実技試験開始の音がする。
「それでは、実技試験を開始します」
「あー私は良いわよ、先生になってまで試験は受けたくなんてないから」
「先生が生徒を見捨てるんですか」
「私が、今まで教えた事を思い出して、きっとそれが力になるわよ」
「先生、こんな状況で役に立つことなんて、何一つ教えてもらった事をないんですけど」
「そりゃあこんな状況を見越して教えられる事なんてないわよ、でもアドバイスするなら問題を見上げて怖がってもしょうがないわよ、見越して対処するのが出来る大人と言うものよ」
「じゃあ結城先生は、出来ない大人ですね」
本当に役に立たない大人である。
「これ以上始める前に余計な事を言い出しますと失格という事で宜しいでしょうか」
「あっすいません」
騒ぎすぎて、南野社長に怒られてしまった。
南野社長がまだ念を押すように此方を睨んでいる所為もあってか、僕の肩身は狭い。
視線の矛先であるはずの結城先生は、全く意に介していないように、ヘラヘラ笑っていたが。
「さっさと、初めてもらおうじゃねぇか」
魔法少女キュアトロールは、待ちきれないで拳をペキパキペキとならし、肩をグルグルと回しながら獰猛に息巻く姿は、魔法少女と言うよりも、チンピラのようでもある。
「それでは、井上さんスマホのアプリを起動させ空想空間を選択して下さい」
言われた通りにアプリを起動させると、社長室の室内の風景が急速にピンクの様な赤い色に塗りつぶされた空間にいた。
殺風景というのだろうか、辺りを見回しても、先程まで騒いでいた部屋とはかけ離れている。
理解が追いつく前に南野社長もスマホを取り出した。
「それでは、実技試験開始です、合格条件は私を倒す事です」
南野社長がスマホの操作を終わるや否や、また塗りつぶされ空間が、姿を変え僕らは階段の下に南野社長は十数段は上の階段にいた。
階段には石灯籠が設置されており、その灯りの所為だろうか辺りの風景をユラユラと揺らしている。
その先に鳥居の様なものが見える以外は何もなく、周囲はそれ以外は月が出ている以外は何もなかった。
「気づいているか、魔法少女井上」
「魔法少女じゃないけど、もちろん気づいている」
結城先生がいなくなっているというどうでもいいことではなく、南野社長がカボチャの被り物にカボチャのランタンを携えて、ハロウィンの魔女のコスプレをしていた。
「魔法少女だったとはな、魔法少女キュアトロールに最初から喧嘩売っていたとは」
「魔法少女らしさは、断トツで南野社長の方が、それらしいけどね」
階段の下の僕らに向けて、挨拶も兼ねているのだろうか、手にもっていたランタンが揺れると巨大なカボチャがゴトンと音を立てて、僕らに向かって来た。
「魔法少女ジャック・ラーン参ります」