治子6歳の戦い ⑮
翌日、仕事から帰ってきた両親が黒の礼服に着替えていると、電話が鳴った。
その電話は羽藤静子の死亡を知らせるものだった。
治子は羽藤さんの住むアパートに祖母と一緒によく遊びに行っていたし、近所の公園で行なわれた町内の運動会では羽藤さんと一緒に手を繋いで走ってもらったこともあった。
だから羽藤さんが亡くなったという報せは、隣の左官屋の爺さんの死の報せよりも治子にとっては現実的なものだった。といっても泣いたりしないし、まだまだ他人事だった。
その翌日には町会長が亡くなった。治子にとって町会長は稀に児島家を訪れる人物くらいの認識しかなく、訃報に接してもなんとも感じなかった。
ところがさらに翌日、羽藤さんと同じアパートに住む田口さんが児島家を訪れ、S町内で三日間連続で死者が出たことについて母と話しているのを聞いていて、不意に厭な予感に囚われた。
「3人とも78歳だったんだって。この町は呪われてるって吉野さんが言ってたけど、まあ3人とも死んでもおかしくはない歳よねぇ。」
78歳といえば、伊藤重信も存命であれば78歳だったはずだ。
「4日連続なんてことにならなければいいけれど。」
「大丈夫よ。もうS町内に78歳の人はいないから。78歳以上の人はゴロゴロいるけどね。」
治子はハッとした。もう重信の生前の友達はいなくなった。そして、死者が1人ではなく、3人である理由。
彼女は今夜、伊藤重信が児島家にやってくる気がした。
彼はやっつけられてなんていない。
生前の友達を仲間に引き入れるために、私の傍を離れただけだ。そして、おそらく仲間に引き入れようという目論みは失敗している……と彼女は思った。
母と田口さんの会話に耳を傾けながら、治子は仰向けに寝っ転がり、天井を仰ぎ見てそんなことを考えながら、う~……と唸った。




