じゃないよ? 体全体を動かして踊るの。

見てて! 私こう見えて、結構美味いんだよ!」

教室の席が少し空いている後ろスペースまで行くと、笠島さんはくるっと回ってこちらを振り向いた。

見ててって……今から踊るつもりなの?

少しスペースがあるからって、周りには机やロッカーがあって危ないことに変わりは無い。

「いくよ!」

危ない、そう注意しようと思った矢先、彼女はそう言って、ダンスの初期ポーズを取る。

彼女の表情が急に真剣な表情に変わり、俺は声を掛けることが出来なくなってしまった。

そして、彼女は踊りを始めた。口で小さく歌を歌いながら、彼女は真剣に踊っていた。

なんの踊りかは分からない。どんな音楽の踊りなのかも検討が着かない。

でも、上手いと言うのは分かった。素人目でしかないけど、綺麗だと思った。

優雅に舞う彼女に見惚れていた。彼女のダンスを見ていたいと思った。

……しかし、ここはダンスホールでもなければ、彼女のいつも踊っている場所でもない。

環境は最悪だ。床のワックスはほとんど取れかかっていて、床は滑りやすくなっている。

それに笠島さんも気付いていて、それを考慮しながら踊っていたとは思う。

けど、

「きゃ!」

彼女がステップを踏むと、思ったよりも床が滑ったのか、彼女は後ろ向きに転んでしまう。

「!」

倒れた先には、机があった。笠島さんは、倒れた方にあった机に、頭をぶつけたのが見えた。

「笠島さん!」

慌てて立ち上がり、笠島さんの側に駆け寄る。

「いったぁ……」

痛そうに頭を抑えていた。

「大丈夫ですか!?」

「えへへ……ヘマしちゃった……」

涙目になりながら、笠島さんは笑って痛みを誤魔化していた。

「何言ってんですか! 頭ぶつけたんですよ!?」

「へ? だ、大丈夫だよ……軽くぶつけただけだから、直ぐに痛みも引くよ」

「バカ言わないでください! もしも何かあったらどうすんですか!」

「で、でも……」

「いいから! 保健室行きますよ! 立てますか?」

そう言って、俺は無意識に手を差し出す。

「う、うん……」

笠島さんは、少し躊躇しながらも、俺の手をとって立ち上がった。

「ふらふら しませんか?真っ直ぐ歩けますか」

「うん……大丈夫」

「よし、じゃあ、保健室行きますよ」

俺は、エスコートするように、笠島さんの手を取りながら、保健室に連れて行った。



「……コブになってる程度で、心配はなさそうですね」

保健室い行き、先生に見てもらうと、頭を冷やすだけで治療は済んだ。

「そうですか……良かったです」

俺は安堵の息を着いた。

「もし数日間痛みが引かなかったら、病院の方に行って下さいね」

「だから言ったでしょ? 軽くぶつけただけだって」

氷袋でぶつけた所を冷やしながらムスッとした表情で笠島さんは言った。

「何かあったら大変じゃないですか。念には念を入れないと」

「心配性だなぁ。私の体はそんなに柔じゃないよ」

「柔かどうかなんて分かんないじゃないですか。女の子なんだからもっと体を大切にしないと」

「雑には扱ってないよ! ただ、少しはしゃぎ過ぎるだけだもん!」

「自覚してるなら抑えて下さいよ……。あんな狭い所で踊ったら危ないってすぐ分かるでしょ?」

「……だって、津守くんを楽しませようと思ったんだもん……見て欲しかったし」

「だったらゲームセンターに行った時で良いじゃないですか。心配したんですよ……ホントに」

「……ごめんなさい」

「分かればいいんです。まぁ、止めなかった俺も悪かったといえば悪かったんですけど……」

でも、誰だってあんな所で踊ったら、危ないって分かるはずだ。踊ってる当の本人が一番感じるでしょうよ普通。

「……ねぇ、津守くん」

なんて事を考えてると、少し間を空けて笠島さんが問いかけてくる。

「何です?」

「気づいてるの?」

「……何がですか?」

「私とお喋り出来てるの」

「え? …………あ」

本当だった。いつの間にか自然と会話してる……。全然気が付かなかった。

「無意識だったんだね……。意識し過ぎるから喋れなかったってことなのかな」

「そう……なんですかね」

今は凄く落ち着いていた。何も気にすることなく、笠島さんと話が出来る。

俺の中でどんな変化があったのか、自分でもよく分からない。でも、凄くスッキリしていて、喋れることが嬉しかった。

「頭ぶつけた私を心配してくれてからだよね。……ってことは、あの時、津守くん、凄く必死になってたんだ。あははは」

「な、なんで笑うんですか」

「ううん……なんか嬉しくて。ようやく君のことを知れたからかな?」

とっても嬉しそうな顔で俺に微笑みかけてきた。

「……そ、そうですか」

その笑顔に思わず照れてしまい、顔を逸らしてそう言った。

「さて……時間も随分経っちゃったし、そろそろかえろっか」

「あ、はい。そうですね」

「私鞄取って来るから、昇降口でまっててね。津守くんも、鞄取ってきてね」

「あ、はい」

そういうと、笠島さんは小走りで走って言ってしまった。

「……昇降口で待ってて……か」

一緒に帰るカップルみたいだな……。

って何考えてんだ! 別に俺は笠島さんとそんな仲に成りたい訳じゃ……。

「…………」

なりたくないって言ったら嘘になるけれど……で、でも! 俺が好きなのは岬希さんなんだ!

……岬希さんのはずだ。昨日の夜だって、そう確信したじゃないか。

「…………」

でも、今はなんだか、そんな気持ちになれなかった。頭の中で、笠島さんの事が浮かんでくる。

そんな分けない! と、俺は頭をブンブンと振り、変な考えを捨て、鞄を取りに戻っていった。



鞄を持って昇降口に付くと、笠島さんが待っていた。

女の子が俺を待ってくれてる……。その事実を感じただけで、俺は凄く嬉しくなっていた。

「お、お待たせ」

呼びかけると、笠島さんは俺に気が付いた。

「私も今来た所だよ。さ、帰ろっか」

靴に履き替えると、俺達は、横に並んで歩いていた。

「今日は色々あったね~。津守くんは卑屈になっちゃうし、謝るし、私が怪我したすっごく心配してくれるし」

「す、すみませんでしたね……。でも、仕方ないじゃないですか……」

「女の子との接し方がわかんなかったんだよね」

「……はい」

「素直だね。そんな所も、含めて、今日は津守くんの色んな所を知れたかな」

「そうでしょうか……」

「そうだよ。もちろん、全部じゃないけどね。全部を知るなんて、そんなのは長い時間をかけても難しい事だから」

「……そうですね」

「ひとまず、今日の目標は達成だね。これで、修行も一区切りついたかな?」

「え?」

「女の子と喋るのが目的だったんでしょ? だから、修行としてはもう終わりなのかなって」

「そ、それはそうでしたけど……俺が得たいのはそういうことじゃなくて……」

具体的な説明が出来ない。確かに目標の一つではあったんだけど、俺がしたいのは、どうしたら自分から自然に接することが出来るのかってことなんだ。

「好きな人がいるんだよね?」

「う、うん……」

「その人と話せるようにって言う修行なら、もう少し私の力が必要かな?」

「も、もちろんです! 喋れるだけで、俺はまだ何も出来てないですし」

「そっか……じゃあ、明日、私とデートしてみる……?」

「で、デート!?」

「明日は土曜日だし、特に出掛ける用事も無いの。だから、津守くんが良かったら練習として……ね?」

「もちろんいいです! 行きましょう! デート!」

迷う暇などなかった。女の子からデートに誘われるなんて、これほど嬉しいことがあるだろうか。

「じゃあ決まりだね! 一緒にお出掛けだ~!」

俺が良いというと、笠島さんも喜んでくれた。

「行きたい所とかある? 私ならどこにでもついてっちゃうよ!」

「行きたい所……ですか。俺、あんまり出掛けないから、どこに行ったら楽しいのかよく分からないです……」

「そうなの? ……じゃあ、明日は私が行きたい所に行く流れでいい?」

「はい。笠島さんと行けば、どこに行っても楽しそうですから」

「言ったね! じゃあ、明日はちゃんと私に付いて来てよ!」

「走り回るつもりですか?」

「走らないけど、色々回るつもり! どこから行こうかな~! すっごく楽しみ!」

「はは……程々にお願いしますね」

目を輝かせる笠島さんに、苦笑いをして答えた。明日はかなり大変そうだ。

でも、嫌な気はしなかった。彼女と色々と見て回ったり、遊んだりするのが凄く楽しそうに感じられたから。

「あ、そうだ。津守くん、携帯のアドレス交換しよ?」

「え? あ、はい」

携帯なんて存在を俺はすっかり忘れていた。使うことが欠片も無かったので。

鞄から携帯を取り出し、アドレスを交換する。

家族との連絡先しかないアドレス帳に、女の子のアドレスが増えた!

それが無性に嬉しくて、思わず少しだけ涙ぐんでしまった。

「これでよしっと。じゃあ、集合場所と時間は、後で伝えるね」

「わかりました」

「あ、もし行きたい所が出来たら言って良いよ。それも予定に食い込んじゃうから!」

「はい。出来たら連絡しますね」

「じゃあ、私こっちだから!」

曲がり角に差し掛かると、彼女はそう言って足を止める。

「あ、はい」

「じゃあね~! また明日!」

「ま、また明日……」

笠島さんは俺に向かって大きく手を振ると、走り去っていった。よく走る人だなぁ。

そう思いながらも、気分が盛り上がっていた俺は、走り出したくもなる気持ちがなんとなくあった。



「明日はお出かけか~。何着てこうかな~」

笠島は自分の部屋に帰ってくると、ウキウキした様子で明日着て行く服を選んでいた。

すると、窓の方から、コンコンという音が聞こえる。

「ん?」

カーテンを開けると、いつもの様に隣の家の中鶴が棒で笠島の部屋の窓を叩いていた。

昔からの習慣であり、笠島は不思議に思うことなく窓を開けた。

「よ~っす。元気してる?」

いつもの調子で、中鶴は問いかける。

「やっほ。何か用?」

「どうよ調子は。津守との練習は捗ってるか?」

「ボチボチって所かな。今日はようやく喋ってくれるようになったよ」

「まじで!? ほ~、進歩したじゃないか! はっはっは!」

「笑ってるけど、凄く大変だったんだよ?」

「そうかそうか。それで、あいつはどうだ? どんな奴だった?」

「う~ん……、女の子を意識し過ぎなのと、謙虚過ぎるのがちょっと困った所かな?」

「まぁそうだろうな。根暗男子なんて大概自意識過剰だからな」

「度が過ぎてる気がしたけどね……。でも、女の子を大切にしてくれるのが良く分かったよ」

「ほう。まぁ、津守の自制心は他人を考えての事だからな。他人を大切に思うからこそ行動できないんだ」

「なんでそんな事分かるの?」

「似たような奴が昔いたからだよ。なんとなく、あいつに似てたから多分そうなんだろうと思ってな」

「……ふ~ん」

「それで? 話せるようになったけど、まだ修行は続けてくれるのか?」

「まぁね。なんか放っておけなくて。見放したら、すぐ元に戻っちゃう気がしたの」

「お前もお人よしというか、おせっかいな奴だな。もう俺が頼んでるわけじゃないんだけど」

「ショウに頼まれなくたっていいの。これは私が決めたことなんだから」

「……まぁ、別にいいけどな。んで、お前明日はどっかいくのか?」

「明日は津守くんと出掛けるよ」

「へ? 明日もあいつと会うのか?」

「そうだよ。デートの練習だよ。練習」

「……ふ~ん! そうかそうか! なるほどな~!」

「なに納得してるのよ! 練習だって言ってるでしょ!」

「わかったわかった。そういうことにしとくよ。……ただ一つ、気をつけろよ。あいつ、女を意識し過ぎるから急に変なことし出すかもしれないぞ」

「意識してくれない人よりはマシよ。それに、津守くんはそんな人じゃないわ」

「……はっはっは。お前は男を分かっていないなぁ。俺はお前にエロ本とか気にしないで見せるけど、あいつはそういうのを知られるのが嫌な奴なんだぞ」

「……何が言いたいの?」

「欲を押さえ込んでる奴の方が爆発しやすいってことだよ。それこそ、中途半端な関係の時が一番危ない」

「……ショウって、津守くんと仲良いんだっけ?」

「別に? 去年クラスが一緒だった程度の知り合いだ」

「……なら、今は私の方が津守くんのことを知ってるってことだよね」

「そうかもな。俺があいつと会話した時間なんて、きっと1時間にもみたないだろうな」

「なら、知ったような事言わないでよ。私は今日で津守くんの事を色々知ったの。友達じゃないショウに色々言われたくないわ」

「お~、なんだ? 珍しく怒ってるのか?」

「別に? ただ、知ったような事言われるのが嫌なだけ」

「あっそうかい。まぁ、せいぜい気をつけろよ」

「せっかくのお出掛けなんだから私は楽しいで来る! じゃあね! お休み!」

少し苛立ちを露にしながら窓を閉めた。

「……まったく……急ぎ過ぎなんだよ……ハメだけは外すなよ、乙嶺」

笠島の閉めた窓を見ながらそう呟くと、彼も窓を閉めた。


 ※


彼は、人生で初めてのデートをすることになりました。

名目は練習ですが、女の子と2人きりで出掛けるなんて、練習でも本番と変わりはありません。

そして、笠島様と、中鶴さんのあいだにも、何やら複雑な事柄があるように見受けられました。

このデートが、彼にどのような影響を及ぼすのでしょうか。

良い意味でも悪い意味でも、大きな影響を及ぼすことに間違いは無いでしょう。

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