死んで花実が咲くものか 36
治子の問い掛けに、美佳は少し困らされた。なんといっても彼女はまだ治子のことをよく知らないのだ。なのに
「私の気持ちが少しは分かってもらえたかしら?」
などと言われても、分かりませんと答えるよりほかないのだ。少し思案して、美佳は逆に、この件に関連しての自分の感想を述べることにした。
「幽霊を見ることができるハルさんと果たして同じかどうか分かりませんが、私の場合、幽霊の話を父にしてみての感想ですが、誰かに幽霊の存在を信じてもらうのは至難の業だなと、痛感しました。……幽霊に関してなにかを真面目に話しても、きっと誰にも理解されない。それはみんなにとって幽霊はリアルではなく、あくまで空想上の存在だから。なので、私もこの件に関してはもう、あのCR以外ではタマとハルさんだけにしか話さないでしょうね。」
椅子の背もたれに寄り掛かり、腹の前で手を組んで美佳は淡々と答えた。
「ね? そうなるでしょ?」
と、美佳の返答に治子は我が意を得たりとばかりに言った。彼女はもう商談は成立し得ないと諦めていたので、話し方もビジネスライクなものからフランクなものへと変えていた。敬語は堅苦しかったし、なにより相手の懐に潜り込むには不向きだった。
「幽霊って見えないし、ダメなんだよね。仮に誰かと契約を結んで除霊をしても、助かったあとになって、本当は幽霊なんていなかったんじゃないかって、駄々を捏ねるに決まってるんだ。そして詐欺罪で逮捕される可哀想な私……そんな未来しか見えない。」
よよよ、と泣き真似をする治子を見て、美佳は涼しい笑みを浮かべて言った。
「では、ハルさんはもう除霊で商売をするのは諦めたんですか?」
「そうね。残念ながら、無理があるもの。まあ、例えば、ある小さな町で続々と死者が出て、だとか、ある一族に次々と死者が出て、関係者全員がその死を幽霊の仕業だと認識していて、かつ、関係者同士の繋がりが密で、除霊のための資金を出資し合い、まとまったお金を用意できる。そういう恵まれたシチュエーションであっても、商売が成り立つ可能性は五分五分ってとこかしら? 結局、駄々を捏ねられたらこっちの方が弱いしね。」
その話を聞いて、美佳は治子のことを損な性格な人だなと思った。
「で、美佳の方はどうなの? もう諦めたの?」
治子の問い掛けに、美佳は持っていたティーカップに少し口を付けてからテーブルに置き、それから薄い笑みを浮かべて答えた。
「ええ、私は……もういいんです。あのサイトを初めて開いたときから、私の心のどこかに死んでしまいたいという欲求はあったんですから。特に未練はありません。」
「一昨日とはえらく感じが変わったよね?」
「昨日の晩、父と話すまでは僅かとはいえまだ希望を持っていましたから。それがなくなれば、もう足掻く必要もなくなり、おかげで楽になりました。」
「ふ~ん。」
美佳の言葉を聞きながら、治子は不審に思っていた。人間、一晩やそこらでここまで変われるものなのか……、もしかすると、erosのときと同じように、幽霊が美佳の精神になんらかの作用を及ぼしているのではないか、と。




