死んで花実が咲くものか 22
治子は初めて他者が霊現象だと認知した事件に関わることになり、不安と期待の両方を抱いていた。
不安というのはこの情報化社会の中で、自ら幽霊が見えると公言して見知らぬ人と接することにより、なにか不都合が生じないかという点。
期待というのはこの事件の解決がいくらになるか、という点。
彼女はtamaと会うと決めてからというもの、いろいろと妄想して、その果てに1つの理想に辿り着いた。
その理想というのは、死者数が増加してこの事件を誰もが知るところになり、警察が出動するも続々と自殺者は増え続け、事態を重く受け止めた国がついに治子に調査を打診する……という筋書き。その際には桁違いの利益を得られることだろう、と彼女は考えた。
だが、いまのところ自殺は一週間に1人のペースであり、年間で試算すれば約50人。現在の年間自殺者数が3万人であることを考慮すれば、3万人が3万50人になったところで誰も気にしないだろう。
量より質?
何人犠牲になるか、ではなく、誰が犠牲になるか。
例えば、開業医とか大物議員とか……。
大儲けは難しいかな……と彼女は思った。
そんな期待を抱いていた治子の前に現われたのは二人の学生で、しかも親に状況さえ説明していないという。まだ世間を知らないお子様相手だから、彼らには話だけなら通しやすいかもしれなかったが、財力は無に等しい。
まずは親に話を通させなければ始まらない、と彼女は思った。
tamaは親に言い難そうにしていたが、親に事情を話すのが死ぬほど厭だと言うのなら、そのときは諦めよう。事件が解決しないかぎり、まだ私にはチャンスはあるのだから。
治子の人を突き放したような事務的で冷たい物言いに対し、美佳が
「人の命が掛かってるのに!」
とキャンキャン吠えたが、いくつか治子と言葉を交わしたところで美佳も静かになった。
だが、美佳が治子に刃向ったことは、tamaには良い気付けになったようだった。美佳に触発された彼は渋々ながら両親に話してみると言った。きっとそれは彼にとって勇気の要ることなのだろう、と治子は思った。
「できれば親に話すときに、ハルさんにも同席してほしいんですが。」
思わぬ彼の言葉に面喰った治子だったが、少し思案して、今晩なら同席してもいいと彼に伝えた。
今日だけは“ 無料でお見積り致します ”の範疇だ。
善は急げと3人は喫茶店を出てtama宅に向かった。




