死んで花実が咲くものか 27
ファインダーを覗くと、画角に縛られた青年の姿がきちんと収まっていた。
カメラの撮影開始時刻を予約して、美佳は寝転がっているtamaの傍に腰を下ろした。公園に散歩に来ている人などに彼の拘束を解かれてはマズいから、自殺予定時刻30分前までは彼と一緒にいるつもりだった。
その間に携帯からサイトにアクセスして、現状をCR内に書き込んだ。場所の具体的な位置を書き込むと、誰かが“ オレも行こうか? ”と書き込んだが、もう準備はほぼ完了していたので断った。その方がtamaのためにもいいと思った。
遺書を書くと幽霊に負けたみたいだから、遺書は書かないと彼は言った。
気分はあまり良くないようだったが、1時間30分後には死んでしまうかもしれないのだから、それも当然か、と彼女は思った。
午後3時……突然、彼が身を捩り始めた。
「どうしたの? 苦しい?」
彼女が尋ねても、彼は必死に拘束を解こうともがくばかりで、彼女の声などまるで聴こえていないかのよう。
まるで彼が彼じゃなくなったみたい。
本人の意志が関係ないという話は本当だった。
これまでのCR内のやりとりで分かってはいたものの、現状のtamaの様子を見て、彼女は改めてそう痛感させられた。
幽霊が彼を学校へ行かせたがっている……?
彼女は用意していた割り箸を数本重ねて彼の口に噛ませると、バンドで割り箸と彼の頭を固定して割り箸を吐き出させないようにした。
カメラでの動画撮影を開始して、しばらくの間、彼女はジタバタする彼を観察していた。彼が通う学校まではどんなに急いでも40分は掛かる。エロスさんのときもこのような予告場所への移動を開始しようとする動きは見られたのだろうか、と美佳は思った。
erosの友人は
≪気が付いたらerosが死んでいて、そのときの時刻は午後6時20分頃だった≫
と言っていた。
では、いつ意識を飛ばしたのか……、ということになると、本人にも分からないようだった。だから美佳は迷った。自殺予告時刻の30分前まで一緒にいるつもりだったが、あくまでそれはerosの友人の書き込みが17時半にも為されていたからで、それをアテにしていいものかどうか……。
ひょっとすると、次の瞬間には私も意識を失い、エロスさんの友人のように、タマの自殺完遂のための工作を、私自身が施す羽目になるかもしれない。そして、その姿はカメラがきっちりと記録してくれて、言い逃れすることもできず私もブタ箱行きになるんだ……。
彼女はそう考えて、早々にこの場から離れることにした。
「タマッ、タマッ。」
少し離れた位置から、彼女は彼に呼び掛けた。
「4時半頃にまた来るから、待ってるんだよ? おしっこでもクソでも漏らしていいけど、でも、死んだらダメだよ?」
がんばって言い放った下ネタにクスリともしない彼を見て、彼女は少し顔を赤らめつつその場をあとにした。
公園を出ると、町中には学生服を着た人たちの姿がちらほらあった。




