死んで花実が咲くものか ⑯
翌日、部活をしていない美佳は終礼が終わると同時に鞄を肩に掛け、さっさと帰路に着いた。
「なんかぁ、校門の前にZ高の男がいるらしいよ。それが超カッケェんだって。」
「ふ~ん。なんだよ? Z高のヤツとデキてるヤツでもいんの?」
靴箱の前で、女子二人による不穏な会話が聴こえてきた。
まさか……と美佳は思った。
まさか、tamaが来ているなんてことないよね? と思いながらも、彼女は万一に備えて正門ではなく裏口の方から外に出た。
左右を警戒すると、視界に大きくtamaの姿が映った。
なんで!?
「ミヤちゃん!」
彼が近づいてきたので、牽制の意味で「なんか用!?」と間髪入れずに尋ねた。
昨日、警察に突き出すという荒業を断行したから、彼はその腹癒せに来たのかもしれない……と彼女は考えていた。
彼の出鼻を挫くためにも、彼女としては彼の方が悪かったのだと思わせなくてはならならず、だから強気な態度で応じる必要があった。
「昨日のこと、まだ怒ってんだ?」
???。
「怒っていないように見えますか?」
ここで彼女には彼の目的が分からなくなった。
昨日の出来事にまったく堪えた様子のない彼。だから彼女はそれ以下の行為……例えば彼を罵るだとか、そういったふだんは絶対誰に対してもしないようなことをすることにもためらいはなくなっていた。それに、彼には攻撃的に接しなければ、自分がやられてしまうのではないかという恐怖があった。
人見知りでおとなしい彼女とは感性が異なる、異次元の生物……彼女にとって彼はそんなふうに見えていた。
彼女はこれまでの人生でこんな目をしたことがないというくらいの鋭さをもたせたつもりで、彼を睨みつけた。
睨みながら、改めて彼のことをよく観察してみた。
確かに、靴箱のところで女の子が話していたように、顔はカッコいい。この手のカッコいい男子というのは、カッコ良過ぎて気遅れしてしまうから、美佳にとっては恋愛対象外だった。
そんな男子が、いまは彼女の一睨みで委縮してしまっていた。
「ご、ごめん。」
「なにが?」
彼女は彼のことをすでに嫌いな奴と決めていたから、一切の妥協をしなかった。
「なんで怒ってんのかよく分かんないけど、ミヤちゃんが怒ってるって言うから、とにかく謝っとかないとって思って……。」
彼のヘンテコな回答に彼女は思わず吹き出しそうになった。ギャグかなにかだと思わないと、会話として成立しているのかどうかさえ分からなくなりそうで。
「それって謝る必要あったの? 私もなに謝られてるのか分からないし、気持ち悪いんだけど。」
Z高が進学校ということもあり、彼女には彼が特別馬鹿なのではなく、ただ人を舐めてるのだとしか思えなかった。
それから二言三言、言い合ったあと、彼女は彼を放っておいて帰路に着いた。
一人になって彼が一週間後に自殺することを思い出して後悔した。
でも、あいつって目の前にいるだけでなんだかムシャクシャするんだよね……。




