死んで花実が咲くものか 23
40分ほどかけて閑静な住宅街の一角にあるtamaの家まで移動した3人。
まずはtamaが親に事情を説明し、それから治子に同席してもらい怪奇現象について説得力のある話をしてもらおうという話になったのだが、治子と美佳がtamaの帰還を待つこと約20分……、玄関から出てきた彼は2人に頭を下げた。
彼は父に話したらしかったが、自殺だの幽霊に殺されるだのといった与太話などどうでもいい、それより勉強しろと、まともに相手にされなかったようだった。
それでも10分間以上粘ったのだ。彼としては十分、父とやり合ったつもりだった。
彼は2人に無駄足を運ばせたことを謝り、
「次の月曜に本当に僕が死ねば、そのときアイツは今日の話を思い出すんだろう。」
と捻くれてみせて、
「でも、だからといって悲しむかどうかは知らないけれどね。」
と儚げな笑みを見せた。
治子も美佳も黙っていた。
治子は心中穏やかではなかった。
彼女自身の彼と美佳に対する態度は棚上げして、治子はtamaの父親に激怒していた。
親が真剣に悩んでいる子供と向き合わないとはどういう了見なのか、彼女には理解できなかった。その一方でtamaの気持ちは痛いほど分かるのだ。治子にも過去、親に打ち明けられなかった幽霊関連の悩みがなかったわけではない。彼女にできなかったことをいま、tamaは勇気を振り絞って実行したのだ。
一体これまでに誰が家族にこの怪奇現象による自殺を打ち明けられただろう?
最初の犠牲者であるmimiはもちろん、遺書がなかったtake、唯一遺書があったと報道されたyuiにしたって、現場に“ 先立つ不孝を許してください ”と、たった1行だけのメモを残しただけ。だからきっとyuiも家族に話していない。mamaとwakuwakuはどうだろう? erosは友人に協力を要請しこそすれ、家族に相談したのだろうか?
tamaの父に対し怒りを覚えた治子だったが、ここでtamaに甘い顔を見せるわけにはいかなかった。
少なくとも美佳とtamaの前では、治子はすっかりプロの霊媒師になりきっていたので、この稼業は顔で商売しているのだという自負が芽生えていた。舐められたらそこで終わり……。
「では、残念ですが話はこれで終わりですね。」
tamaは治子が怒っていると思って、もう一度短く謝った。
「失礼します。」
治子は一礼してその場を立ち去ろうとしたが、後ろ髪を引かれて、数歩進んだところで向き直り、改めて美佳とtamaの傍へ戻った。
「一応、自殺場所と時間だけは聞いておいてあげるわ。」
「と、いうことは?」
美佳が期待を込めて治子に尋ねた。
「死に場所にお花くらいは供えてあげようと思ってね。」
舐められてはならないので、治子は美佳に対し、思ってもいない返事をした。




