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肝試し ⑯

 お爺さんの幽霊は朝から学校が終わるまで、ずっと修の背後を付いて回っていた。


 昨日のたくやんのときはすぐ消えたのに……と治子は思った。


 肝心の琢磨と修はどんな悪戯をしたかについて口を閉ざしていたから、学校が終わると彼女は昨日、一昨日に続き、観音様のところへ向かった。


 昨日とは様子の違う幽霊を見て、一体2人がなにをしたのかが気になったのだ。


 早足で坂を上がり、息を切らせながら辿り着いたお堂の前。


 お堂の中に観音様はいなかった。


 誰かが悪戯の痕を修復しようとして持って行ったのかな? と彼女は思った。


 たくやんとあっちゃんがなにをしたかが分からなくても、処置は早いに越したことはない。悪戯の痕が消えれば、それに伴ってお爺さんの幽霊も消えるかもしれないし……。


 そんな希望を彼女は抱いたが、期待は虚しく、翌日も修の背後にはお爺さんの幽霊がいた。


 まだ修復に至っていないのかもしれない。、


 彼女は事ここに至って幽霊が憑いていることを修に話した。


 本当はこうした話を友達にするのにはためらいがあったのだ。


 憑いてるなんて……。


 性質たちの悪い冗談としか受け取られないのが常なんだから。


 案の定、修は彼女の言葉に耳を貸さなかった。


 琢磨が一言、昨日のオレの顔の落書きはオレがやったんじゃないと言ってくれれば、あるいは修も彼女の言葉を信じたかもしれなかったが、琢磨もシラを切っていたから、修も幽霊の存在を信じられなかったのだ。


 なにしろ見たことがないのだ。


 そこにいるのだと伝えても、相手は確認できないのだ。


 いや、確認しても、目に映らないのだ。


 だから、信じられない。


 そこに空気があると言えば信じるクセに。


 花が香る部屋で、目隠しをされていたって、そこに花があると言えば信じるだろうに。


 誰かが大切にしていたなにかを、そうとは知らずに平気で踏みにじったって、叱られなければ、自分がしたことの意味さえ分からない。


 どこかの誰かが自分の行為を恨んでいても、自分が誰であるかが露見していなければ平気な顔で、恨まれてることにさえ気付かない。


 2人にかぎらず、みんながみんな、そうなのだ。


 だから修を責められなかった。


 修の背後に立つお爺さんの幽霊はそれはそれは退屈そうな、つまらなそうな表情で修にくっついている。


 彼女は自分の無力に歯噛みした。


 幽霊が見えたって、彼女が警告を発したって、事の成り行きを変えられない場合もあるのだ。


 動き始めた幽霊を止めるすべが彼女にはなかった。


 修の隣に突っ立って、治子をやり込めたと思ってニヤついている琢磨。


 彼女は唇を噛んだ。


 琢磨あああああああ~!


 奇しくも観音様にした落書きと同じ落書きを施された琢磨だけは勘付いていていいはずだった。これが幽霊による仕業だと。観音様に悪戯したために当った罰なのだと。


 それなのに、空っ惚けてやがる!


 挙句に彼は


「幽霊だとか嘘吐いて人を脅かすのはやめろよ。」


 と言った。


 さらに、“嘘吐き治子”、と彼女のことを嘘付き呼ばわりして、2人は彼女の下を去っていった。


 反論はできなかった。


 幽霊がいることを知らしめることができないことは幼い頃からの経験で分かっていたからだ。


 悔しくて堪らなくて、感情が爆発していまにも泣き出してしまいそうなところをぐっと我慢して……。


 家に帰ると彼女は2階の子供部屋のベッドに潜り、布団を引っ被ってさめざめと泣き明かした。

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