プロローグ
季節は春。桜が満開に咲き、今日は最高に陽気な天気です。
新たな春の訪れに、様々な人が気持ちを新たにしていることでしょう。
中学生は高校に上がり、高校生は大学にあがり、大学生は社会人へとなっていく。
新しい生活の始まりに、緊張することもおおいですが、わくわくした気持ちが心のどこかに燻っているはずです。
そんな華々しい物語が……始まらないのがこの物語です。
さて、ここに今年の春から高校生に上がったばかりの男子生徒がいます。
今日は高校生活初の始業式だというのに、彼は
カーテンの閉った薄暗い部屋で、食い入るようにパソコンの画面を見つめています。
彼が何をしているのか、大義名分があるわけでもなく、世界を少な分ければならないと言ったことは何一つなく、彼はただ只管に、エロゲをしているだけなのです。
この物語は、彼にまつわる、大して面白くも無い、平凡で、誰にでもある日々を綴った物語なんです。
そんな物語を、あなたは楽しんでくれるでしょうか。
まずは少しぐらいのプロローグをお読みになってくれることを、私は願っています。
※
俺は女という存在が大好きだ。
可愛く、美しく、可憐で、愛おしく、時には強く、強かであり、一途だったりする。
そんな女性という存在が、俺は大好きなんだ。
「……ふ」
俺はPCの前に座り、画面を食い入るように見る。
「……ふふふふ」
もうすぐだ。もうすぐ、俺は一つの偉業を成し遂げる。その目前であり、俺は思わず口元が緩み、笑いが出そうになる。
徹夜までして得たこの偉業は、俺の中に最高の至福と達成感をくれることだろう。
後は、キーボードのエンターキーを押せば、それでこの偉業が達成される。
「ふふふふ……ついに……ついにこの時が来た!」
最高潮の気分でエンターキーに手を伸ばし、それを押した。
その瞬間……
『あぁん! だめえええぇぇぇ!』
俺の着けているヘッドホンから、女性の甲高い声が響く。
その瞬間、画面が一瞬白く光り、表示されていた一枚の萌え絵に、白い成分がプラスされる。
「……ふふふふふふ……は~っはっはっはっは!!」
俺は偉業を達成し、最高の笑い声をだしていた。
今PC画面に映っているのは、昨日発売になったエロゲーである。
俺がどんな偉業を達成したのか。それは、発売したばかりのエロゲーを、攻略情報なしで12時間以内に全ての女性を落とすと言う内容だ。
フルプライスのゲームは要領が大きく、ストーリも長い。しっかりと全てを理解して、12時間でクリアするのは相当きついだろう。
計測していたタイマーでは11時間以上かかっている。かなりしんどかったのは言わなくても分かってくれると思う。
でも、俺はやり遂げた。その達成感は、本当に最高のものだった。
……こんな事で喜ぶとか、カスみたいな奴だなと思う人もいるかもしれない。
でも、俺はこんなんで喜べる。それは、女性が本当に好きだからだ。
ギャルゲやエロゲの女性は本当に魅力的だ。
全てが完成されており、嘘偽りが無い。そのままの彼女達でしかない。
がさつな幼馴染も、優しい先輩も、ちょっとクールな後輩も、ツンデレなクラスメイトも、真面目キャラの委員長も、全てがありのままだ。
そんな彼女達を、俺は本当に好きなんだ。心から愛してる。
だから……俺は全ての女性を一日で愛することが出来て、最高に幸せなんだ。
誰にも、俺の喜びを共有することなど出来ない。出来るはずも無い。
愛の形は、人それぞれだから!
「……ふぅ」
俺は高笑いをやめ、椅子に座りなおすと、一定感覚でエンターキーを押し、ゲームを進めていく。
そして、最後のエンドロールが流れる。これで、俺の中の現実がまた一つ終わりを告げる。
終わりと言うのは、本当に虚しいものだ。しかし、幸せの終わりの後は、心地よい余韻が残る。
エンドロールが流れ終わり、達成感を味わったのも相俟ってか、とてつもない眠気が襲ってくる。
このまま眠れば、幸せに寝れそうだ。
フラフラと歩き、俺はベットに倒れこむ。
そして、夢の世界へと誘われ様と目を閉じかけた時だった。
「椋渡! 朝ご飯よ! 早く起きなさい!」
扉を叩く音と同時に、母親の声が聞こえた。
俺は閉じそうになった目を開き、一気に現実へと引き戻される。
「……ふぅ」
思わず溜息をついた。幸せの余韻を邪魔されたから……だけではないと言っておこう。




