運命と魔法少女
学校に着いた時には、息もたえだえだが、さっさと始めてしまわないと、また散らかるもしくは、別の場所も掃除を命令されそうだ。
結城先生のいるであろう職員室に顔をだすと、缶コーヒーを飲みながら、まったりしているのとは、対象的に、乱雑に積み上げられた書類の山に、コーヒー缶の森が机の上や下を占拠していた。
早速掃除を始めろと言わんばかりに手伝う気は全くないくせに、ゴミ袋や箒に雑巾や布巾にバケツなどは、用意されていた。
「先ずは机から、その次トイレ掃除、最後に歴史準備室の片付けをお願いします、ご褒美は全部終わらせてからですね」
「はいはい」
書類の山を崩さぬよう、コーヒー缶の森を破壊しながら、ゴミ袋へと捨てて行き、先生の机周りを雑巾と布巾で丁寧に拭く。
なんだろう、この虚しい気持ち。
2日前にも掃除をしたのに、同じ事の繰り返しだからだろうか、ログインボーナスを貰うためだけに、ゲームに参加する日常にもにた虚しさがある。
虚しさのなか、トイレ掃除と歴史準備室の片付けを終えた。
片付けを終える頃には、職員室から人の目、主に休日出勤をしている他の先生に小言を言われないために、避難してきた結城先生は、片付けたばかりの部屋で、缶コーヒー片手にキラキラデイズをプレイしていた。
「結城先生、虚しい日常ってなんでしょうね」
「はいはい大丈夫、それは偉い人がいうには、ちょっとした自我の目覚めです、それより掃除終わりましたか?」
「終わりましたよ、ちなみに汚くなっているのは、先生が原因です」
「美しい私がいると、少しの汚れや些細なゴミも気になってしまうと言う事ですね」
「あっはい、もうそんな感じでいいです」
「そうですか、まぁ掃除が終わったならば、ご褒美の時間ですね」
机の引き出しから、取り出されたパック一袋が、こんなにも眩しく光って見えるなんて、僕の目はよほどおかしくなってしまったに違いない。
目を瞬きして、こすって見て、喉に唾が自然に通って行く。
夢ではあるまいかとも思ったが、結城先生のドヤ顔に現実だと確信する。
「マジですか、それ貰えるんですか」
「えぇ、大会の入賞者しか貰えないパックです、まぁ私が学生時代の頃のものなので、復刻されているのもありますが、復刻されていないレアカードも入っている可能性はあります」
「結城先生、マジですか」
「えぇ、遠慮も思慮もなく貰ってください」
こんな貴重なパックを譲ってもらえるとは、どんな裏があろうとも感謝したい気持ちでいっぱいだ。
「でも本当にいいんですか、貴重どころじゃないですよ」
「しつこい」
「すいません、興奮しています」
「まぁ気持ちはわかりますよ、こんな美しい私がいると思春期な生徒、普通に興奮しますよね」
「あっ落ち着きました」
「イラっとしますが、何よりです、まぁ虚しい日常にさようなら出来る事を祈ってますよ、私が相棒のシルバーエルフのアリアを手に入れた時のようにね」
結城先生の微笑みに、先の僕の小さい悩みにも相談にのってくれ、こんなにも貴重なパックを譲って貰っておいて、裏があるとか思っていたり、陰険だとか思っていた過去の僕自身を恥じる。
今ならば、当たる気がする。
僕の運命すら吹き飛ばしてくれるような出会いが、このカードパックには詰まっている気がする。
パックの袋を開けた瞬間
は行だけの鼻歌を歌いながら、その娘は現れた。
「喜べ、愛せ、魔法少女キュアトロール」
その娘の高らかな宣言に、公式カタログで数度みた通り、頭の右片方だけ猫耳をして、その逆サイドにはサイドポニーテール。
目の中にチカチカと光る星がチャームポイントのように光り輝いている。
あまりの不人気ぶりに再収録されていないキュアトロールそのものだった。