ログインボーナス
新しい朝と言っても、希望に溢れているわけでもないが、絶望しているわけでもない。
全くもって、昨日と異なる事なんて、スマホの待ち受け画像を魔法少女シンデレラに変更して、パンパンと景気良く柏手をうち、実際のカードもあることに幸福を感じる時間があっただけだ。
相棒を名乗る魔法少女キュアトロールの事は、母が作り置きした、冷えたトーストと放置されたためにぬるい牛乳が置かれた、いつも通りの朝ごはんを食べる為に、テレビのニュースが、CDランキング4位のアイドルグループの真ん中より隅の名前も知らない女の子が、なかなか可愛いと思った時に、そう言えば魔法少女キュアトロールもいたんだと思い出し、スマホのアプリを立ち上げるとログインボーナスを受け取り、マイルームを開くと、魔法少女キュアトロールは、似合わない無駄なキラキラしたエフェクトで童心にかえるが如く身体に纏わせて遊んでいた。
「何やっているの?」
小声ではあるが、小馬鹿にした僕のつぶやきに、我にかえった魔法少女キュアトロールは、そのエフェクトを飛ばしながら慌てているもか、遊んでいるのか腕をブンブン振り回し、何語かわからない謎の言語を発していた。
ひとしきり振り回し、お腹から声を発したせいなのか、ようやく落ち着きを取り戻してくれた。
「それで、何やっていたの」
「ログインボーナスだ」
今更シレっとした顔で取り繕っているけれども、こちら側に何一つ、ボーナスもサービスもないから。
ボーナスと名乗りつつ要らないアイテムを押し付けて、サービスしているつもりなのか、正直鬱陶しいだけなので、回りくどいやり方はやめて、レア物を寄越せと言いたくなるような運営より、タチが悪く喧嘩を売っているような酷いサービスなのだが、まぁ朝っぱらから、騒々しくするのもなんだし、ここは僕が納得する事で、場を収めよう。
「じゃあ毎朝、ログインボーナス貰おうか」
「井上、喧嘩を売っているのか」
「なんでさ」
「毎朝、スケベな目でこの魔法少女キュアトロールの着替えを覗きたいと恥じもなく言ったも同然だぞ!」
「全くもっていった覚えすらないんだけれど」
そもそも、着替えとかしていないだろう。
もし、あのキラキラしたエフェクトが着替えの場面だとしても、なに一つ記憶しているかぎり、恥ずかしい要素がなかった。
ついでにボーナス要素もなかった。
それなのに、怒られるのは理不尽だ。
「まぁいいや、井上が悪いと言うことにしておけばいい」
「何一つ僕悪くない気がする」
「そんな井上に何を言っても無駄かと、コッチはコッチで割り切るから」
まぁいいや、学校に遅れるかもしれないしと思うことにして、ぬるい牛乳を飲み干して、喉に妙なぬめりを感じつつ家を出た。