治子6歳の戦い ⑭
千堂による除霊が終わると、これまで治子に付きまとっていた重信が姿を消していた。
重信があまりにもあっけなくいなくなったことに、彼女は少し違和感を覚えた。だが、もしかすると、眠ってしまっていたから、彼の最期の断末魔が聴こえなかっただけかもしれないと彼女は思った。
除霊の成功に気を良くした両親は、さらに治子への祈祷を千堂にお願いした。どうせなら霊が見えるという面倒な性質も取っ払ってもらおうと考えたのだ。
追加料金8000円と10分を費やし、治子の祈祷を済ませた。それから千堂宅を出て、適当なレストランでお昼を食べたあと、家路に着いた。
治子は重信を遠い地に置いてきぼりにしてしまう気がして、駐車場までの道すがらキョロキョロと辺りを見回して彼の姿を探したが、結局、彼の姿はどこにも見当たらなかった。
日没前に家に着き、治子は久しぶりに重信のいない一家団欒を迎えた。
母が夕食の準備をしていると、外から救急車のサイレンが聴こえ、近所で止まった。
「まあ、誰か倒れたのかしら?」
母が眉間に皺を寄せた。
夕食後、テレビを見ていると電話が鳴った。
母が電話に出た。
電話口で母が「ええッ?」と驚きの声を上げた。
電話を終えた母が父に告げた。
「佐藤さんのおじいちゃん、さっき死んだんだって。」
佐藤さんのおじいちゃんというのは治子の隣の家の左官屋の爺さんで、治子が友達と家の前の駐車場で遊んだりしてると、ときどき写真を撮ってくれたりしたものだった。今日の夕方、彼は前触れもなく倒れて救急車で搬送されたが、搬送後まもなく死亡が確認されたのだという。享年78歳。
「通夜は明日か?」
「そうでしょ?」
「つい一週間前まで今度夜釣りに行くって言ってたのに、分からんもんだな。」
「まあ、寝た切りにならずにポックリ逝っただけよかったんじゃない?」
「まあな。」
治子は相変わらずテレビを見ながら、そんな両親の騒々しい会話に鬱陶しさを感じていた。




