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治子6歳の戦い ④

 重信が治子にずっと付いてきたものだから、玄関前で一悶着あった。


 彼女の帰ってくれという懇願に頑として応じない彼に、彼女はついに入ってくるなと彼に命じておいて、玄関の引き戸をガンッと乱暴に閉めると急いで鍵を掛けた。そんな彼女の一連の動作を嘲笑うように、彼はスーッと引き戸を透けて土間に歩を進めた。


 治子は重信を追い払うのを諦めた。


 2階の子供部屋へ上がり、彼女は自分の椅子に、彼は治子の姉の椅子に腰を下ろした。そして、1階にいる母に聴こえないように声のトーンを落として彼と話をした。


 伊藤重信は大正14年にS町を襲った土砂災害で命を落とした。いまが平成9年で、彼の死亡時の年齢が6歳だから、存命であれば78歳ということになる。なぜ成仏できていないのか、なにか心残りでもあったのか、そういったことは一切不明。いつもはとても暗いところに居るらしいのだが、ときどき、なにかの拍子に気が付けばS町に居るのだという。


 なお、彼にお化けの友達はいない模様。いままで誰にも気付いてもらえた試しがない、と彼は言った。このことから、お化け同士はお互いを認識できるのか否か……という疑問が湧いた。といっても、彼がお化けを見かけたことがあったにせよ、それをお化けだとは思わなかったという可能性もあった。なにしろ彼女がこれまでに出会ってきたお化けというヤツは、無口でどこを見ているのか分らないようなのが多かったから。


 これでは当初の目的であるお化けを見分ける方法を教えてもらうというのも無理だと彼女は思った。


 彼はずっと一人ぼっちだった。

 彼にとって彼女は自分の存在に気付いてくれた唯一の人だった。

 だから一緒に遊ぼうよ、と彼は言った。


「無理だよ。お化けとなんて一緒に遊べるわけないじゃん。」


 彼女は彼のお願いをあっさりと断った。


「だって、ハルちゃんだけなんだもん。僕、ずっとハルちゃんと一緒にいる。」


 彼のその言葉に彼女は背筋が凍るのを感じた。

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