表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
97/162

死んで花実が咲くものか 34

 深夜、美佳は温めのシャワーを浴びて、そのあと誰もいないLDでお菓子と飲み物を物色してから電気を消し、それから自室に入った。


 花沢宅は静寂な闇夜の眠りの底に沈んでいたから、美佳は部屋の蛍光灯は消したまま、机上のスタンドライトだけを灯してパソコンを立ち上げた。


 父にも母にもまだサイトのことは話していない。打ち明ける前に、どんな状況になっているかを確認しておきたかったのだ。


 昨日、tamaが生存報告をしてからというもの、生還方法と撮影記録の提出をtamaに求める声で溢れていたが、tamaは治子と初めて出会ったときに交わした約束を守る必要があったので、haruの存在は伏せたうえで、どのようにtamaが対処したかを書き込んでいた。


 その内容は端的に言えば、拘束と放置。


 撮影記録に関しては、


≪肝心の自殺予定時刻の約30分前から映像がないんです≫


 と苦しい言い訳をして提出を拒んでいた。


 だが、思いのほか攻撃的な書き込みはなく、むしろ幽霊が映ってるかもしれないから動画を上げてくれという内容の書き込みが多かった。その要求については百聞は一見に如かずということもあり、対処法の説明を補完する意味で動画がアップロードされており、アップ先のURLも表示されていた。動画に映っていたのはtama一人で、美佳と治子が映っていた部分は編集でカットされていた。


 tamaの生還という事件のほか、KOの書き込みが物議を醸していた。


 昨日、まだ美佳とtamaがU公園内にいたときに書き込まれた


 16:40 KO

 幽霊さん、というか、nachiさん?

 次は私が死にます

 私のところに来なさい


 という内容。


 KOは幽霊=nachiであると言っているが、nachiというのはCR内のお騒がせ人物として有名なあのnachiだろうか……と美佳は首を捻った。


 CR内でも、nachiを巡って様々な憶測が飛び交っていた。


 仮にnachi=幽霊とするなら、nachiはすでに死んでいなければならないのだが、nachiの場合、ほかの者を死ね死ねと煽っていたくらいだから、自殺するならCR内で告知するはずだ。それがないということは、nachiはまだ生きているのだろう。


 いや、生霊という筋もある。


 もしかすると、最後の書き込みがあった時点ですでにnachiは死んでいたのかもしれない。当人も ≪え? もう死にましたよ?≫ と書き込んでいるし、昨今の本人の手に依らない書き込みの数々を見ていると、死後の書き込みという可能性も捨て切れない。


 などなど。


 挙句にはnachiに対する過去の鬱憤を晴らすかのようにnachiへの悪口へと書き込みの内容は移っていっていた。


 nachiの幽霊はCR内でもほざいていたように自殺という方法にこだわっているようだが、自殺を推奨したい立場にあり、且つ実際に死んでみせたのなら、死の感覚だとか死後の世界がどんなものなのかということを説いて回って、みんなを納得させればいいんだ。いまのやり方では、結局、nachiが殺しているのとなんら変わらない。お粗末なやり方だ。


 みんなが様々に書きたいことを書き連ねていたが、どれもこれも想像の領域で遊んでいるだけで、いまの美佳を救ってくれるような情報は1つとしてなかった。


 彼女は丁寧に読んでいくのをやめて、KOの書き込みを探した。


 そのとき、ある書き込みが目に留まった。


 20:00 ;miya

 11月24日火曜日、16時ごろ、場所は問わず、手段も問わず、あらゆる障害を乗り越えて自決します!


 上記の書き込みを見つけて、約束が違うじゃん!? と、美佳は声を殺して驚いた。これまでの自殺予告の場合、場所と手段が明記されていたのに、なぜ私のときにかぎって……。tamaが死ななかったから、幽霊も攻撃方法をレベルアップさせたのだろう、というのがCR内のみんなの見解だった。


 この手の話で幽霊が手口を変えるっていうのはアリなの!? と誰かが書き込んでいたが、これ別にゲームじゃないから、と誰かが諌めていた。


 全くそのとおりだ。どこかの2ちゃんの記事からこのサイトに辿り着いた新参の野次馬は寝てろ、と彼女も憤慨した。


 自決します!……!ってなんだよ? !って!?


 結局、KOはあの書き込み後は姿を見せていなかった。


 一通りCR内の書き込みを見たところで、チラっと時計に目をやるともう午前3時だった。


 あと5時間後には学校が始まるのか……。


 美佳はここに至って、サボる口実を考え始めた。

 どんなに自棄っぱちになったって、日常に欠かせない1つひとつのイベントを破壊してゆくのにはかなりの心労が伴い、彼女は机に突っ伏すと大きく溜め息を吐いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ