肝試し ③
みんなが揃ったところで、
≪T町の西端、海岸の道路の行き止まりになっている部分の崖下には幽霊がいる≫
という噂のスポットに行くことになった。
道中は真っ暗ながらもみんなが懐中電灯を持っていたし、大人も1名いたのでまったく怖さはない。海岸沿いの波音を聴きながら、大勢で夜道を散歩しているだけという雰囲気。とはいえ、ふだん夜道を出歩かない子供たちはそれだけで大はしゃぎ。
心霊スポットである道路の端まで着いても雰囲気は変わらず、お互いに脅かし合ったり懐中電灯を崖下や崖上の方に向けて幽霊を探してみたり、適当にカメラを向けてはシャッターを押したりと、賑やかだった。崖には白色の近代的な建物があったが、誰が住んでいるのか、廃墟なのか、子供たちは誰も知らなかった。なにかの秘密基地なのだと、治子は思っていた。
建物に明かりは点いておらず、建物の上には建物を覆うように黒い木々がしなだれかかっていた。T町の西の山の先端、この崖を伝ってS町方面へ迂回してゆくと、S町の南に見渡せる立ち入り禁止区域に出る。小学校が所有する航空写真で見た西の山の頂上には、正八角形の建物の屋根があったのを、そのときの治子は不思議に思ったものだった。あの山の上にはどうやって行けばいいのか分からなかったからだ。山道を登ると途中で金網が立ち塞がり、その金網には看板が提げられていた。
≪これより先、立ち入り禁止≫
≪敷地には猟犬が放されています≫
≪無断で立ち入った場合、どのようなことがあっても法律は通用しません≫
この看板を見て、子供たちは立ち入れば犬に噛み殺されてしまうのだと信じたから、子供たちで西の山に登る者はいなかった。
そして、いまいるのがその山の先端で、不気味な建物がポツンとあった。
「ハルちゃん、幽霊いる?」
明海が黒い海の方を見ながら治子に尋ねた。
「いるよ。」
「ホント!? どこ?」
「嘘だよ。いないよ。」
「もう!!」
しばらくして、周辺には“ なにもいないね ”という話になり、帰ることになった。浜辺の公園を横切るとき、今度はみんなで花火をしに来ようとか話していると、ブオオンというエンジン音を響かせながら1台の黒の乗用車が治子たちの傍を通り過ぎ、崖の端の方へ向かって走って行った。
「こっちってもうなにもないよね? あの車、あっちへ行ってなにするんだろ。」
治子が明海に話し掛けると、それを聞いていた田中の母親が
「子供は知らなくていいんだよ。」
と言った。




