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肝試し ⑱

 治子はこの1件で賢くなった。

 たとえ幽霊が友達に憑いていても、見えない振りをして過ごすことを覚えたのだ。

 

 みんなが知らないなら、私も知らない振りをすればいいんだ。


 あれから数日後、観音様が新しくなったという噂が彼女の耳に入った。


 そうして夏休みが目前に迫ったある日、青井修が海で亡くなったと知らされた。


 男子数人と海で遊んでいる最中での事故だったらしい。


 訃報に接して、その日の彼女からは表情が消えた。驚きもしなければ泣きもせず、ひたすら自分の無力さを呪って過ごした。


 放課後、学校の先生に引率されて、まだ明るいうちだったが、4年生のみんなが青井家の通夜に参列した。


 仏壇の脇に修の写真入りの額が立ててあった。


 お焼香の順番を待ちながら、彼女は彼の写真を見ながら念じた。


 もし幽霊に殺されて、それを恨みに思っているならあっちゃんはたくやんのところに出ればいいんだ、と。


 生徒の中には啜り泣く者もいたが、琢磨は顔面を蒼白にしているだけで泣いてはいなかった。彼女は間接的な殺人犯をぼんやりと眺めながら、憎まれっ子世に憚り……、こういう奴が長生きするんだろうな、と思った。


 そして、修の両親の顔といったら、とてもじゃないが見ていられるものじゃなかった。

 

 琢磨と目が合ったとき、親の顔を見てみろと視線で合図してみたが、彼には彼女の細かな仕草を理解する余裕がなかった。ただ、彼女の目が己の目に映じただけといった様子。


 苦しんでる振りかな? と彼女は彼の様子に呆れた。


 青井家を出る頃には日が傾いていた。


 いつもよりも赤い夕暮れ。

 町も空も雲も不気味なほど赤く染まり、長く伸びる影は真っ黒で、生温かい風が吹いていた。


 彼女はS町の竜也と琢磨と並んで歩いた。2人がなにか話していても、彼女はそれに交ざらず、ずっと無言だったのだが、観音様のところへ通じる脇道に差し掛かったところで、琢磨に微笑みながら声を掛けた。


「ねえねえ、これから観音様のところへ行こ?」

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