幸せをお祈りします。
かぐや姫のメイド服の姿をみれた時の喜びは、僕自身が後でスマホの動画に撮られて動画の投稿サイトに投稿されたのならば、僕以外は失笑し僕は失踪するぐらいの浮かれっぷりだっただろう。
喜びの余韻で恍惚に授業を受けた週明けなど、保健室と職員室どちらが良いかなど心配されているのか、酒でも飲んでいるのかと説教の対象にしていいものか悩んだ複数の先生に声をかけられしまう程に喜んでいたのだろう。
放課後に至っても余韻は抜けず結城先生に惚気ていた。
「いやーつまるところレア最高っすね、癒し最高っすね」
「井上君、ついに退学か寂しくなるわね」
「なってないです、退学だとしても心込めてくださいよ結城先生」
全くもって先生という枠が無かったら尊敬を抱くことが無いだろうと思う。
あいも変わらず、部室は結城先生の座っている場所からゴミが侵食している事から、何も罪のない健全な教え子である僕を根拠もなく、退学と言ってしまえるその神経に繋がっていて図太く出来ているのだろう。
「いやでも今幸せですから多少の結城先生の軽い暴挙や暴言ぐらい許容しますよ」
ビシッと親指を立てて、僕の拡がった懐を見習って欲しい。
心は狭く精神は図太くの結城先生は是非とも見習って欲しい。
「腹立つ程に幸せそうで何より」
「結城先生にも幸せが訪れるよう祈っています、割とガチ目に」
目をつぶって両手を組み祈ってみたけれど多分先生に幸せが来ることは無いだろう。
仮にも祈ってあげた生徒に対して、目潰しをしてしまう先生に幸せが来るのは不条理だとも思う。
痛さのあまりうずくまっている僕をスマホで撮影しているような性格の持ち主に幸せを祈ってしまった事を後悔しそうになる。
「幸せだわー性格の悪い生徒のその姿幸せだわー」
「追い打ちかける結城先生の方が、性格悪いですよ」
しかも幸せの言い方を小馬鹿にしているところがなお腹立つ。
「結城先生そんなんじゃ幸せになれませんよ」
「井上君、でも幸せって言うのは人それぞれ違うの、井上君みたいな屑に騙されていく日々が幸せと思う人もいれば、夢を追う日々が素晴らしく幸せだと思ったり、それを形に手に入れてこその幸せはまた格別だと思ったりでも時たま思うのよ」
飲みかけの缶コーヒーを飲み干してその空き缶を天井に向けて放る。
そこら一体に散らばった缶コーヒーを指差しながら。
「ダラけてふざけて遊んで、ぐうたらな日々を送っている私は何て幸せだろうってね、あの日々は何だったんだろうってね」
カランガランと放った空き缶が散らばった缶コーヒーの中に混じった。
「幸せは証明しなくてもいいし、努力しなくてもいいし結局は妥協とか打算の賜物で手に入るっていう屑の井上君の言葉通りね」
「そこまで言ってないです、それより散らかさないでくださいよ」
「先生の幸せの為を思うなら祈るより行動という訳で掃除よろしくね」
「イヤです」
「幸せなら良いんじゃない掃除ぐらい」
幸せなら良いんじゃないまぁそれはそうだけど、軽い暴言暴挙なら許せる程には幸せだから。
「それより何より井上君が幸せとかワロスワロス、今度のイベント爆死してノーマルダブれよとも思ってのことよ」
本当にこの結城先生は性格が悪い。