無法地帯ではありません。
部室というのは、一種の無法地帯ではあり、そこに常識というありふれた秩序というものは、形を変えて非常識がありふれているのだろう。
善良に分類される僕でさえ、変態扱いをされてしまうのだから、とてもタチが悪いというものだが、そんな部室も、慣れれば気持ちの良いものだと思う。
慣れたら変態扱いが気持ちいい訳ではない。
日常という安心感と何かしら少し漂う非日常というものが、混在しているという空間というのは、なかなか無いと思う。
まぁ確実にそうかと問われたら、トイレの手洗い場の鏡で寝癖をなおしているマヌケが気まぐれに思っただけなので、そこまでの確実性というものは、保証することなんて出来ないだろう。
それでも、それなりに、当たらずとも遠からずというのだろうか、魔法少女キュアトロールという、おおよそ非現実の塊みたいなものが、部室でゴロゴロしてたって、ウロウロしてたって、最初の騒ぎが嘘だったかのように、もう我が物だという面をされているからとはいえ、馴染んで僕の日常的に感じるという事は、多分そういうことなのだろう。
そうでなければ、一体何だと言うのだ、まさか僕が、日常的に変態扱いされているので、変態と言われ慣れているせいで、変態と言われるのが日常的だと錯覚するとでも言うのだろうか、イヤイヤそれこそあり得ないだろう。
手洗い場の鏡に映る自分を見ると、変態とは、程遠いといっても過言ではない何時も通りの僕が、映っていた。
ついでだとばかりに、手洗い場の蛇口を勢い良く捻り、顔を洗って気分をシャッキリとさせた。
歩くだけで、少しばかりヒンヤリとするおかげだろうか、実に心地よい気分が続いている、このままの気分で部室へと戻ってまた、変態と言われのない悪意にさらされたとしても、それすら心地よいと思えてしまいそうである。
「戻りました」
「結構、遅かったわね」
「そうだ、遅いぞ井上」
確かに、寝癖をなおすにしては、なかなか時間が立っているような気もするが、そこまで遅いと誹られると言うのも、おかしな話である。
結城先生はともかくとして魔法少女キュアトロールは、バシバシと書類と缶コーヒーの空き缶が散乱している先生の机を叩き、しまいにはちゃぶ台返しでもして、部室内に書類と空き缶をぶちまけてしまいそうなほどの急かしっぷりだ。
「何かあったんですか」
「2人にお仕事の依頼メールが来たのよ」
なるほど、魔法少女キュアトロールが興奮して、バシバシと騒ぎ立てているのも無理は無いと言うことだろうか、いやそれにしても、それにしたって騒ぎすぎて、書類や空き缶の片付けが大変になる様な事だけはやめてほしい。
なので、水を差すことにしよう。
などと捻くれた考えを持ってなどいないが、気になることを呟くだけにすぎない。
「書類を提出していないのにですか」
判子を押したけれど書類を提出していないのに、仕事を依頼してくるなんて、南野社長も案外と僕と同じ様に抜けているのかもしれない。
まぁ僕は魂が抜けてしまいそうに、首元を強く絞められて、ひっしのタップを部室内に響かせているので、南野社長のドジぶりを笑っている場合ではない。
「殺すきか」
「脅す気だよ」
ようやく、その馬鹿力から解放されたが、まったくもって、冗談が通じていないのか、それともここ含みで冗談なのかわからない。
「まぁまぁ、井上君仕事と言っても、今すぐじゃないわよ、土日の休みの日に書類提出のついでに働くということよ」
「初仕事楽しみだな、井上」
「モチロン」
土日休みたい、遊びたいと言うのも魂が抜けかけてまで言う事でもない。