死んで花実が咲くものか ⑲
JRI駅前は薄暗くなりつつある中、ワゴンのケパブ屋の外国人髭面店主がオープンの支度を始め、ロータリーの脇では焼き鳥の屋台が威勢の良い白い煙を上げている。
tamaと書いたカードを掲げて、tamaを待つ治子。頭の隅っこで“ 死んで花実が咲くものか ”というサイトに関連する事件のことを考えながら、彼女は駅前の変わってゆく様子を眺めていた。
自殺者を続出させているこのサイトのことを教えてくれたのは琢磨だった。
彼が会社を辞めてからしばらくして、携帯電話にEメールが届いていたのだ。
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“ 死んで花実が咲くものか ”というサイトの“ 癒しの小部屋 ”というチャットを見てみて。そのチャットで自殺者が続出しているんだが、どうも様子がおかしいんだ。オレが言うのもなんだが、チャットで自殺予告をしている人たちは幽霊に殺されてるんじゃないかと思う。そこで、ハルにもチャットを見てもらって、幽霊が絡んでるかどうかを教えてほしいんだ。
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珍しい差出人の名前に、一体何事かと思ったが、メッセージを開いてみれば幽霊だなんだと来たもんだ。
あの琢磨が! ついに幽霊の存在を芯から信じるようになったか……
と思う一方、幽霊にやられ過ぎて不可解な事件をすべて幽霊の仕業だと錯覚するに至ったのかもしれない、と彼の言葉を疑いもした。
どれどれ、とサイトを見て彼女は驚いた。
治子の名前と勤め先を111という人物が書き込んでいたからだ。
すぐに治子は琢磨に電話を掛けたが、繋がらなかったのでクレームのメールを送るに留めた。同時に幽霊の仕業かもしれないという彼女の見立てもメールに書いたのだが、結局、いまも琢磨からの返信はない。
幽霊の仕業かもしれない、とは思ったものの、パソコンの画面上に現われる文字だけでは確信は得られなかった。あくまで、かもしれない、というだけだった。だから当初はこの問題に積極的に関わろうとは微塵も思っていなかった。なのに、CR内に“ 治子を訪ねてみよう ”という書き込みが為され、その後の一連のやり取りから、彼らが本気で会社に乗り込むつもりなのだ分かると、彼女は勇気を振り絞ってCRに入り、会社には来るなと書き込んだ。
彼女には人助けをするつもりはなかったのだ。
ただ、興味があった。
仮にこのサイトの事件に幽霊が絡んでいるとして、その幽霊は幽霊自身と関わり合いの薄い他人を積極的に死に追いやっている。では、その幽霊とは一体どんな奴なのか……、という点に加え、治子が持つ特異な力が商売になり得るか、ということに対して。
とはいえ、治子もこの件についてはまだ半信半疑だったから、約束の時間を1秒でも過ぎればコープに寄って帰るつもりだった。
約束の時刻の5分前。
治子の前に現われたのは学生の2人組だった。




