治子6歳の戦い ⑬
まず、千堂は幽霊について簡単な説明をしたあと、続けてお金の話をした。
幽霊とは成仏できない霊魂であり、常に誰かに悪さすることを考えて現世を彷徨っている。これを祓うには浄霊と除霊という2つの方法があり、それぞれ菩薩や不動明王の御力を借りて霊を祓う。浄霊は3日間コースと7日間コースがあり、除霊は1日で決着する。料金は浄霊で3日間コースが1万8千円、7日間コースで3万8千円、除霊は2万8千円。
両親はその料金設定に一瞬困惑したものの、千堂が地獄の沙汰も銭次第と申しますとそれらしく言うと、娘のためだと腹を決めて、コースと料金の説明を求めた。
浄霊は菩薩の御力で霊を極楽浄土へ導くもので、成仏させるのが目的だ。成仏した霊は二度と現世に戻って来ないため、霊を祓うのに最適な方法といえる。一方、除霊は明王の御力で以って、霊を力づくで死後の世界へ導くもの。輪廻を経てまた現世に姿を現わさないともかぎらないので、こちらは確実に霊を祓えるとは言い難い。
料金は確実性と所要時間の兼ね合いで算出したものだ。
こうした説明を受けて、両親は少し相談したのちに除霊を選んだ。三日間も七日間も幼い娘を他人に預ける気にはなれなかったし、父、母、姉にも明日があるのだ。手っ取り早く済むならそれに越したことはない。
除霊の間は母が残り、父と姉は外へ出てしまった。除霊なんて退屈な儀式に小学二年生の姉を付き合わせるのが忍びなかったのだ。
除霊に際して、千堂は線香を焚き、祭壇に向かってお経を唱えた。お経はいつ終わるとも知れないほどの長さで、じっとしているのが苦手な治子は途中で眠ってしまった。母も眠ってしまった。
千堂に起こされたとき、すでに除霊の儀式は終わっていた。
「あら? すいません、ここのところ寝不足だったもので。」
母が朗らかに言い訳した。二人が居眠りしていたことなど全く意に介していないといったふうに千堂は微笑むと、治子に尋ねる。
「霊はまだくっついてますか?」
治子はサッと後ろを振り返り、部屋の出入り口に目を向ける。
そこに重信の姿はなかった。




