猫とネズミは結婚を
「どんな顔して戻れば良いか」
「どんな顔でも井上はイケメンにはならないだろう」
そりゃあならないだろうけどさ。
これで、かぐや姫の元に戻った時にイケメンになっていたら僕の細胞おかしすぎる。
逃げ出したぐらいで、そんな事でイケメンになれるならば、世の中の僕のような奴らは全員イケメンでないとおかしすぎる。
先ほど決意をあらたにして、初心を思い出した様にもう一度かぐや姫を使い魔メイドという癒しを求めてふるいたてたは良いものの、逃げ出したという負い目のようなものがのしかかって来ている。
「なぁキュアトロール今更、やっぱ辞めると言い出したらどう思う」
「殴ってやる」
「ですよねー」
わかってはいたけれど、サラッと言っているけれど、本当に殴られる危機感で、心身を引き締める。
引き返したくなる心を抑えながら、結局どんな顔をしながら会いに行けばいいのかはわかってない。
でももう一度僕の思いを伝えるだけだ。
ただ、再度かぐや姫のいる部屋へと戻るとかぐや姫はいない代わりと言ってはなんだが、そこには一匹の猫と2匹のネズミがいた。
ネズミはとくに特徴がないのだが、ワンピースとズボンで性別の違いを辛うじて強調しているのだろうか。
わかりづらいことこの上ないが、それでも礼儀よく並んでじっと動かないように座っている。
その点、猫は特徴的である。
シルク帽をかぶり、自慢気に髭をたて紳士的に見せるためなのかステッキの代わりの重厚な色合いの黒傘をくるりと回して立ち、そして、年季以外褒めようのないボロボロの長靴を履いていた。
猫はこちらにウィンクしながら歌うように軽やかな足取りで近づいてきた
「あなた方もかぐや姫に求婚を?」
馴れ馴れしく距離を詰めてきた猫は多分、猫界ではイケメンであろう。
ネズミ達はイケメンに会った時に緊張するように微動だに出来ずにいて猫がこちらに話しかけてきたのをどこかホッとしたようにも見える。
「おっと失礼、私はシャムと申しましてこちらには高貴な主の使いとしてきています、高貴なかぐや姫には私の主こそが伴侶として相応しいと思いまして」
「一々ウィンクするな気持ち悪い、ぶん殴るぞ」
いや、確かに気持ち悪という思いを抱いたけどさ。
キュアトロールのつっけんどんな対応のおかげでシャムと名乗った猫は肩をすくめて、またステッキを回し始め歌いながら呟いた。
「まぁ、かぐや姫が幸せになるのは、我が主と結婚すること以外他ならない、ネズミと結婚しても、甲斐性もなさそうな御仁と結婚しても幸せにはなれないだろう」
シャムと名乗った猫に、僕は使い魔メイドとして契約してもらい癒して貰うためにいると伝えた方がいいか、それとも極力関わる事を避けた方が良いのかわからない。
とりあえず、シャムの明るい鼻唄が魔法少女キュアトロールの虫の居所が悪くせぬようにいのりながら、かぐや姫が戻ってくるのを待つしかないのだ。