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肝試し ⑤

 治子は男子たちが練った今宵の肝試し計画を、彼らの傍で堂々と聞いて帰宅後、母に友達の家に遊びに行くと嘘を伝えて家を出た。


 駄菓子屋でお菓子とジュースを買って、集合場所である安徳寺の境内に先回りし、鐘撞き堂の中に隠れて男子たちが来るのを待った。


 午後6時を過ぎた辺りから数人が集まってきて、30分になる頃には参加者全員が揃ったようで、移動を開始したので、彼女も気付かれないように付いて行った。


 日はまだ落ちていなかったから肝試しをするにはまだ早いようだったが、男子たちが肝試しという行為をどう解釈しているのか定かでなかったので、早めに始めてくれるにしてもなんにしても、厭な予感が頭に貼り付いて離れなかった。


 昨夜の動きからも分かるように、彼らは1人ひとりが心霊スポットへ立ち入り度胸を試すという本来の肝試しを行なっているわけではない。彼らがしているのは幽霊探しなのだ。全員でスポットを訪れ、いないなぁ、いないなぁとワイワイ騒ぐだけ。それはそれで楽しいのだろうけれど、今宵の標的は観音様。そして、悪戯をすれば呪われると思っているのだから、彼らは確実に観音様に悪戯をするに違いなかった。


 呪われるとか……、ばちが当たるの間違いじゃない?


 治子は観音様までの道を知らなかったから、男子たちを見失わないように注意しながら坂道を上って行った。周りの家から夕飯の香りが漂ってきて、おなかの虫が鳴ったから、ガムを1つ取り出して噛んだ。


 T町の観音様は、山の斜面の道沿いの一角に設けられた、犬小屋のような小さなお堂の中に納まっていた。道幅は人が行き交うときに互いに道を譲り合わなければ通れない程細かったが、手摺りが設置されていたので足を滑らせて滑落するという心配はなかった。


 あ、この観音様……この景色も……なんか見たことある?


 彼女はここの観音様を訪れるのは初めてなのに、なぜか観音様と、この道から見渡せる景色に既視感があった。


 それから彼らに近づいてみると、案の定、彼らは観音様の前でどんな悪戯をするかを話し合っていた。


 辺りは安徳寺にいた頃よりだいぶ暗くなっていて、懐中電灯を点けるとその明かりが際立つくらいにはなっていた。


 そこへ、1つの人影が観音様の方へと歩いてきた。そして、治子が懐中電灯を点けて、彼らを止めに入ろうとしたときだった。通り過ぎるかと思われたランニングシャツに股引姿のお爺さんは、男子たちの前で立ち止まり、その脇の手摺りに腰を掛けたのだ。


 治子はその光景に違和感を覚えた。というのも、彼らの誰もそのお爺さんに気が付いていないようだったからだ。本来なら、お爺さんが立ち止まる前に端に寄って道を空けるなりするはずなのに、彼らはお爺さんの方を見向きもしなかった。


 懐中電灯を点けて近寄ったことで、彼らが彼女の存在に気付いてなにか言ったが、彼女はそれを無視して、さりげなくお爺さんの方に懐中電灯を向けた。


 お爺さんには影がなかった。

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