後悔は先立たずとわかってる。
枕返しがどうやって、世界を征服するのだろうと思ってた。
いや、アイドルとして活動している様なキュアトロールと比べるまでもない対極にあるはずの娘から発せられた物騒な言葉すら可愛いなぁと思えるぐらいに、フワフワして現実味がないとまで思っていた。
魔法少女キュアトロールが、もし同じ事を、言ったのならば僕はコイツはやっぱり物騒だなとかコイツならばやりかねないと多少なりとも警戒あるいはドン引くことぐらいはやった。
微塵、塵芥も一考することも警戒することもしなかった数分ぐらい前の僕自身をしかってやりたいし、アホか貴様と自分自身で不毛ながらも罵るという行為すらじさない心構えである。
更に言っていいのならば、眠ったら死ぬという南野社長の忠告を単なる雪山における忠告だと思ってた僕はなんてアホだろう。
どうせ肝心な事を聞き流したか、あるいは見逃していたのかのどちらかだろう。
両方という可能性もあるが、そうだとたならば相当のアホだろう。
南野社長が、わざわざ雪山で寝るななんて今更ながらの忠告なんてするはずもないのだから。
いや、でももし南野社長が口酸っぱく忠告を忘れないぐらいにしていたのならば、魔法少女キュアトロールが喜ぶ様な荒事が起こらないなんて、たかをくくっていた僕自身を今となって恥じる事にならずにすんだはずではと思う気持ちも多少なりともある。
「おい井上、小難しい事考えて眠るとか勘弁してくれよ、あいつの言うことが本当なら、寝たら死ぬぞ」
「誰のせいでこうなったと思っているんだよ」
「仕方ないだろう、枕返しが寝ているヤツの枕返すだけで殺せるとか誰が知っているんだよ」
確かに僕もしらなかったし。
なんだったら人畜無害とさえ思ってた。
でも、わざわざこんな状況で尾を踏む真似をしなくてもいいだろう。
最初に尾を踏んだのもキュアトロールだったと思いだす。
「お前世界を征服とか無理だろう、なぁ井上」
「何貴女も枕返し侮っているなら、後悔するわよ」
「いやぁ枕返すぐらいのイタズラするだけの存在で、なんでそう強く出れるのか」
その軽口からの言葉は僕も思っていた事であり、どうやっても無理であろうと思っていた。
それが枕返しのトムちゃんを侮っていた事であり、枕返しのトムちゃんを怒らせたのだろう。
カラカラと音を立てる糸車がその怒りを呼応するかのように今までよりゆっくりと回りはじめた。
回りはじめた最初は見かけなかったのに、今ではそこかしこに現われたのか口笛を吹きながら小人が数人、針をもちながら此方へと突進してくるし、枕返しのトムちゃんは小人に埋めつくされるように、ハリネズミのように身を固めている。
確認出来るのはトムちゃんのその象徴ともいうべき枕だけ。
「もう一度、教えてあげるけど枕返しは、眠っているなら人なんてこの枕を返すだけで簡単に殺す事が出来るから、そしてイバラの針に刺さったら百年は眠れるから、私はこの新しいパートナーと世界を征服するし、侮った事を死ぬほど後悔させる」
つまりは今僕たちは寝たら殺せる枕返しと眠りに誘うとする小人状況に囲まれて追い込まれてるという。




