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砂の城に

 見渡す限りに砂、空のように何処までも、何処までも広がり、何もかも虚しくなるような砂の上だ。


 まるで、何ももっていない象徴の様に思えてくる。


 全部、全部、失った。


 いやある程度の美しさだけは、それなりの風情だけは残っているのが、虚しさが胸へと押しかけてくる要因の一つだろう。


 砂を噛む思いとは、まさにこういった思いだろうか、いやその前にそういった言葉があっただろうか。


 まぁ多分、無かっただろうけど。


 清々しい程に、負けを認めることができたのならば、気持ちのいいものだ。


 及ばないと敵わないと思い知らされ、絶望というものの大きさに呑み込まれたのならば、それはそれで良いと思える時が来るのもしれない。


 ただ、ジャリジャリと砂を噛む様に心地の悪さだけが、胸へと残る敗北感を気味の悪さへと変えて行く。



 そんな魔法少女キュアトロールのドヤ顔をする機会をつくってしまったのは、僕自身だ。


 このどうしたら良いのかわからない敗北感に、僕自身が出来る事は、何一つ僕が悪く無い様に振る舞うことぐらいだ。


「いやぁ、城があるなんて思っても見なかった」

「おいおい相棒、何か言う事ぐらいあるんじゃないか」

「立派な城だよ、舞踏会とかやりそうな城だよ、砂漠の風情への冒涜とも言えそうな、ヨーロッパ辺りの城だよねー」


 砂漠に堂々と大きな城があったのだ。


 魔法少女キュアトロールが、城を見たといった時に、絶対嘘だと言っていた僕が悪い様に、文句なしにこれみよがしに美しさと存在感たっぷりの城が、こんな砂だらけの場所に場違いも気にせずあったのだ。


「絶対嘘とか、自信満々に言ってた奴は謝って欲しいな」

「なに、馬鹿にしか見えないと言う系の何か仕掛けとかあったの」

「おいおい往生際が悪いな、井上」


 このまま、謎の口笛を吹きながら門をくぐって、城の内部にでも足を踏みいれた瞬間に、蜃気楼でしたというオチが待っていてくれたのならば、僕のこの気分は、晴れやかになるのに。


「じゃあ、さっさと城に入るか」

「足を踏みはずしてくれると笑えるよ」

「井上の人生の様にか?」

「まだ、踏みはずしていないんだけど」

「そうかい」


 門をくぐっても、それなりの長い砂の道を立派な城を目指して歩いている途中でも、蜃気楼でしたという事にはならず、上々に近づく城はますます、美しさと存在感は増している。


 そして、比例するように立派な城へと入るための扉の前に座っている、近寄りがたい石灰を被ったような行儀良く座っている白髪のおかっぱ頭の美人も、その存在感を増していた。


「井上あれをスカウトするのか?」

「さすがにあれは、スカウト対象外って事で、回れ右で帰って良いんじゃない?」


 その美人は、ヨダレを垂らしながら此方を見ていた。


 首から下は、サラサラとした南国の海の砂のように白い大型犬の身体をしていたのだから、あまり近寄りたくはない。


 人面犬の美人というものをスカウト対象にしてしまったのでは、多分きっと南野社長に鼻で笑われるだろう。


「ここは美しき女王様の城、女王の世界一の美しさを讃える知性のあるものだけが城に入れる、用無き者は、美しさが分からぬ知性なきお前らのようなものは、早々に帰るがいい」


 人面犬のヨダレを垂らしながらの微笑みに対して、魔法少女キュアトロールのドヤ顔の微笑みに、目眩がするほどに不安を覚えるが、時既に遅し。


「井上、女王様っていうのは、スカウト対象か?」

「人面犬の類いじゃなきゃ大丈夫だと思う」

「なら、用事はあるわけだから帰るという選択肢はないなって事で、そこの阿呆犬女王様に会いたいから、通させて貰うぜ」

「やれやれ、知性なきお前らのようなものに女王様へ合わせる訳にもいかない、守護者スフィンクスの試練をその身に受けるがいい」


 威勢よく叫んだ人面犬のヨダレが、砂へと落ちた。




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