治子6歳の戦い ⑯
今夜、自分が殺されるかもしれない……あまり実感は湧かないものの、治子はそう考えていた。重信は生前の知り合いを殺して天国へ一緒に行こうと思ったに違いない。1人目で失敗し、2人目、3人目も失敗……おそらく3人は現世に現われることなく、さっさと天国へ行ってしまったんだわ。
同い歳の友達の勧誘に失敗して、次は誰を狙う?
霊を見ることができるという特殊技能を持ち、かつ死後の伊藤重信と面識がある治子が狙われる可能性は高いように彼女には思われた。
その推測を両親に伝えると、両親は困惑した。
「なにを馬鹿なことを言ってるの? こないだ除霊してもらって、もう幽霊はいなくなったんでしょ?」
母が治子を責めるように尋ねた。
「いなくなったのに気付いたのはお経の後だったけど、実際はお経が始まる前には外に出てたのかもしれない。」
両親とも治子の不吉な予言に目眩がした。除霊できていないばかりか、すでにその幽霊は3人を天国への道連れにしようとして殺害し、次は治子の番かもしれないというのだ。
「でも、あれからその幽霊の姿を見たわけではないんでしょ?」
治子の言葉を否定したいがために、母は除霊が為されたことを肯定するための材料探しに躍起になった。だが、治子との質疑応答だけでは不安を拭い切れず、母は一人で伊藤宅へ出掛けた。
戻ってきた母が言うには、母は伊藤家の御仏壇に手を合わせてきたのだという。手を合わせた理由を伊藤家には話していない。ただ仏前で娘を連れて行ってくれるなと重信に懇願してきたのだ。
それから治子の身を案じた両親は、治子をT町に住む母の妹にしばらく預けることにした。家にさえいなければ、重信には治子の居場所が分からなくなるのではないかと考えたのだ。
叔母夫婦は治子を預かることを了承した。
叔母夫婦には4歳と1歳になる2人の娘がいた。
治子は4歳の子と一緒に1歳の子をあやしたりお絵描きをしたりしながら遊び、夕飯とお風呂をご馳走になり、夜、少し緊張しながら、叔母の隣で眠る4歳の子と並んで眠った。




