鰯の頭も信心から
怪しいというのは、もう少しぐらいなりを潜めるものだと思うのだ。
幸運の石のペンダントしかり、開運の壺しかり、恋のパワースポットしかりそれとなく、どことなく怪しいという迄に留まるから半分信じて貰えるというものだ。
しかし、少女のもつ悪趣味な金ピカな女神像は怪しさをこれ程までにテカテカと自己主張をしてくると、怪しさを通りこして不気味いや不吉を体現するものなのかもしれない。
それを購入したとして、幸運が運ばれるとは到底信じられるものではないというか信じる人がいたなら、鰯の頭でもありがたるような人か、あるいは純粋無垢のような人だ。
薄幸そうな少女に対する罪悪感はあれど、あの女神像がそれすら帳消しにしている。
もし、幸運の石のペンダントや壺であれば値段によっては優しい僕としては買っても良いかなと思えても、あの女神像は買おうとは思えない。
「その女神像何か呪われてない?」
「幸運の女神像買ってください、お願いします」
場を和ますフランクな会話を試みたけれど、脅迫めいた返事が返ってきただけだ。
「この女神像に祈れば、お兄さんが常々願うように欲しいものは手に入り、常々思うように幸せそうな奴らを懲らしめることも可能です」
少女が言ったことを微塵も思ってないとも言い難いけど、そこは否定しようたした矢先、籠の中の女神像が僕の足元に落下してきた。
中々に鈍い音が、周囲に響いていたから、もし僕の足に直接落ちていたならばと思うとゾッとする。
少女が故意にやっていないというのは、見ていればわかったので、強くいう事は出来ない。
だけど、やんわりと買うのを拒否する事はできるはず。
「やっぱり何か呪われてないその女神像!」
「女神像もお兄さんの元に行きたがっているようですね」
よしそれなら買ってみるかとはならないから、何その営業トーク。
どうにもならないような焦燥感と、また何か女神像が、事故的に危害を及ぼすんじゃないだろうかと思うと、もう財布を開いたほうがいいんじゃないだろうか。
そんな心を汲みとったのか、絶妙なタイミングで僕のよく知る魔法少女が現れた。
「井上、助けてやろう」
スマホの振動音をBGMにしながら意気揚々とイキナリ出てきた、怪しさとか不気味さなら女神像にもひけを取らない、魔法少女キュアトロール。
彼女を信じるのは、鰯の頭を信じるようなものなのかもしれない。
いやここは相棒として藁にでもしておこう。