治子6歳の戦い ②
すいません
東西南北の表記にミスがありましたので、訂正しました
治子の住むS町は西に海が広がり、東は山を背にした小さな町だった。町自体は山の坂道に作られた小さなものだったが、海と山を分断するように南北に延びる片側二車線の道路により大きな町へのアクセスは良く、決して辺鄙な土地というわけでもない。西側は一昔前にいろいろあった関係で、いまは町の人たちは立ち入れない区画になっている。その区画はS町ではないから、S町に海はない。
ただ、少し山の坂道を上れば日の光をキラキラ反射させる穏やかな海とN半島の横ッ腹を見渡せたし、海沿いのエリアを占拠してしまった工場群に加え、長い煙突から立ち昇る真っ白な煙も見上げることなくまっすぐに見通せて、近寄ることも触れることもできなかったが、S町の風景には確かに海があり、治子はそんな風景を眺めるのが好きだった。
男の子は山の坂道の上の畑の中、年代物の柿の木に背を預けて座っていた。
「なにしてるの?」
治子が尋ねると、彼は彼女の方を向いた。
彼女は彼の隣に腰を下ろし、名前を尋ねてみた。でも、返事はない。彼女は柿の木に登り、柿を1つ採ると、小刀で皮を剝いて彼に切り分けた柿を差し出した。
「早く取ってよ。」
彼をせっつくと、彼が慌てた様子で手を出したので、彼女はその手の平に柿を乗せた。
柿が手の平に乗った。
彼は“ お化け ”じゃない?
一瞬、彼女は考えた。
これまでの経験上、“ お化け ”は物質を透過するのだ。柿を受け取れたということは、彼はお化けではないのかもしれない。
「お化けじゃないの?」
彼女は思い切って直接尋ねてみた。
「僕、伊藤重信。」
「私は児島治子っていうの。」
伊藤重信……やっぱり知らない子だよね。
S町に伊藤性の家族はいるが、重信という名は聞いたことがなかった。だが、物が透過しないということは、彼は“ お化け ”ではないのだと治子は結論付けた。
治子は重信と友達になり、保育園から帰ると保育園用のねずみ色の上着を脱ぎ捨て、山の坂道を上って毎日のように重信と遊んだ。一緒に虫取りをしたり、落とし穴を掘ってみたり、駄菓子を買ったり。
しばらく二人は仲良しだったが、治子の友達も交えて遊ぶことになったとき、二人の仲に亀裂が走った。




