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肝試し ④

「今日は観音様のところに行ってみようぜ。」


 肝試しをした翌日、男子たちは飽きもせずに今晩も肝試しを計画しようとしていた。治子も誘われたが、昨日の今日でまた夜遊びに出掛けるのを親に断るのも気が引けたので、今日はやめようと提案した。せっかく準備してもらった夕飯が無駄になってしまうのが申し訳ないし……と彼女は思った。


 一方で幽霊が見える治子にとって、肝試しとかいう幽霊をおちょくりに出掛ける行為は少なからず危険を孕んでいるように思えていた。だから、肝試しをするなら自分も付いて行かなければ、と妙な責任感を持っていたのだ。


 そんな治子の気も知らず、男子は


「じゃあ、マジ子ちゃん抜きで行くしかないか。」


 と肝試しをする気満々。さらにあろうことか、


「みんな親には肝試しのこと言わずに出て来いよ? 昨日はヒデのおばさんが来てたから全然怖くなかったし。」


 とか言い出す始末。


「あのね、幽霊は実際にいるんだよ? あんまり馬鹿にしてたら痛い目見るよ。」


 そんな男子一同に治子が釘を刺すと、


「っつっても見たことねえし。ハルちゃんが見せてくれるんだったら、肝試しなんてしないんだけどな。」


 と、琢磨が喰って掛かった。


「だって、そこにいるって言ったって見えないんじゃしょうがないじゃん。でも、こっちから見えなくたって、あっちからはこっちに悪さできるようになってるんだ。だからやめときなよ。」


「幽霊に悪さされたヤツってのを聞いたことがないんだけど?」


「みんながそう言うからって実際がそうとはかぎらないんだけど? 例えば昔の人は地球が丸いとは思ってなかったっていうのと同じなんだよ。」


 この手の話になると治子はいつも弱らされた。かつての重信のような話せる幽霊がいれば、琢磨を懲らしめてやれたのかもしれなかったが、重信のほかに彼女と話せる幽霊はいまのところ確認できていなかった。それは彼女の方から幽霊との接触を避けてきたから、というのもあったが、彼女としては下手に幽霊と関わり、重信のときと同じような悲劇が繰り返されることを恐れていたのだ。最初は人畜無害のように見えても、いつどこでどんな発想を得て悪事を働くか分からないのが幽霊なのだ、と彼女は思っていた。


 平成9年にS町で3人が連続で亡くなったのも、元を質せば、最初に重信にちょっかいを出した治子の責任……、彼女は当時のことに少なからず負い目を感じていた。


 だから、友達には自分と同じ轍を踏んでほしくはなかった。


「じゃあ、地球が丸いってことを最初にみんなに納得させた人みたいにさ、ハルちゃんもオレらに幽霊がマジでいるってことを納得させてくれればいいんだよ。」


 なにも知らない友達を止めるのは難しかったが、もし止められなければ付いていくしかないか、と彼女は溜め息を吐いた。

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