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肝試し ①

 平成13年7月、蝉のミンミンジージー鳴く声がそこかしこの木陰から響いてきた頃。Q市立T小学校の4年生になっていた治子ほか同級生たちもみんな、間近に迫った夏休みを楽しみに日々を過ごしていた。


 そんなある日のこと。


 音楽の時間に男子が真面目に歌わないとかで女子が先生に抗議したおかげで、男子がまとめて先生に説教を喰らった。それで音楽の時間のあとに男子と女子が対立して、誰を発端としたのか分からないが、放課後に男子対女子で喧嘩をすることになった。


 治子にとっては“ なっていた ”という感じ。授業終了後の掃除中に友達から


「このあと男子と喧嘩するから、残っててね。」


 と言われたのだ。


「男子って、誰よ?」


「男子全員よ。男子全員と女子全員で喧嘩するの。」


「はあ!?」


 治子には総力戦をする意味が分からなかったので尋ねてみると、“ どちらが強いか分からせてやるためだ ”と言われたので、渋々ながら彼女も喧嘩に交ざることにした。


 帰りの会が終わると、みんながゾロゾロと校庭に向かった。みんな……といっても1クラス39人で1クラスしかなかったから、20対19という構図。別に整列して誰かが喧嘩開始の声を上げるわけでもなく、校庭のどこかで喧嘩が始まって、そこから波及して次々と対峙している友達同士で喧嘩を始めていった、という感じ。


 治子の目の前には佐藤琢磨がいて、彼も彼女を相手と定めているようだった。


 喧嘩って、どうすればいいんだ? と彼女は思ったが、彼が足を蹴ってきたので、彼女も彼の足を蹴り返した。お互いに示し合せたわけではないが、蹴りはしても拳骨は使わなかった。最後は地べたに這って取っ組み合いの攻防に発展したが、勝ち負けがはっきりする前に、誰かが泣き始めたところで男子対女子の喧嘩は幕になった。


 喧嘩が終わっても治子には喧嘩をした意味がよく分からなかった。おそらく誰にも分かっていないのだ。ただ、その場の勢いだけでやらかしただけという感じ。


 喧嘩の興奮冷めやらぬ中、朝礼台の前に男子数人が集まって話をしていた。


 なんでも今晩、肝試しをするとか。S町にもT町にも世間一般に流布されている怪談や心霊スポットのような存在は一切なかった。なにしろ世間の中にS町もT町も含まれていないのだ。もう少し範囲を広げてQ市まで見渡せば、Q市内で噂される心霊スポットは存在した。それと同様にS町、T町にも地元の小学生数人の間だけで噂される心霊スポットは存在した。


 S町の山の中腹には山姥やまんばが出る。

≪山姥と遭遇すると追いかけられる≫


 S町の山にある神社周辺に現われると言われる目腫めばれ女。

≪片目が腫れた女の幽霊。遭遇すると走って追いかけられ、捕まると失明させられる≫


 S町の山の坂道の脇にある肥え溜めは落ちたら底無しになっていて死ぬ。

≪実際には底はあるはずだが、落ちると二度と浮かび上がれない≫


 T町の西端、海岸の道路の行き止まりになっている部分の崖下には幽霊がいる。

≪幽霊が出る≫


 T町の山の坂にある観音様に悪戯すると呪われる。

≪お供え物を盗んだり、落書きしたりすると呪われる≫


 いずれも噂の域を出ないし愉快な話でもないのだが、子供たちは心のどこかでそうであってほしいと思っていた。

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