押し売り
何事にせよ、他人事であるならば軽く言える。
幸せも、不幸せも。
まとめての大安売りかと言うぐらいにおめでとうとか、かわいそうにと実に軽く言える。
まるで他人事で自分の幸せも不幸せも満たせると言わんばかりに他人事が溢れている。
嘆かわしいと誰に言えばいいのか、それとも喜ばしいと当たり障りがないようで、実に皮肉っぽく呟けば世界は変わるのだろうか。
同情したところで救われない。
感動したところで己が醜いとしる。
全くもってよくできているのか、いないのか。
考えれば考えるほど嘆息するよりないが、それはそれとして僕は嘆息よりも先に息切れしている。
夕方という犯罪が起こりやすいとも、変質者が出やすいとも言われている時間帯に、人があまり通らない狭い路地裏で、はぁはぁと息切れしている状態だけを見られれば、心ない結城先生やキュアトロールあたりが、お前のほうが変質者みたいだと言ってきそうな状況ではあるが、変質者とも言うべきは断じて僕ではなく、数分前にあった少女である。
いや、変質者というのはいくらなんでも言い過ぎだろうかと思う。
変質者というよりは、ただの押し売りと言ったほうが正しい。
より正しくいうのであれば、ボロボロでところどころアチラコチラ、布地の色合いすら無視されたツギハギされた衣服をつけている。
そのコスプレを誰かに強要されたのであれば、その薄幸のオーラをかわれたに違いない。
しかし、それ以上に目を引くのは、行楽シーズンでしかお目にかかれないような籠いっぱいに悪趣味な金ピカの女神像がはいっていたことだ。
その時点で、怪しさいっぱいな少女がこちらを見るなり、籠から女神像を取り出して、ぐんぐんと近づいてきた。
コレがあれば幸せになれるので、買ってくださいと同情を誘うような声とはウラハラにイキナリ、僕にその女神像を渡そうと、逃がすまいと、ひ弱そうな身体からは想像できないあらん限りのオーラで近づいてきた。
そこからは、一気に逃げ出した。
脇目もふらず、ただただ後ろから聞こえる怨嗟のような少女の声が聞こえなくなるまで走った。
思い出しても冷や汗が出るが、兎にも角にもようやく息切れも落ち着き、ここ最近こんな事ばかりで本当にツイてない。
溜息をつき、もう少し一息つこうと地べたへ座り込むと、先程と同じ儚げな声が聞こえた。
「お兄さん、この女神像買ってください、きっと幸せを貴方に運んでくれます」
自分自身の唾を飲む音が聞こえる。
「買ってくれないと、お家に帰れないんです」
同情を誘う声とはウラハラに、先程といやそれ以上に逃がすまいとグイグイと近づいてくる。
「お願いします、優しくて不幸な貴方に買って欲しいです」