よーし契約しましょう
「泣くなよ鬱陶しい」
悔しくて零れ落ちる涙はまだ頬を伝っているが、気持ちじたいは切り替えていく。
「泣きたいからほっといてくれる」
「泣くほど嬉しいのか、人間は美しいものをみると泣く事もあるというし、それは仕方がないこと」
いえ、女王様。
美しいから泣いているわけでもないんですが、それを幼女につきつけるほど、僕は子供じゃない。
「いや、コイツ泣いているのお前が幼女だからで、美しさとか関係ない」
子供だった。
魔法少女キュアトロールは子供だった。
なんで穏便とかそういう配慮めいた事ができないのだろうか。
「全くそんな事より大事な話があります、女王様」
「急に肩を掴むな、折れたらどうする」
あぁ確かにどこかの魔法少女と違って勢い良く掴んでしまえば、折れてしまうかもしれない。
「井上のひょろい力で折れそうとか病気の域じゃないか」
「それは言い過ぎだろう」
僕に対しても、幼女に対しても。
「それで、大事な話とは何ですか?」
「七限無限社でアイドルとして働きませんか?」
当初の目的のスカウトを何度か忘れかけていたが、この幼女の女王様をスカウト出来れば、上出来なのではないだろうか。
「それは出来ません」
「よーし、これで殴れる展開だな」
「よーしじゃねぇよ、何処をどうしたら殴れる展開になるんだよ」
「井上、ここは幼女を一発殴らせて欲しい」
「お前さっき病気の域とか言ったような子をお前が殴ったら死ぬよ」
少し身体をこわばっているようだけど、こんな幼女を殴ろうとかどっちが悪役かわからない。
いや、明らかにコッチが悪役だろう。
かの女王様が僕らに何かしたというわけでもないのに殴られるなんて理不尽すぎる。
「私を殺しても貴女じゃ世界一の美女には届かないでしょうが、世界一の美女として女の嫉妬を受け止めましょう」
「別に嫉妬してないけど、殴っていいのか」
「美貌に嫉妬してないとダメです」
「井上コイツめんどくさい」
魔法少女キュアトロールが握った拳を持て余しているが、こっちを見てくるが僕だってどうすればいいのかわからない。
「あのなんでアイドルダメなんですか?」
「私は白雪姫に勝っているという事をこの城から知らしめるので、あまりこの城を出たくないのです」
「あぁじゃあ引きこもり系アイドルって事で城に閉じこもってアイドルしませんか?」
新聞の勧誘のようなそんな契約していいのかわからないが、契約をとれないよりはとったほうが良いだろう。
とりあえず契約を取れれば怒られはしないだろう。