犯人は嘆くのだろうか
幸せは貯金出来ないけれど、不幸は貯金出来る。
僕のおじいちゃんあたりが言ったならばそれなりに含蓄のある言葉かもしれない。
テレビのコメンテイターや何気なくみた音楽番組のアイドルグループの歌詞のよくある一節かもしれない。
たまたま僕が思いついたのかもしれないし、はたまた隣りで獰猛なキュアトロールが言っていたかもしれない他愛もない言葉なのかもしれない。
言葉の意味を知らないが、そんな言葉が脳裏に浮かんだ。
目から送られてくる状況を拒否したいためだろう。
首がもげた女神像
道のあちこちに胴体が散らばっている。
道路が陥没というには大げさにしても女神像の何体かが頭から、胴より埋まっていて、そう言う畑のようだ。
この女神像が僕にめがけて突撃してきた事や、女神像の入った籠をぶん回しながら遠心力から解き放たれた女神像が、頭上スレスレをかすめていった事は中々に心臓と頭に悪かった。
原因の少女は女神像をいだきながら、身体のあちこちに、キュアトロールとの殴りあいの際にできた傷や流血など構わず、横たわる最後まで女神像の購入を薦めたことも僕の脳や心に悪かった。
「時代が違っていれば、友になれたかもな」
「今の時代で友になる気はないんだな、それにしても何でこんな目にあうんだか」
助けてもらった事はそれはそれとして、礼儀としてキュアトロールにツッコミをいれる。
しかし、この状況は、惨状といえばいいのか。
もし、僕が無関係ならばこの状況では一目散に逃げだす事であろう。
いや、逃避したくなる状況という点で犯人みたいだ。
「さて、キュアトロールどうしようか?」
「お前、この状況でこの押し売りの少女から衣服毟るとか有り金奪うとか考えているのか?」
「一切考えてないわ!」
「じゃあこの場から速やかに離れろよ、誰かに見られたら明らかにお前犯人だから」
この現状はお前が6割、僕1割、押し売り少女が3割元凶のような気がするけど、そんな言葉を飲み込みつつ、一気に駆け出した。
「おって来ないよな、ホラーじゃあるまいし」
「死んで追いかけてくるならホラーだけど、生きて元気なら追ってくるだろう多分」
警察に通報したほうが、良いのか分からない。
もし無関係ならば、そうしたのかもしれない。
その場に留まって犯人扱いされたくないしと走りながら、不幸な事は溜まっていく、次から次へと来てしまうのかもしれない。
だから仕方ない。
自己否定と肯定を繰り返し、不安にかられては後ろを振り替えり、逃げ出した。