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レアカードは当たらない。

「また挑戦しようよ」


 ゲームセンターの騒音にかき消されそうになるが、僕の耳には可愛らしい魔法少女のボイスがしっかりと聞こえる。

 コンティニューの文字がゲーム画面に踊るが、あいにくとそんな軍資金がなく、もっともあった所で、後ろにこのゲームを楽しむべく並んでいる人がいるので、明け渡せねばならず、そんな余裕もないのが非常に残念ではあるのだが、最大の楽しみとしてのイベントがまだ残っている。


 コンティニューをしないにカーソルを合わせて、OKボタンを押す。


「カードを受け取って、気をつけて帰ってね」


 その言葉が終わるやいなやカードが専用取り出し口から3枚出てくるのだ。


 焦ってはならない。


 しかし高鳴る気持ちは抑えきれない。


 1枚目に期待し刮目する。


「おふぅ」


 期待が一気にぬけてしまうほどに、清々しいほどにノーマルカードだった。


 可愛い少女がシーサーに頬擦りをしているが、南国感は出ていない、水着でもなく、普通の制服着ている。

 アーケード限定版でもない仕様である。


 まぁそうは言っても、あと2枚でてくるし、最初からレアカードが当たる幸運なんて、あるはずも無い。

 ならば2枚目は、ノーマルカードでもせめてアーケード版限定のふわふわ干支シリーズをお願いします。


 そう2枚目こそは、期待のカードが来ることを信じて。


「クソが」


 またしてもノーマルカードだ。

 雪だるまを手にしている制服の女の子に罪はない。


 最後だ、最後の1枚に何かしらの情熱と情念めいたパッション的に、ディスティニー的に引けば、それが最高のカードを呼び寄せるのだ。


 最後の1枚のカードを見る。


「知ってたよ」


 涙ぐみながらも、ゲームセンターを後にすることとなったカードには、

 京都のペナントを持ちながら、南国の花が飾られたジュースを飲む、女学生の女の子のカード、ノーマルカードだった。


 3枚のカードをカードホールダーにカードをしまう前に、今排出されたカードにあるコードをスマホアプリに登録するために起動させると、華やかな画面に、アイドルのような衣装に着飾った、女の子達がいっぱい並んでいる。


【キラキラデイズ】



 十数年前から、流行りもせず、廃れもせずに続いているトレーディングカードゲームだが、スマホアプリと連動している。

 実際先程入手したノーマルカードも、アプリ版で強化することで、レアカードに進化した場合、実際にそのデータと持っているカードを運営に送ることで、進化したレアカードと交換出来たりする独自のサービス等がある。


 進化には、それなりの時間もしくはかなりの課金のどちらかが必要ではあるのだけど、その救済措置のサービスがあるから、このゲームを続けていられるが、だからといってレアカードが当たらなくて良いことにはならない。


 アーケード限定版などのレアカードを別の方法で手に入れようとするなら、カードショップ等で1枚数千円から万単位で売られている。


 1ゲーム100円で3枚と考えると頭おかしいとすら思える。

 普通の1パック5 枚入り200円で考えるとさらに、頭がおかしいと思う。


 まぁレアカードを単品で購入しようなんて、そういう集め方というのは、邪道というものだと思うけれど、結局は手に入れられない僕の運の悪さの逆恨みだ。


 それにしたって運がない。


 パックを大人買い出来ないとはいえ、トータルではそれなりにつぎ込んではいるのに、レアカードが当たった試しがない。


 今保有している数枚のレアカードは、アプリで進化したノーマルカード達だ。


 どれも思いれがある。

 不満は無い。


 ただ、欲があるだけなのだ。


 登録がおわると、それを見越したかのように電話がかかってきた。


「はい井上です」

「井上君、結城ですが掃除の時間です、駆け足で学校に来て先生の机と歴史準備室を片付けてください」

「今日は学校は休日ですので、明日登校してやります」

「顧問辞めてもいいんですよ、そしたら存続できませんよ、部費でカードパックの購入も出来ませんね」

「教師のくせに、脅すんですか」

「はい井上君が、拒否するなら仕方ないです、先生が悪いわけではないんです」

「結城先生が散らしたのは、結城先生が悪いですよね」

「まぁやりたくないなら、やりたくないで言いですよ、明日から部活動が出来なくなるだけですから」


 電話をきられて、しまった。


 このままでは、本気で明日から部活動として存続出来ないのは困る。


 部員が1人で、大した実績がないのに、部室と部費を数千円支給されているのは、顧問と歴史だけはあるお陰なのだ。


 結城先生は、見た目は優しい人なのにやることは陰険なのだから。


 すぐに折り返し電話をする。


「すいませんでした、掃除頑張ってやらせていただきます」

「素直な生徒は好きですよ、休日なのに自主的に掃除にくるとは素晴らしいことですし、先生も心苦しいので、先生の秘蔵コレクションのパック一袋あげます」

「先生のくせに、買収するんですか、先生大好きです」

「先生は素直な生徒が大好きです、それでは先生の机と歴史準備室と3階の教員用トイレ掃除頑張ってください」


 トイレ掃除も増えてしまったが、カードパック一袋貰えるのならば、いやまぁそれでも小学生じゃあるまいし割にあわないのだけど、僕は駆け足で、学校に向かうことにした。


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