肝試し ⑪
治子が男子たちの観音様への悪戯を阻止して2日後、怪異が起こった。
お昼明けの5時間目、算数の授業中、机に突っ伏して気持ち良く午睡を貪っている琢磨の席の前に、観音様のところで見かけたお爺さんの幽霊が立っていたのだ。
琢磨の席は前から3番目の端で、治子の席は一番後ろの真ん中らへんだったから、最初はちょっと目の端に捉えたという感じ。
!? と思って、思わず2度見したほど、彼女は驚いた。ゴシゴシと目を擦って、再度確認すると、やはりお爺さんが琢磨の隣に立っている。そして当然ながら誰もお爺さんの存在に気付いていない。
たくやんをやりに来た!?
そう思った治子は急いで声を上げた。
「先生! 佐藤くんが居眠りしてます!」
一瞬シンとする教室。だが、先生が琢磨の方に視線を向けると同時にみんなも琢磨が眠っているのを見てクスクスと笑った。先生がなにか言うより先に、隣の席の男子が琢磨の肩を揺すって起こした。バッと飛び起きる琢磨。その間抜けっぷりに周りのみんなが笑い声を上げると、先生が
「佐藤、良い夢見れたかい?」
と声を掛け、琢磨が首を振ると、
「次やったら……次やったら、なにかが起こるからな?」
と釘を刺した。
琢磨は起きたものの、彼の脇に立っているお爺さんには気が付いていない様子。治子はなんとか琢磨を教室の外に連れ出せないかと思案した。幽霊から逃げる対策なんてなかったが、それでもあのままじっとさせていると、琢磨は幽霊にしてみれば、まさにまな板の上の鯉。それよりは多少なりとも抗いながら、なにか策を模索する方が賢明だろう。だが、そのためには治子が狂言を打たなければならなかった。我がことならば腹痛を訴え保健室に行く振りでもすればいいが、友達のことなのでなにを理由にすればいいか……それが問題だった。
考えながら、授業そっちのけで治子はお爺さんの動きをじっと観察していた。お爺さんに動きがあってから飛び出したのでは遅いことが分かっていたから、それが一層治子を悩ませた。
彼女が顔をしかめて考えていると、スゥっとお爺さんの姿が消えた。特にお爺さんが動いた様子はなかったし、琢磨にも変わった様子は見られなかったから、ひとまず彼女も胸を撫で下ろした。
それにしても、なぜ教室にお爺さんの幽霊が来たんだろう?
それが彼女の最大の疑問だった。




