肝試し ②
「マジ子ちゃんも肝試し行こうよ。」
朝礼台の前で話し合っていた男子の中の青井修が治子を誘った。
“ マジ子 ”というのは治子の渾名で、≪治≫という漢字を習ったときに音読みに≪じ≫というのがあることを知った彼女が自ら、
「私の名前って上から読んでも“こじまじこ”、下から読んでも“こじまじこ”になる!」
と、まるで凄い発見をしたかのようにみんなに話してしまったとき、みんな感心したのと同時に、“ マジ子ちゃん ”って可愛い、という話になり、渾名として定着してしまったのだ。だから、決して悪意を以って“ マジ子 ”と呼ばれているわけではなかったが、治子にとっては不慣れな呼ばれ方だったし、愛着も湧かず、そう呼ばれる度にどこかほかの誰かが呼ばれているのじゃないかという気がしていた。
肝試しに行くメンバーは男子5人で、女子0人。T小学校の小学4年生の男子はまだ女に興味はなく、ただ治子にかぎっては霊視能力を買われて誘われたのだ。
メンバーは
青井修
上田竜也
佐藤琢磨
田中英明
山田健
の5人だった。
治子が付いていくことになると、彼女の横にいた池内明海も一緒に行くと言い出したので、計7名で肝試しを催行。決行は夜なので、一度帰宅して、午後7時にT町の安徳寺の境内に集合することになった。
肝試しのことを両親に話すと、懐中電灯と電池を渡された。父が
「付いて行ってやろうか?」
と言ったが、親が出張ってくるのが恥ずかしかったので断った。
街灯もなく懐中電灯の明かりだけが頼りの峠道を竜也と一緒に越えて、安徳寺の境内に行ってみると、そこには田中の母の姿もあった。
田中の母は安徳寺の保育所で園児たちのお昼ご飯を作る仕事をしていたから、古くから知っている子もいたし、子供たちの面倒見も良かった。肝試しの付き添いについても、すでに参加メンバーの親と電話で話してあるらしかった。
みんなが田中の母に元気良く挨拶した。
「なんか肝試しって感じじゃなくなったな。」
そのとき、琢磨が修にボソッとそう話していた。




