肝試し ⑭
治子は琢磨と修の姿を見て、あの2人がやったのか……、でもまあ、きちんとキレイにしにやってくるなんて殊勝な心掛けじゃない? と思った。
一方の2人は、彼女が観音様の前にいることに気付くと、露骨に厭な顔をした。
「ハルちゃん、こんなとこでなにしてんの?」
琢磨が言外に不平を漏らした。
「ふん、遅かったわね。」
そんな悪意のある言葉を意に介さず、彼女は鼻を鳴らした。
「なにが?」
「見て。観音様はとっくにキレイになってるよ。」
と、彼女が観音様を顎で示した。2人がお堂を覗き込んだのを確認して、
「これ、誰がキレイに拭いたと思う?」
と2人に尋ねた。すると琢磨が
「なんだよ? 自分がキレイにしたって言いたいのかよ?」
と腹だ立たしそうに言ったので、
「バカ。私じゃないよ。どっかのおばちゃんがキレイにしたんだ。意味、分かる?」
と言い返すと、
「おばちゃんに手間を取らせて申し訳なかったってこっちゃろ?」
と彼は悪びれた様子もなく言ったので、治子は目を丸くして言葉を失った。
「違わい。つまり、この観音様を大切にしてる人がいるってこと。だから、もう悪戯したらダメよってこと。んで、たくやん!」
「なんだよ?」
「たくやんの顔の落書きはね、この観音様を守る幽霊がやったんだ。そうでしょ?」
彼女がそう指摘すると、一瞬、彼は目を丸くしたもののすぐに
「なに言ってんだよ。アレはオレが自分でやったんだ。」
と彼女の言葉を否定した。
「嘘ばっか。だって、誰がやったんだって言ってたじゃん?」
「言ってない。」
「言った。」
「言ってない。」
「言った。」
「言ってないって。」
不毛な水かけ論がしばらく繰り広げられたが、結局、治子の方が先に折れた。口ではなんと言っていても、彼も観音様の落書きを消しにきたのには違いないんだ……と彼女は思って、安心していたのだ。
彼女は2人と連れ立って麓まで下りてくると、修に別れを告げようとした。彼女と琢磨はS町在住で、修はT町在住だったからだ。だが、琢磨はこれから修と一緒に遊ぶんだと言って、治子とバイバイすると、そのまま2人でどこかへ歩いていった。
やれやれ、と彼女は思った。




