賢者の様に
「愛とか正義の魔法少女キュアトロール」
ふわふわしてた名乗りの割りに、親指で首を掻き切るという古い決めポーズをした魔法少女キュアトロールが、先手必勝ばりのロケットスタートをみせた。
しかし、魔法少女キュアトロールが名乗る前に相手は名乗った事を忘れていた。
いや、名乗った事を忘れていたと言うよりも早く叩きのめしたいと、暴れたいと、もしかしたら初仕事の嬉しさに舞い上がっていたのかもしれない。
少しでも考えが及んでいたのならば、考える事が出来たならば、電光石火の様に真っ直ぐ突っ込む事はしないし、そんな無謀をとめたであろう。
そう人面犬美女の涎なのか唾なのか、非常に不衛生である水分の塊が、突如の突風の影響 をおおいに受けて勢い良く僕と魔法少女キュアトロールに降り注ぐ前に。
「いきなり、殴りかかるとはお前ら知性というものを持っていない」
「お前こそ、人に汚いもの飛ばしておいて、何説教をしているんだよ」
もう一度無鉄砲に弾丸のように飛び出そうとする魔法少女キュアトロールを呼び止める。
「おい待て、魔法少女キュアトロール」
「なんだよ井上」
「多分、突っ込んだらまた同じような事になる気がする」
「やってみなきゃわからないだろうが」
10秒も立たないうちに、僕と魔法少女キュアトロールは、先程と同じように、人面犬美女の決して衛生的とは言えないような水分がまたしても僕達に降り注ぐことを、止めることが出来なかった。
「信念をもって過ちを繰り返すのは、ある意味美しいと思う」
「同情なんていらねぇから、殴らせろ」
敵対している人面犬美女に可哀想な事を言われてしまった。
言われてもしょうがないとは思うけど、八つ当たり気味に僕の服に魔法少女キュアトロールは、涎か唾か判別出来ないものを強く擦り付けていた。
しかし、魔法少女キュアトロールが3度目の正直とか七転び八起きなどと言いだすまえに、どうにか宥めないといけないし、そうでもしないと七転八倒してしまいそうである。
「とりあえず落ちつけよ、あと人の服をタオルがわりにするな」
「しかし井上、私はお前と違って涎とか唾をかけられ喜ばないから、落ちついてなんていられない」
「僕だってそんなものないわ」
「やけに落ちついて恍惚としているからそうだと思うだろう」
「していないと断言しよう」
「それで井上、人に言えないような理由で、落ちついていた賢者の様にいい提案があるんだろうな」
言い方がいちいちイラっとするけど、僕は頷く。
まぁ賢者でなくとも、知ってさえいれば簡単な話であり、そこそこ有名な話である。
「涎が垂れている美女の人面犬は、スフィンクスと名乗っただろう、つまり知恵比べに勝てば通れるってことだよ、知恵比べだから暴力での戦闘が拒否された」
スフィンクスは王家の墓を守る門番であり、その門番の試練は知恵比べだった。
「ようは、彼女の試練とは彼女のだす問題に正解すればいいはずだ」
「なるほど、そちらは意外に多少はものを知っているようですね」
スフィンクスの意外という言葉は気になるがどうやら正解のようだ。
「井上、それを先に言わなかったのは涎まみれになりたかったからか?」
「違う」