死んで花実が咲くものか ⑳
「あのぉ、すいません。児島治子さんでしょうか? 私、花沢美佳と申しまして、彼はタマというんですが。」
美佳が尋ねると、
「ええ、そうです。よろしく。」
と治子は微笑んだ。それから“ tama ”と書かれた厚紙をスケールから取り外し、伸ばしていたテープを巻き取り、鞄にしまった。
その脇でtamaが
「ミヤちゃんの本名って美佳っていうんだ?」
と言ったから、美佳は彼に
「タマはミヤでいいよ。リアルで付き合うつもりないし。」
と彼に釘を刺した。
「私もそっちのことタマって呼ぶから。」
「ミヤちゃん……。」
しょんぼりするtama。
「ごめんなさい、事情はよく分かりませんけど、呼び方ってのは大事ですからね。当人の意志を尊重してあげた方がいいですよ。」
目の前で交わされる2人の会話に治子が割って入り、tamaに告げた。
「私も昔、なぜか知らないけどマジ子って呼ばれてたことがあってね。それで当時はマジで?って言うときとか、みんなさ、マジコ?とかマジコで?とか、なぜかコを付けたりとか……、もちろん私としてはまあ、あまりイイ気はしなかったし、変だったから、ね? 当人が望まない呼び方は避けるに越したことはありません。」
どういう経緯で児島治子がマジ子になったのかが気になったが、“ なぜか知らないけど ”というんだから、聞かない方がいいのだろう、と美佳は思った。彼女はひとまず自分の主張の正当性を補完してくれた治子に一言礼を言ってから、彼女に幽霊が見える件について尋ねてみた。そのとき美佳は治子のことを“ 児島さん ”と呼んだ。それに対し治子は
「私のことは“ ハル ”でいいですよ。」
と言った。
治子だから、子を取ってハルかな?
「それから、幽霊が見えるって話は人にはあまりしていないんです。もし、一連の事件が幽霊の仕業だとして、仮に私が解決のためのお手伝いをすることになっても、あのチャットには“ 私の協力は得られなかった ”と書いておいてください。変な噂を立てられても困りますし、最近だとフェイスブックとかツイッターとか、いろいろな方法で噂が広がりますしね。情報が捻じ曲げられて1人歩きすることも考えられますので。」
美佳はこの話を受けて、治子は本当に幽霊が見えるか、もしくは本当に幽霊が見えると信じているのだろうと思った。幽霊の存在を微塵でも疑うような言葉は慎んだ方が良さそうだ。
「分かりました。必ずそのように書き込んでおきます。ね? タマ。」
「うん。今夜にでも書き込んでおきます。みんなハルさんと会ってどうなったかを知りたがってるでしょうし。」
美佳はtamaのことを“ タマ ”と呼んでいて、なんだか猫みたいだなと思った。
※捕捉
“ スケール ”というのはコンベックスやメジャーとも呼ばれる? 平たく言えば自動巻き取りギミックの付いた巻尺のことです。
“ テープ ”は目盛りが書かれている部分のことです。




