死んで花実が咲くものか 31
2億円という法外な金額を提示した治子の説明は以下のとおり。
平均的なサラリーマンの生涯年収は2億円と言われている。それに対し、治子の仕事は一生に1度依頼があるかないかというくらい、需要がない。とはいえ、彼女自身は彼女の仕事に価値があると自負しており、状況次第ではそれなりの額を請求できると信じている。そして、今回が初仕事になるわけだが、、次の仕事の依頼が10年先に舞い込んでくるのか、それとも100年先に舞い込んでくるのかさえ分からない。では、今回の仕事で一生の食い扶持を得る必要があるな、と考えた結果、2億円という料金になったわけだ。
なに? 無茶がある?
「そこで提案なのですが……」
と治子は続けた。
2億円はあくまで1人目のお客様に支払ってもらう金額であり、もし2人目のお客様が現われれば、その人には1億円を支払ってもらい、その1億円はそっくり1人目のお客様に返還する。3人目のお客様が現われれば、その人には7000万円を支払ってもらう。そのうち、3000万円を1~2番目のお客様に返還すれば、あら不思議。最初と2番目のお客様のお支払金額も実質7000万円になるじゃありませんか!?
つまり、仕事の達成件数が増えれば増えるほど、それまでのお客様に利益を還元できるという画期的なシステムなのでございます。そうそう、お客様の方で新たなお客様をご紹介してくださっても結構です。
あ、もちろん、最低額は設定させていただきますが、早い順のお客様ほど得をするよう考えさせてはいただくつもりです。
「あとは幽霊がしっかりと働いてくれるかどうか……これが不確定要素なんですよねぇ。」
説明を終えた治子が無意識にポツリと漏らすと
「え?」
と美佳が声を上げた。
いま、とても不謹慎な言葉を聞いたような……。
「え?」
美佳の声に反応して、治子が聞き返した。
「いえ、なんでもありません。」
弱々しい声で答える美佳。
「で、いまのようなお話を美佳さんのご両親にさせていただこうと考えています。なにしろ、未成年と契約しても契約の効力がありませんので。」
その言葉に美佳は唸った。一体、親になんて説明すればいいのか皆目見当が付かないのだ。tamaに対しては親には言っておいた方がいいとか偉そうに言っておきながら、いざ自分の番となると頭を抱えてしまうなんて……。映画の“ リング ”でも観せて、
「私、いま、この呪いのビデオを見た子と似たような状況に陥ってるんだよね」
とでも言ってみる? でも、これは作り話じゃないか(笑)とかって一蹴されそう。
美佳が考えを巡らせている最中、治子は自分のトークに抜けがないかどうかを頭の中で確認していた。
幽霊をネタにお金をいただく……、幽霊……。これが問題だ、と彼女は思った。
≪2億円領収致しました、但し除霊代として≫
という領収書の絵面がポワンポワンと頭の中に浮かんだ。
これは霊感商法だ!
とか除霊後に騒がれたら逮捕されそう……、と彼女は彼女で頭を抱えた。




