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第2章 君を知る

授業中俺は考えた。彼女と知り合いになるためには情報が必要だと。

何年生なのか、どこのクラスなのか、どんな子なのか、友達は誰がいるのか、何が好きなのか。

まずは相手を知らなければ、出会いなど当分先のことだ。

今は1時間目だ。これが終わった休憩時間に、彼女が何年生なのかを調べよう。

そう心に決め、休憩時間になると、俺はすぐに教室を飛び出した。

まずは同学年を調べる。一つ一つクラスを周り、彼女がいないのか探す。

あんなに綺麗な人だったんだ。一目見ればすぐに分かるはずだ!

……そう生き込んだのはいいものの、一年のクラスに彼女の姿は無かった。

そもそも、ずっとクラスにいるわけでもないんだし、場合によっては見つからないのも当然だ。

気を取り直し、次の休憩の作戦を考える。

2間目は体育だ。球技大会に向けて俺達も練習だ。

男子はソフトボールと言うことで、グラウンドで練習試合を始める。

この学校の体育は2クラスが合同で体育を行うため、クラス対抗戦の球技大会の練習には持ってこいだ。

しかし! 俺はそんな学校行事には目もくれず、次の作戦を考える。どうせ補欠で出ることは無い。

ベンチの片隅でひたすらに頭を悩ませていた。

1年生のクラスにはいなかった。と言う事は、上の学年の可能性もある。

そうなると、2年生のクラス塔に行かなければいけない。

1年生が2年生のクラスに行くのは中々に勇気がいる。教室をのぞこうとしたら、それこそ緊張でぶっ倒れてしまいそうだ。

そうじゃなければ聞き込み? コミュ症の俺が聞き込みなんてしたら、キョドって何も喋れないぞ。

どうしたもんかと考えていると、目の前に飛んできたボールに気がつかなかった。

「がはぁ!?」

顔面にボールがクリーンヒットした瞬間に、ボールが飛んできたことに気が付いていた。

俺はそのままベンチの後ろに転げ落ちた。

「おい! 大丈夫か!?」

担任が駆けつけてきた。大丈夫なもんか。警戒心0で顔面にボール喰らったら衝撃がヤバイに決まってんだろ。

「……大丈夫です……」

ほらを吹きながら俺はよろめいて立ち上がる。ヤバイけど、皆が楽しんでる所に水を差したくはない。だから、迷惑をかけないように強がりを見せる。

「大丈夫って……お前鼻血でてるぞ! 保健室行って来い!」

「へ……?」

言われて初めて、鼻血が出ていることに気が付いた。

「おい! 誰か保健室つれてってやれ!」

担任がそんな事を言い出した。

「い、いいです! 対した事ないんで一人で行けます!」

慌ててそう言って、俺は一人でさっさと歩き出す。

「ほ、本当か? かなり酷そうだが……」

「大丈夫です。皆は練習頑張ってて……」

そう言って、俺は鼻を押さえて一人で保健室へと向かった。

俺に付き添いたいやつなんているはずがない。2人になって、変な気を使い合うのはごめんだ。



「……はい。治療終わり。次からはぼーっとしてちゃダメよ」

保健室で鼻と頬の治療を受けると、早々に俺は保健室から出た。保健室でサボるのもあんまり好きじゃないし。

保健室から帰ってくる途中、体育館横の渡り廊下をわたっていると、体育館の方から女子の声が聞こえてきた。女子も体育をしているようだ。

クラスの女子達が体育館でバトミントンの練習だと言う話を横耳で聞いたので、俺はそんなに興味を引かれることなく、声のする方を横目でちらっと見てみた。

しかし、流し目で見ただけなのに、体育館の前には、友達と談笑するあの女性の姿が見えたのだった。

校門で見かけた、あの笑顔が素敵な黒髪の彼女だ。

……なぜあんな所にいるんだ?

グラウンドに戻ろうとしていた俺は、すぐさまその謎を解くために、物陰に隠れ、体育館に近づいた。

植木などに身を潜めながら近づき、一番近くのスニーキングポイントまで到達する。

聞き耳を立てて彼女達の会話を聞こうとする。

「――なのよ! ホント笑ったんだから~!」

「私も笑った~! 恋菜とは笑いのセンスが合うわね!」

「私その番組見逃したの。見たかったな~」

3人で話をしているのが聞こえる。隠れているから誰が喋ってるのか全然わからない。

「今日やるって言ったじゃん! なにしてたの?」

「お兄ちゃんがご飯食べに行くって言ってたから、家に居なかったのよ」

「そうなんだ~! もったいないな~!」

「ミサの兄貴って妹大好きだよね。毎日構われててウザくない?」

「そんな事ないよ。普通だって~」

凄く普通のやり取りが広がっている。この会話から、彼女の名前を推測しなければならない。

「ちょっとあなた達! いつまで休憩してるの!? 早く中に戻りなさい!」

突如、新しい声が聞こえた。どうやら先生が呼びかけに来たようだ。

「「「は~い」」」

3人の返事が聞こえ、体育館に入っていく足音が聞こえる。、

音が聞こえなくなると茂みから顔を出し、確認してみると3人ともいなくなっていた。

タイミングが悪かったか。あんまり話を聞けなかった。

今の所、名前っぽいのが聞こえたのが、レナと、ミサの二つか。これがあだ名なのか本名なのかはまだ分からない。一つの推理要素としておこう。

もっと情報がほしい。どうにかして体育館に潜入する方法は無いだろうか。

正面切って入るわけには行かない。なにか無いだろうかと辺りを見渡す。

「……お」

すると、俺は一つあるものを見つけた。

それは、体育館の舞台裏に入る為の扉だった。

演劇の時に使う裏口だ。外から直接舞台袖に繋がっているので、この扉が開いていれば見つかることなく入れるはずだ。

俺はそそくさと扉の前に行く。しかし、鍵が掛かっていたら入ることは出来ない。

頼む! 鍵よ開いていてくれ! そう強く願いながらドアノブに手を伸ばす。

ゆっくりとノブを引くと、扉はゆっくりと開いた。

よっしゃあああああああああ! 心の中で喜びの雄たけびをあげ、俺はささっと中に入っていった。

舞台裏は暗く、外からの光しか入って来ないのでとても薄暗い。物に躓いたり、音を立てないように慎重に足を進める。

舞台裏に来た所で、顔を出さなければ彼女の姿を捉えることは出来ない。

しかし! 舞台袖には小さな放送室がある。その放送室には体育館ホールが見える小さな窓がある。

さらに、その窓はマジックミラーになっており、放送室の中からホールは見えるが、ホールから中は見えないようになっている。

その小さな窓からホールの様子を伺う。沢山の女子が汗を流している。

そんな中、俺は何故あの女性が体育館にいるのかを理解した。

対した話じゃない。ホールの真ん中をネットで区切って、学年事に練習してたんだ。

一瞬同じクラスにいたのかと思って焦ったよ……。

彼女を探すと、簡単にその姿を見つけることが出来た。

先ほど談笑していた時とは違い、真剣に体育の授業に励む彼女の姿があった。

「……綺麗だ」

彼女の姿を見ているだけで癒された。何時までもこうして眺めていたい、そう思えるほどだった。

そして、俺はずっと彼女に見蕩れていた。ずっと見ていても、彼女は俺が見ていると気が付くはずが無い。

だから、気兼ねすることなく、ずっと彼女を見ていられる。

最高に……幸せの時間だ!

しかし、そんな時間は長くは続かない。授業の終わりの時間になれば、彼女達は体育館から出て行ってしまう。

その残念な気持ちが、俺の思いを膨らませる。

もっと彼女を見ていたい。もっと彼女の事を知りたい!より深くそう思うようになっていった。



……なので、昼休みになると、俺は飯も食べずに彼女を探し回っていた。

屋上に行ってもいない。校舎を探し回っても姿は見えない。

外に出て、俺は校内中を駆け回った。

中庭に出ると、芝生の上にシートを広げ、楽しげに昼食を取っている生徒達が沢山いた。

「……あ!」

その中に、友達と弁当を食べる彼女の姿を見つけた。走り回って疲れていたが、彼女を見つけた瞬間、その疲れは吹き飛んでいた。

人も多いこの場所に俺がいても不思議ではないから丁度いい。

どうにかして、彼女の話を聞くことは出来ないだろうか。

あたりを観察してみると、彼女のいる近くに、一本の木があった。

……あの木に隠れていればばれないんじゃね?

そう考え、俺は何気なく、彼女のいるほうへと歩いていく。

あくまでも平然と、無関係の様に歩いていく。

そして、彼女達の死角に入ると、俺は滑り込むように木に張り付き、姿勢を低くした。

頭を覗かせ、彼女達の会話を聞く。

「ミサって、いつもお弁当自分で作ってるの?」

茶髪の女の子が喋っている。彼女はミサという人ではないと言う事か。

「うん。私、料理するの好きだから」

彼女が反応をした。ってことは、彼女がミサって名前なのか。声も覚えたぞ!

「いいなぁ~! 恋菜も岬希ちゃんのお弁当たべた~い!」

レナと自分を呼ぶ女の子が、ねだるように彼女の袖を引っ張っていた。

なるほど、これで彼女の名前と声が分かった。

俺は覗かせていた頭を引っ込め、彼女達の死角となる場所で、木にもたれかかる。

俺はその場で目を閉じ、くつろいでいた。

彼女がこんなにも近くにいる。距離で言ったら、3メートルも無いだろう。

会話の内容は、凄く世間的な会話でしかない。

でも、それが彼女の声だと思うだけで、幸せになれた。

本当なら、一緒に喋ったり、遊びたいと思ったりするのかもしれない。

けど、俺はこれで満足していた。

彼女を感じられるこの空間は、それだけで満たされていたのだ。

予鈴のチャイムがなり、彼女達が教室に帰っていくまで、俺は木陰で彼女達の話を聞いていたのだった。


 ※


その後も、彼は同じことを繰り返します。

休憩時間になれば彼女を探して学校を散策し、昼休みには木陰に隠れながら彼女達の話を盗み聞きし、家に帰っては彼女の事を考え、幸せに浸っていました。

そして数日間、彼はそんな風に過ごして行きます。

それだけで済めばまだいいのですが、彼の行動は日々エスカレートしていきました。

健康診断後、彼は隙を見て、彼女の診断結果を覗き見したりしていました。誰にもばれないように起用にこなすのがまた彼のいやらしい所です。

……やれやれ。偏った知識と言うのは、犯罪と言う自覚を感じさせない物なのでしょうか。

それとも、元々彼にはその気質があるのでしょうか。

いずれにしても、このままでは彼はただの変態ストーカーとなってしまいます。

それだけは避ける必要があります。今後、彼はまともな青春時代を送ることができなくなってしまいますので。

なので、少しだけ、彼の行いを正すために、救いの手を差し出してあげましょう。

彼が彼女と出会うまでは、もう少し時間が掛かりそうです。


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